第11話 田舎者、魔法を知る
急いでいた先で偶然助けた行商人であるマクベスに護衛として雇われ、同じく護衛として雇われていた冒険者三人組と共に荷馬車に乗る事になったリュート。
自力で走るよりスピードは若干遅いが、こちらの場合は体力を気にしなくて良い為、後の事を考えたら圧倒的に効率よく進む事が出来た。
現在辺りは既に暗い。
しかし停止せずにそのまま荷馬車は進む。
実は理由があり、この付近は最近ゴブリンの目撃情報が多数寄せられており、野宿をするのは非常に危険なんだとか。
そういった理由から、現在夜間でも強行行脚で約十
ランザの村は人口は少ないながらも、旅の中継地点としてよく使われている場所であり、馬の世話もやってくれる小さな宿屋もあるとの事。そこで夜を明かす予定だったのだ。
そして道中、リュートは冒険者三人組と軽く自己紹介し合った。
「オラはリュートだ。弓で上を目指すんで、王都さ行く所だ。よろすく」
相変わらずの女性からモテそうな容姿に似合わないきつい訛りで話すリュートに、冒険者三人組は苦笑した。
「オレはガンツ。見ての通り重戦士をやっていて、
「ろーる? たんく?」
「あぁすまん。ロールは役割、タンクは盾役とか引き付け役って意味だ」
「ああ、わかっただ」
ガンツから握手を求められ、手を握るリュート。
成程、冒険者とはこのように役割を決めるのだなと、リュートは思った。
見るからに重そうな装備をしていて、体躯は鎧越しでも相当良いのがわかる。まるで熊を連想させるほどの大男だ。
そして赤い短髪で不精髭を生やしており、野性味あふれる顔立ちをしていた。
しかし何となく、面倒見はよさそうだなと感じた。
「次は僕だね! 僕は《リック》、
リュートはリックとも握手を交わす。
身長はリュートより小さい小柄な男だが、装備も軽装だし得物はナイフなので身軽な動きが得意そうだと感じた。
正直まだ十代前半と言われてもおかしくない程童顔で、表情はコロコロと変わるので見ていて面白い。
髪は金色の長髪だが、後頭部でまとめてポニーテールにしている。
「えと……私は、その……《カズネ》と言います……。
ずっと下を向いてモジモジしているカズネは遠慮しがちで握手を求めてきた。
とりあえず手を握ると、小さく「ひゃっ」と声を上げるカズネ。
ちょっと気になる反応ではあったが、リュートはもっと気になる事があった。
「……まほう?」
リュートが住んでいた村には魔法使いはいなかった。
その為、リュートは魔法の存在を知らなかったのだ。
「えっ……魔法、ご存じないですか?」
「しらね。オラの村でそんなの使ってる奴いなかっただ」
「じゃ、じゃあ魔法の説明をしますね」
カズネは魔法の説明をし始める。
「魔法っていうのは、魔力を使って私達が住む世界と異なる場所に存在している、超常的存在から力を借りて、人間だけじゃ起こせない『不自然な自然現象を起こす』方法の事を言います」
「ちょ、ちょうじょうてきそんざい……? 不自然な自然現象……?」
「えっと、ごめんなさい、難しく言いすぎてしまいました……」
恐らく魔法使いであるカズネにとっては常識なのだろうが、無知なリュートにとっては非常に困難な話だった。
「カズネ、そこの部分はオレが説明できるから変わろう。まず、超常的存在についてだ。現在我々が存在している場所を《現界》と呼んでいる。さらに自然を維持する存在である精霊が住んでいる《精霊界》、魔物やその上位の存在がいる《魔界》、最後に全ての世界を管理・調整している神々やその使いがいる《天界》の四つの世界が存在している」
「……ほへぇ。だけんども、オラ達には見えてないだよ?」
「そうだ。それぞれの世界が干渉できないように神々が世界を分けて、そして見えないようにしたんだ」
「なしてそんな事するだ?」
「そこはまだ理由はわかっていないが、《現界》以外の存在はかなり強力な存在で、《現界》にいると世界が滅んでしまう可能性があるから、とは言われてたりするな」
「なるほどな」
リュートはそういう世界があるんだと、記憶した。
ちなみにリュートはあくまで無知なだけであって、頭が悪いわけではない。
その為、このような疑問もすぐに浮かぶのだった。
「じゃあなして魔物は、えっと……《現界》に出てきてるだ?」
