第15話 冒険者と王国兵士、盗賊殲滅の為に合流する


 リュートと別れたガンツ、カズネ、リック達は、マクベスが操る荷馬車に乗りながら護衛を続けていた。

 全員がリュートとの出会いの余韻に浸っていた。

 まず口を開いたのはマクベスだった。


「リュートさん、不思議な若者でしたね」


 マクベスの言葉に、ガンツのパーティ全員が頷く。

 異常とも言える弓の腕前を持っていて、女性を簡単に魅了する甘いマスクをも持っている。

 だが、田舎暮らしで世間知らず。そして訛りがかなりきつい。

 でも気さくで話しやすく、ガンツとリックはちょっと世間知らずな弟が出来たような気分だった。

 カズネはリュートの端麗な顔立ちに魅了された一人で、骨抜きにされている。

 

「彼の旅は、恐らく容易な物ではなく、様々な出来事が立ちはだかるでしょうね」


「ああ。あいつはこれから、田舎では味わえなかった、都会特有の良い事と悪い事を目の当たりにして、沢山悩むだろうな」


 ガンツは腕を組んで、しみじみと語る。


「あいつの弓の腕を利用しようと考える輩だって出てくる。それは冒険者でも貴族でもそうだ。そして、女性関係でもかなり悩まされるだろうな」


 ガンツから女性関係の話が出て、びくっと体を震わせるカズネ。

 他の女性も、彼を狙うという事実に不安を覚え、身体が強張ってしまう。

 そしてリックがけらけらと笑いながら、冗談を言った。


「でもさ、きっとリュートの事だよ、もう面倒事に巻き込まれてるって僕は予想するなぁ」


「あり得る話だからそういう事言うなよ。ほら、《流れ人》用語でこういうのを《フラグ》って言うんだろう?」


「そうそう! リュートはフラグを沢山立てそうだよね」


「リックさん、笑えない冗談はやめてください!」


 リックの冗談にちょっと怒り気味でカズネが言う。

 内心カズネも「本当フラグが立っちゃいますから!」と思っているからだ。


 そう、フラグとはいつも唐突に回収されるのだ。


「ん? あれは……王国兵士の集団ですね」


 マクベスが前方で集団を発見する。

 約百人規模で、銀色の鎧で統一されていた。

 そしてラーガスタ王国の紋章が縫われた旗を掲げている。

 ラーガスタ王国が誇る王国兵士の集団で間違いなかった。

 ガンツも身を乗り出して前方を見つめる。


「……百人規模。魔物討伐にしては人数が多すぎやしないか?」


「そうだねぇ。王国兵士は実力者集団だから、魔物の間引きにしては人数が多すぎると思う」


「大規模の盗賊の殲滅か?」


「……可能性は有り得ますね」


 マクベスは馬を操って道の脇に移動し、王国兵士たちに道を譲った。

 かなり急いでいる様子なので、進路を妨害しないようにした方がいいと判断したのだ。

 すると、先頭にいた兵士が更に速度を上げ、マクベス達に近付いてきた。


「失礼、荷馬車にいる君達は冒険者とお見受けするが?」


「ああ、その通りだ。オレはリーダーのガンツ。敬語はちょっとうまく使えないから、口調は勘弁してくれ」


「わかっている、冒険者はそういうものだと理解しているので問題ない。それで、護衛中である事は百も承知だが、緊急で依頼したい」


「確かに俺達はこの商人の護衛中だが……それを中断させるほどの依頼なのか?」


「ああ。この先のザナラーン町が盗賊に襲われている。盗賊はあの《無限の渇望者の使徒》だ」


「ま、マジか!?」


 ガンツ含め、全員が驚いた。

 特にカズネに関しては眉間にしわを寄せている。

《無限の渇望者の使徒》。

 自らを《ル=ディナ・ン》の使徒だと言い、集落を一つ滅ぼすまで命も含めて奪いつくす極悪集団だ。

 そして同時に、魔法使いにとっては嫌われる存在であった。

 魔法を使える人間からしたら、超常的存在の名を拝借する事は自殺行為に等しい。

 例えば《ル=ディナ・ン》の悪口を言えば、何かしらの罰が魔力を通して執行される。この罰はその時の機嫌の良さだったり超常的存在の性格によって大きく変わる。

 酷い時は魔力を暴走させられて都市一つを消し飛ばせる爆発を起こされてしまう。

 つまり、この集団は相当な罰当たりなのだ。且つ、魔法使いは存在しない事も同時に語っていた。魔法使いがいたら、今頃この盗賊は存在していないのだから。


「ねぇガンツ、リュート、巻き込まれてるよね」


「……そうだな、リック。お前が不吉な事を言ったばかりに、早速フラグが回収されたぞ」


「リックさん、嫌いになりそうです」


「カズネ、止めて。その目は本気でやばいからやめて!」


 正直この依頼を受けたいのがガンツの本音だ。

 リュートには助けてもらった恩もあるし、王国兵士からの緊急依頼を受ければ、自分達の今後の冒険者活動に箔が付く。

 ガンツはマクベスに視線をやると、彼と目が合い、深くうなずいた。


