第12話 田舎者、王都に近づく――が


 旅は恐ろしい位に順調だった。

 マクベスの荷馬車を護衛しながらの旅だが、歩くより圧倒的に速かったのだ。

 襲ってくる魔物達はガンツ達のパーティと協力して排除し、小休憩以外は特に歩を止める事なく進める事ができたのだった。

 今のペースで行けば、何とか二週間以内に辿り着けそうだ。


 マクベス達と同行出来るのは、次の休憩拠点でもある《ザナラーン町》で最後。

 彼等は別の目的地となる為、ザナラーンで別れる事となる。

 そしてザナラーンから馬車の定期便を利用すれば、約四日で王都に辿り着く事が出来るという。

 かなりの強行行脚ではあったが、これなら王国兵士の募集に間に合うペースだった。


 この旅は、リュートにとっては非常に有意義なものであった。

 マクベスやガンツパーティに、様々な事を教わった。

 冒険者の事、王都の事。

 村にいては知れなかった事ばかりで、リュートの胸は高鳴った。

 もし王国兵士の募集に間に合わなかったら、次の募集までは冒険者になってさらに見聞を広げていこうと思ったほどだ。

 そこまで魔物と接敵する事もなく、まったりとマクベス達と歓談しながらの楽しい旅だった。しかし、ザナラーンが目視出来る距離まで来た事により、このメンツでの旅は終わりとなった。

 マクベス達はザナラーンに用はなく、リュートを降ろしたらそのまま別ルートに行ってしまうのだ。

 まさか、自分が彼等と別れる事に寂しさを感じるとは、夢にも思わなかった。


「リュートさん、本当に助かりました。もうここまで来れば私達の旅も無事に終わると確約されたようなものです。本当にありがとうございました」


「いんや、オラの方こそ助かっただよ。こんなに早く王都に近づけたし、おかねもたんまり貰っただよ」


「もし、リュートさんが冒険者になったら、いつかまた会えるかもしれませんね」


「……オラ、王国兵士になるからわかんねぇど?」


「あはは、そうでしたね。リュートさんの夢、叶う事を心よりお祈りしてます」


「ありがとな」


 マクベスとリュートは握手をした後、別れを惜しむように軽くハグをし合った。


「リュート、オレ達もお前から良い刺激を貰った。これからも冒険者としてやっていくが、より高みを目指したいと思う。さようならは言わない、また何処かで会おう」


「んだな、どっかの店で一緒に飯でも食おう」


 ガンツからは集団行動での戦い方を教わった。

 リュートにとっては彼は良い兄貴分となっていた。

 別れは寂しいが、きっとまた会える。

 そう信じて握手をし、ハグをし合う。


「いやぁ、本当楽しい旅だったよ! リュートの弓の腕には驚かされたし、索敵能力が高すぎてびっくりしたよ! 僕、絶対リュートに負けない位の斥候になるから!」


「リックならなれるべ。オラもリックから色々学んだよ、ありがとな」


 リックからは斥候としての役割を教わった。

 基本ソロ活動ばかりだったリュートにとって、斥候は全く知らない知識だったからだ。

 彼からはまだまだ教わりたい事もある。

 リックとは拳を突き合わせた後にハイタッチをして別れの締めとした。


「ひぐ、リュートさん……」


 カズネは目からボロボロと大粒の涙を流していた。

 そう、彼女はこの一週間の旅で完全にリュートに惚れてしまったのだ。

 最初はリュートの優れた容姿に惹かれたのだが、余裕ある立ち振る舞いやちょっとした優しさに心を奪われてしまったのだった。

 魔法オタクの気があるカズネの話も、嫌な顔せず聞いてくれる所も彼女にとっては嬉しかったのだ。

 がっつりとリュートに心を掴まれてしまったカズネは、この別れがとても寂しくてついに泣き出してしまったのだった。


「カズネ、別に今生の別れじゃねぇべよ。またきっと、どっかで会えるべ」


「……本当、ですか?」


「んだ。オラは王都を中心に動く予定だ、会いたくなったら来てもいいだよ」


「……はい、絶対に、会いに行きます」


 そして、マクベス達と同じように握手をした後に軽くハグをする。

 カズネにとっては予想外の行動で、「ひゃっ!?」と可愛らしい声が漏れる。

 二人のやりとりを見ていたガンツとリックは「天然たらしめ」とぼそりと呟いた。

 ちなみに、リュートはカズネに恋愛感情は一切抱いていない。

 今、彼の頭の中は聖弓せいきゅうの事でいっぱいなのだ、色恋に気を逸らしている暇はないのだった。


 こうして後ろ髪を引かれるのを感じながら、マクベス一行と別れたリュート。

 また一人旅になる事に寂しさを感じながら、ザナラーンに足を踏み入れたのだった。

 しかし、足を踏み入れた瞬間、町の雰囲気がおかしい事に気が付いた。

 まるで人の気配がしないゴーストタウンのようだったのだ。


(……人の気配が、全く無い。それに、何かが潜んでる……?)


 町を見渡したが、本当にごく最近までは人がいた形跡があった。

 証拠として、推定二日前位に出来たであろう、人の足跡が無数に残されていた。

 定期便すらもやっている気配がない。

 何かしら異常事態が発生している、リュートはそのように判断した。

 その予想は大当たりである。


 建物の陰から、ナイフを持った中年の男がリュートの背後から襲い掛かってきたのだ。

 見事に気配を消していて、リュートをもってしても一瞬反応が遅れてしまった。

 リュートはこの時、初めて《盗賊》と相まみえるのだった。

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