「ふむ、それはダンジョンが関わっていると言われているな」
「ダンジョンが?」
「そうだ。《魔界》には人間以上の知恵を持ち、人間では届く事が出来ない程の力を持っている存在が
ガンツがとんでもない存在がいると言い切った。まるで確証があるかのように。
そこが気になったリュートだが、まずダンジョンの事を聞いてから後で質問しようと優先順位を下げた。
「そんなトンネルに、なして財宝があるんだ?」
「まぁそれもあくまで仮説でしかないんだけどな、《現界》にある目に見えない何かと《魔界》にある目に見えない何かがダンジョン内で重なり、何かしらの反応を起こして財宝が生まれているのでは、と考えられている。現にダンジョンが深ければ深い程、強力な財宝が眠っていたりするんだ」
「はぁ、なるほどなぁ。ちと気になったんだけんど、さっきガンツはすんげぇ存在がいるって言い切っただ。何か存在がいる事を証明できるだか?」
「ふふ、ちょうど今それを話そうとしたんだ。だが、ここからは専門家の方がいいだろうな」
ガンツはカズネに視線を送り、話の続きを促す。
「えっと。人間には一部の人に《魔力》という他の世界へ干渉する為の目に見えない紐みたいなものを送れる人がいます」
「……紐?」
「はい。その紐を力を借りたい存在に送り、《呪文》という言葉を発して超常的な存在に力を借ります。そうですね、ちょっと実演しましょう」
するとカズネは空に掌をかざし呪文を唱え始めた。
「《我は求める、其の渇きを満たす強欲の手を。我は欲する、全てを捕える栄光の手を。闇の彼方で光を求める其の前で、我と其と共に、互いの渇きを満たそう》」
カズネが呪文を唱え終わると、宙に紫に発光した魔法陣が浮かぶ。
この魔法陣は巨体であるガンツよりも大きく、周囲の空気が重苦しいものに変わるのをリュートは感じた。
と同時に、未知の技術を目の当たりにして、軽く感動していた。
「いきます! 《
すると魔法陣から、魔法陣と同じサイズの巨大な黒い腕が出てくる。
そして夜空に見える星を掴もうとせんばかりに、腕は永遠と伸びていく。
「……終了」
カズネがそう呟くと、腕も魔法陣も消滅し、何事もなかったかのような静寂が戻ってきた。
しかし、カズネの全身から力が抜けたかのようになり、荷馬車の背にもたれてしまった。
「これが《魔界》にいる、《無限の渇望者 ル=ディナ・ン》から、力を、借りた魔法、です」
「……そんな奴らがいるから、魔法が使えるっちゅう事か」
「そう、です。実際、ダンジョンで、魔物の上位存在が、討伐された時……いくつか魔法が、使えなく、なりました」
つまり、人間にとって脅威でもあり欲望を満たす場所でもあるダンジョンを対処すればするほど、人間の強みである魔法に制限がかかってしまう。
よく出来た仕組みだ。
しかし、人間側もただじゃ転ばない。
「カズネがしんどそうなのでオレが説明を変わろう。人間もなかなか欲が深くてな、ダンジョンでは常に新しい上位者の存在が確認される。なら、そっちがダメになったら新しい存在から力を借りようと考えるのさ。それが《魔法学》だ」
「……それ、学とか偉そうに言うとるけど、寄生虫みたいに新しい宿主を探そうって意味でねか?」
「なかなか的を得てるなぁ。まぁ魔法にも種類があってだな、精霊の力を借りて生活にも役立つし自然の力を利用する《精霊魔法》、魔物の上位存在の力を借りて大爆発などの破壊の力を生み出す《黒魔法》。そして傷を癒したり欠損箇所を修復したりできる神の御業を再現できる《神聖魔法》の三つが、現状人間が使用できる魔法だ」
「ほうほう、また頭良くなっただよ、ありがとなガンツにカズネ」
「どういたしましてだよ」
新たな知識を学んだリュート。
これを活かす機会が訪れるかは謎だが、知っておいて損はないだろう。
やはり村を出てよかった。
どれだけ自分が無知だったかを知る事が出来た。
きっとこの先、まだまだ自分の知らない事が沢山あるだろう。
それらを目の当たりにする事が出来るという事実に、リュートは内心ワクワクしていた。
「……ねぇ、僕の存在忘れられてない?」
この間一言も喋らなかったリックは、当然ながら忘れられていた。
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