240 「逃げる」ポータル始めました
俺は、飛来した雷球を素手で掴んだ。
「なっ……!?」
「なるほど、こういう仕組みになってるんだな。力の組成は……ああ、こうか。なら、『ライトニングアロー』を1ダース束ねて、『サンダーブリット』を外殻にして、『雷遁』で指向性のある爆発を……こんなもんか?」
俺は坂城の放った雷球を握りつぶすと、そっくりな雷球を生み出した。
その雷球を、坂城に放つ。
「ぐわああああっ!」
「うーん。着弾後の拡散具合が弱いかな。まあ、及第点だろ。どうだ?」
《固有スキル「雷鎖」の再現に成功しました。[再現度:99.72%]》
《固有スキル「雷鎖」を通常スキルとして習得しました。》
「よし、『天の声』も合格をくれたな」
めぼしいスキルもそうでないスキルも取り漁った俺が最近ハマってるのが、この「固有スキルの再現」なんだよな。
固有スキルを解析して既存のスキルや魔法の組み合わせで再現する。その再現度が一定以上になると、その固有スキルを通常スキルとして習得できるのだ。
この判定は厳しくて、再現度99.5%以上――誤差0.5%未満までしか許されない。
「助かったよ。使い勝手のよさそうなスキルだな」
いかに手加減して相手を殺さずに無力化するかは、俺が初期からずっと頭を悩ませてきた問題だ。
相手を跡形も残さずに消し去るのは簡単だが、殺さずに無力化するのは難しい。
探索者はHPが少しでも残っていれば動けるからな。
結局、スキル「ノックアウト」を使うか、状態異常をかけるかくらいしか方法がないんだが、いずれも回復や防止の方法がないわけじゃない。
「スーペリア・インフェルノ」のような広域殲滅魔法で敵をまとめてノックアウト状態にする手はあるものの、大規模な魔法は詠唱時間も長くなる。
その点、この「雷鎖」は便利だよな。
雷の連鎖効果で範囲が広く、「感電」の状態異常を同時に多くの敵にかけられる。
まあ、ダメージも伴うから、俺が使う時には威力を絞ってやる必要があるけどな。
坂城は「感電」状態になり、ダンジョンの地面にうつ伏せに倒れている。
それを見ていると、かつて黒鳥の森水上公園ダンジョンでほのかちゃんを助けた時のことを思い出す。
あの時は、相手は不法探索者だった。
だが、今回は違う。
坂城たち「ヘカトンケイル」は、一応はまっとうな探索者ギルドである。
シャイナレーゼ姫を奴隷同然に酷使していたことに関しても、この国のお墨付きを得た合法行為だ。
「まあ、手配書によれば、『ヘカトンケイル』は半グレやヤクザと繋がってるって話だけどな」
彼らは、人身売買ということでは一日の長があるからな。
反社会勢力との繋がりが噂されるギルドほど異世界人の受け入れに積極的なのは、ある意味順当な話なのかもしれないな。
だが、合法違法という話なら、この場で不法行為を働いてるのは俺のほうだ。
国によって認可された合法的な労働力を横からかっさらっているわけだからな。
いくら悪質な雇用主といっても、それだけで坂城を官憲に引き渡すことはできない。
警察に通報すれば、捕まるのはむしろ俺のほうだ。
いや、今の俺が警察に捕まることはまずありえないが、あのECRT(内閣官房探索犯罪即応部隊)とかいう特殊部隊が飛んでくるのは間違いない。
「あの、この青いポータルは一体……?」
シャイナレーゼ姫がポータルを観察しながら訊いてくる。
その目には隠しがたい好奇心が浮かんでいた。
王女にして宮廷魔術師と言ってたが、その役職は名誉的なものではないみたいだな。
異世界人の探索者の中でも、レベル6700~のエキチカに潜れるのは、ほんの一握りの実力者に限られる。
「俺がいろんなスキルを解析して編み出した、とっておきだ。ダンジョン内で絶望的な状態に置かれたものたちの前に、そのポータルは自動で現れる。ポータルが出現すると、俺にはそのことがわかるようになっている。まあ、俺が支配下に置いているダンジョン内限定なんだけどな」
さっき固有スキルの解析がマイブームと言ったが、もちろん俺は自分自身の固有スキル「逃げる」の解析も行っている。
「雷鎖」のようなわかりやすい単機能の固有スキルとは異なり、「逃げる」の内部構造はダンジョンのように複雑だ。
だが、部分的にならわかったこともある。
ジョブ「ダンジョンマスター」で生み出したポータルにそのわかった部分を応用したのが、この青いポータルというわけだ。
とくに正式な名称はないが、俺はそのまま「『逃げる』ポータル」と呼んでいる。
「さあ、シャイナレーゼ姫。ポータルをくぐってくれ。時間をかけると面倒な奴に嗅ぎつけられるかもしれないからな」
「め、めんどうな……? は、はい。わかりました。それから、私のことはシャイナとお呼びください、ユウト様」
そう言ってお辞儀をすると、シャイナは青いポータルに飛び込んだ。
その直後、俺の背筋に寒気が走る。
音速で飛んできたのは、スキル「飛斬」のようなもの。
傷つかないはずのダンジョンの床・壁・天井を切り裂きながら見えざる無数の刃が襲ってくる。
魔法ではなく物理攻撃であることが明らかなので、俺はその刃をステップ、しゃがみ、ジャンプ、壁蹴り、宙返りでかわした。
余裕があるように見えるかもしれないが、ギリギリだ。
一発一発の威力は俺のHPをごっそりもぎ取れるくらいのものだしな。
刃は一応、地面に倒れた「ヘカトンケイル」の連中を避けているようだ。
「ようやく見つけたぞ、蔵式」
飛ぶ斬撃がやってきたほうから現れたのは、すでに何度目かの遭遇となる相手だった。
「やれやれ……今日はおまえのほうか」
ECRTの連中もしつこいが、弱い分だけ対処は楽だ。
俺から見てある程度強いと言えるのは隊長の東堂くらいだが、隊員の中に追跡系の固有スキル持ちがいるらしく、ダンジョン内外での遭遇率はそれなりに高い。
とはいえ、面倒ならミニスライムたちに任せてしまってもなんとかなる程度の相手ではある。
だが、こいつだけは俺が自分で対処する必要がある。
粉塵に霞む中から現れたのは、旧軍の白い軍服を着込んだ美丈夫だ。
身長190近くありそうなスポーツマン体型の男で、凛々しく太い眉とギリシャの彫刻のような彫りの深い顔立ちは、一度見たら忘れることはないだろう。
俺と同い年らしいその男は、片方の唇を歪めながら言ってくる。
「おい、今日こそ存分に殺し合おうじゃねえか、召喚師。強えくせにこそこそ逃げ回ってんじゃねえぞ」
そう言って獰猛に笑ったのは、サーベルを片手にぶら下げた「皇族勇者」、
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