239 優しき魔王
「てめえ! 何もんだ!?」
新宿駅地下ダンジョン第一層。
俺特製の青いポータルが発動した兆候を受けて駆けつけると、そこには首輪をはめられた青い髪の女性魔術師と、その雇い主らしき男がいた。
女性魔術師は、顔立ちからしてまだ十代半ばくらいじゃないだろうか。ほのかちゃんよりは年上かといった程度だな。
探索者はもちろん、アルバイトをしていい歳ですらないんじゃないか。
彼女のまとうローブに縫いとられた紋章は、異世界シュプリングラーヴェンの魔導王国エリュディシアのものだ。
この紋章を身に帯びることが許されるのは選ばれたものに限られると聞く。
彼女も年齢に見合わぬ優秀な魔術師なんだろう。
対する男の方は、資料で見たことのある顔だった。
「『ヘカトンケイル』のマスターだったか。『雷鎖』の……なんだったかな。名前までは覚えてないが」
「
「取り繕うこともなく奴隷呼ばわりか。なるほど、問題探索者と言われるわけだな」
俺はぱちんと指を鳴らす。
虚空にポータルが開いて、その中からからくり仕掛けのマッドサイエンティストが現れた。
俺が(元々は)「シークレットモンスター召喚」で召喚したからくりドクターの源内だな。
「首輪を外してやってくれ」
俺の言葉にうなずくと、源内が倒れままの少女に向かってかがみ込む。
「ひっ!」
「大丈夫だ。そのモンスターが君に危害を加えることはない」
「遺跡守護者のキリングゴーレム……? いえ、違いますね……」
ぶつぶつとつぶやく少女の首元に、源内が手を伸ばす。
「なっ、てめえ! そいつに触ったらどうなるかわかってるのか!?」
坂城……だったか? 髪をプリン色に染めたガラの悪い男が言ってくる。
「無理に壊そうとすると電撃が流れるんだろ。それくらいは知ってるよ」
「だ、だったら……」
「知ってるさ。これまでにいくつこの首輪を解除してきたと思ってるんだ?」
俺の言葉と同時に、源内の手元でかしゃりと音がした。
昔の蛍光灯のような見た目の「自由契約の首輪」の一部が回転し、ロックが外れた。
「外すといい。自分の手で、な」
俺が言うと、少女はおそるおそる自分の首元に手を伸ばす。
少女が手探りで首輪をいじると、首輪の半分ほどがスライドし、残りの部分の中に収まった。
半円になった首輪を、少女は呆然と見つめている。
「く、首輪を外しやがっただと!? どうなってやがる!」
叫びながらこちらに詰め寄ろうとした坂城に、肩の上のアトロポスが風を放つ。
「ぐっ……!? くそ、スライムごときがぁっ!」
暴風で動けない坂城を無視して、俺は少女に話しかける。
「月並みなことしか言えないが……大変だったな。あのポータルをくぐるといい。安全な場所を用意してある。その後のことは相談に乗るよ」
「あ、あなたは……」
「そうだった。ええっと……王国の要人向けの挨拶は……?」
俺はこほんと咳払いをすると、
「エリュディシアの貴顕とお見受けする。俺の名前は蔵式悠人。不法に身柄を略取された異世界人を
芝居がかっているようだが、相手の文化を尊重するのは大事だ……と灰谷さんに言われたからな。
かといってへりくだりすぎてもよくないというから難しい。
「あなたが、噂の救い主様……」
「そんな噂になってるのか?」
「逃げ場を失い絶望したものを助けるべく青いポータルを差し向ける地底の優しき魔王……と」
「……噂を流すとは言ってたけど、盛り過ぎじゃないか?」
あとで灰谷さんに文句を言っておかないとな。
「ま、魔王……!? まさか、てめぇが噂の召喚師か!?」
指名手配されてるわけじゃないが、国内のトップギルドの幹部には、俺の名前は周知されているらしい。
こいつが俺のことを知っててもおかしくはない。
「……黙っててくれないか? 今は彼女と話をしてるんだ」
睨むというほどでもなく、ただ
俺は手を差し伸べ、少女を引っ張り起こしてやりながら、
「この世界の人間なんて信じられないと思うかもしれない。でも、俺は……」
「いえ、その曇りのない瞳。私はあなたを信じます」
少女はやたらきっぱりと言ってきた。
その目は潤んで、頬が赤いようにも見えるんだが。
曇りのない瞳……か?
俺の目なんて常時どんより淀んでるような気しかしないけどな。
「申し遅れました。私はエリュディシア王国第四王女にして宮廷魔術師シャイナレーゼ・シュア・エリュディシアと申します。この度は窮地から救っていただいたこと、心より感謝いたします」
と、土埃にまみれたローブのすそをつまんで深々と頭を下げてくる彼女。
「王女だって?」
じゃあ、灰谷さんが言ってた、最初にオークションにかけられてしまったエリュディシアの王女っていうのはこの子のことか。
「てめえ! うちの奴隷の逃亡を幇助するつもりか! ちょっと強いモンスターを使役できるからっていい気になりやがって……!」
俺の放つプレッシャーをはねのけた坂城が、両手の間に雷球を生む。
「そいつには十二億も積んだんだ! 返しやがれ!」
「雷鎖……ね」
ガードしようとしたアトロポスを制し、俺は飛来した雷球を素手で
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