「ガンツさん、行ってあげてください。ここから先は王国兵士様方が通ってきたという事は安全だという事です。兵士様方は《レイナス町》側から来られたのですよね?」


「その通りだ、商人。魔物はほぼ間引きながら進軍していたから、道中は安心できるだろう」


「ありがとうございます。という事ですので、安心して兵士様の依頼を受けてください。冒険者ギルドの方には事情を説明して、ちゃんと成功している旨は伝えておきますので」


 マクベスにそう言われ、ガンツはしばらく考えたのち、王国兵士達の緊急依頼を受ける事にした。


「マクベスさん、最後まで依頼を受けられなくてすまない」


「大丈夫ですよ。それより、私の分までリュートさんへ恩を返してください」


「ああ、わかっている」


 ガンツとマクベスは固い握手をする。


「すまん、待たせた。えっと、あんたの名前は?」


「私は《ゼニス》という。今回の盗賊殲滅の責任者だ」


「よろしく、ゼニス。改めて俺はガンツ、役割ロール盾役タンクだ。そして斥候も出来る攻撃役アタッカーのリック、魔法攻撃役アタッカーのカズネだ」


 リックとカズネはゼニスに対して軽く会釈する。


「うむ、よろしく頼む。正直猫の手も借りたい状況だったので、冒険者諸君が依頼を受けてくれた事、大変ありがたく思う」


「いや、実はオレ達の知り合いがさっきザナラーン町に運悪く寄ってしまったんだ。彼には恩があるから、正直彼を助けたいという気持ちが強いんだ」


「……成程、ならば余計急がねばならんな。下心があるにせよ、我々は非常に助かる。よし、そこの君達三人! 冒険者諸君を君達の馬に相乗りさせろ! そして総員、進軍速度を速めるぞ!!」


『はっ!!』


 ガンツ達はそれぞれ、兵士の馬に相乗りさせてもらい、ザナラーン町を目指す。

 

「頼む、リュート。無事でいてくれ!」


 自然と、武器を握る手に力が入った。





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《流れ人》

 この世界より高度な文明の知識・前世を持ちながら生まれた、若しくは異世界からそのままやってきた人間の事を指す。

《流れ人》はその知識を活かして好き勝手やるので、この世界の住人からはあまりよく思われていないのだが、貴族などの上流階級からしたら喉から手が出る程欲しい存在。

《流れ人》本人の性格などによるが、奴隷のような扱いを受けたり、村八分状態になる者が大半であり、今世界中で《流れ人》の扱いについて頭を抱えている状態である。


《フラグ》

《流れ人》の大半が口にする言葉。

 何かよくない噂をすると、それが高確率で実現するという迷信に近いもの。

 しかし言い得て妙だというので、この世界の住人にも言葉が浸透してきている。


《魔法使い》

 体内に魔力を生成できる《魔導管まどうかん》と呼ばれる内臓を所有している、非常に稀有な存在。

 魔力を操作し、他世界にいる超常的存在を結び付けて、彼等の力を借りて魔法を繰り出す事が出来る。

 魔法使いが放つ《詠唱》は、自身の魔力を指定した超常的存在に結び付けやすくする為のもので、同時にどういう力を借りたいのかを伝える目的もある。この詠唱には《賛美詠唱》というものがあり、超常的存在を褒め称えて力を借りるのだが、詠唱を間違えたり噛んだりすると怒りを買い、あらゆる不幸が訪れる。

 また、魔力を持った人間が超常的存在に対して悪口や文句を言うと、ほぼ確実に何らかの致命的な罰が与えられるので、生きていく上で自身の発言に気を使わないといけないというデメリットを抱えている。

 自身の魔力をそのまま使う《無属性魔法》も存在しているが、そもそも三種類と特別な魔法の計四種類しかなく、あまりにも魔法としては非力で心許ないので、大体の魔法使いは超常的存在から力を借りている。


《超常的存在》

 この世界には、人間達が住んでいる《現界》の他に、《精霊界》《魔界》《天界》という他世界が存在している。

 魔法使いは魔力を使って他世界に干渉する事が出来る。

 現在精霊界では二十体、《魔界》では六十八体、《天界》では三体程の力を借りて放てる魔法が存在している。魔法の種類は合計で六百以上だが、全てを使える魔法使いは存在しない。

《魔界》の超常的存在は、何故かダンジョンの最下層にいる事が多く、その者を《ボス》と呼んでいる。

 現在人類がダンジョンを制覇したのは歴史上で三回程度であり、制覇した時に使用できない魔法が出てきたので、今ボスを討伐するのを止めて共存した方がいいのではという声が上がり始めて問題になっている。

 ちなみに、《魔界》の超常的存在が何故ダンジョンのボスとなっているかは不明で、彼等とコンタクトを取った人間は存在しないと言われている。

 現在有力な説は、ダンジョンを通じて現界に進出しようとしている、というもの。

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