第8話 田舎者、町の皆に慕われる

 リュートはボスが背後から見守る中、次々とダッシュボアを狩っていく。

 しかも狩り方はリュートが他の皆に教えていたやり方ではなく、気配を感じたら茂みに向かって一切の迷いもなく矢を射る。矢はダッシュボアの眉間に刺さり、脳を貫き断末魔もなく絶命させる。

 ボスはそんなリュートを見て、呆気に取られるしかなかった。

 どうやって気配を察知しているのかが、まるでわからなかったのだ。


(な、何だこいつは……! 本当に簡単そうにダッシュボアを狩っていっている……。どうなっているんだ?)


 実はこの世界には《スキル》という特別な技能が存在している。

 しかし、王都にて高額な金を払ってとある魔法・・・・・をかけて貰わないと習得できないのだが、リュートの気配察知は、スキルの中にある《気配察知》と同等レベルのものであった。


(まさか、リュートはあの魔法・・・・をかけて貰っているのか? いや、田舎の村から初めて出てるんだ、かけて貰っている筈がない。つまりこいつは自力で気配察知を使えているという事か?)


 まずスキルをとある魔法・・・・・以外で習得するのは不可能だ。

 とある魔法・・・・・の副産物としてスキルが習得される仕組みだからだ。

 その為、ボスはリュートの気配察知能力に驚愕していたのだった。


 対してリュートは、小さい頃から狩りに身を置いていた。

 狩りが出来なかったら問答無用で村を追い出される為、生きるために試行錯誤を繰り返して自然と身に付いた技能だった。

 周囲の違いの変化に敏感になり、獲物の小さな呼吸も聞き逃さないようになり、ついには視界を塞いでいても獲物の位置がわかる程にまで成長したのだ。

 子供にも容赦がない環境で育ったが故に身に付いた技能だ。

 当然、他の村の男もリュート程ではないが気配を察知する事が出来る。いや、出来て当然だったりする。


 背後でボスが驚愕している事なんて知りもせず、素早く矢を射る。

 どさりと倒れた音がしたと同時に、リュートは呟いた。


「十。おしまいおしめぇ


 リュートは一時間もしない内に、ノルマの十匹を仕留めた。

 彼の呟きにボスも反応をし、我に返った。


「リュート、もう……終わったのか?」


「んだ。これ以上狩ると他の皆の練習にならねえんだべ? じゃあ、オラの仕事はここまでだ」


「そ、そうか……」


 ボスは今日まで、それなりに冒険者を見てきた。

 それでもこんなに鮮やか且つスピーディにダッシュボアを討伐する奴なんて、リュート以外見た事がなかったのだ。

 何度も口が開いてしまい、口内は乾ききっていた。


「んで、オラはどうすればいいだか? 集合場所で待ってればええか?」


「そうだな……戻ろう」


「んだ。あっ、この一匹を持ってってええか?」


「それはいいが、どうするんだ?」


「まぁ、ちょっとな」


「……?」


 リュートは何を企んでいるのだろうか。

 別に悪い事を企んでいる訳ではないのだが、目の前で繰り広げられた非常識によって、ボスはすっかりリュートの一挙動に対して警戒心を抱いてしまうのだった。










 日が頭上に登った頃、討伐作戦の参加者が集合場所に戻ってきた。

 その中にアルビィもいたのだが、全員が傷だらけだった。

 しかし、傷だらけで済んでいるという事実に、参加者全員が驚きを隠せなかった。

 ダッシュボアの討伐に関しては少なからず死者、良くても四肢欠損者が少なからず出てしまう。

 だが今回の討伐はどうだ、誰も死ななかったし四肢欠損すらしていないのだ。

 今までこんな事がなかったが故に、未だに信じられずにいた。

 

「……俺達、生きてるな」

 

 アルビィが呟くと、一同は首を縦に振って同意する。


「どう考えても、リュートのアドバイスのおかげだよね」


「……ああ、間違いなくな」


「俺ら、後半コツを掴んで個人で討伐出来てたもんな」


「それな。慣れてきたら何か出来るようになってたな……」


「すごいよな、あいつ」


「いや、すごいで済む話じゃねぇだろ」


「だな……」


 リュートの的確な指導のおかげか、ついには単独でダッシュボアを狩れるレベルに到達した参加者一同。アルビィに関しては元から筋がよかったのか、一振りでダッシュボアの首を切断して一瞬で仕留めていた。

 どちらにせよ、参加者全員が実力的にレベルアップしていたのだった。


 集合場所に戻ると、すでにリュートとボスが待っていた。


「おう、皆! どうやら誰も死んでいないようでよかった!!」


 ボスがねぎらいの言葉を参加者全員にかけた。


「皆、討伐ご苦労だった。リュートが皆の為に飯を用意してくれたぞ! よかったら体を休めながら食べてくれ」


 実はリュート、最後に仕留めたダッシュボアを使って、ちょっと厚めにスライスした肉を串に刺し、焚火で焼いていたのだった。

 村にいた当初では絶対にやらなかった、人生初の他者へのリュートなりのねぎらいだった。


「ダッシュボアの肉だよ。脂がのっててうんめぇぞ? 疲れた身体に効くけぇ、早く食べてくんろ」


 相変わらず訛りが強い。

 だが、リュートの優しい笑みを見て、参加者一同はこう思った。


(この田舎者――いや、この人はおとこだ!)


『ゴチになります、リュートさん・・!!』


「さ、さん? ……とりあえず食べてくんろ」


 卓越した技術と強さを持っていて、それに男気もある。

 アルビィを含めた男達は、リュートの事をボス以上の目上の存在として位置付け、一瞬で心の底からリュートを慕うのであった。

 参加者の心の変わりようを肌で感じたボスは、非常にいたたまれない。


(絶対にこいつら、俺よりリュートを慕いやがったな……。わからなくはないけど、モヤモヤする)


 少しリュートに嫉妬するボスであったが――


「ボス、今日は仕事をくれてありがとな! ほれ、一番うんめぇ部位焼けたから、ボスが味わってくんろ」


 ニシシと歯を見せて笑うリュートに、ボスも男気を感じた。


「ありがとうございます、リュートさん!!」


「……ボス? 何かこええだよ」


 ボスもリュートにあっさり陥落したのであった。

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