179 人生を楽しむ……努力をする
⑧、「未知の特殊条件探し」。
特殊条件を満たすことで得られるスキルは、これまでそのほとんどが有用だった。
積極的に満たしていきたいが、Aランクダンジョンの初回クリアはもう達成済みだから、よほど変なことをしないと難しいだろう。
それこそ、Aランクダンジョンを100個踏破するとか、Aランクダンジョンを5分以内に踏破するとか……いや、さすがに5分はないか。
それよりは、⑨「同種族モンスター400体連続撃破によるモンスターのスキル取得」のほうが条件としては満たしやすい。
ただし、この条件で取得できるスキルは三つまでだから、目当てとなるスキルがなさそうならあえて達成しないでおくという選択肢もある。
ちなみに、別の種族のモンスターが混在してるダンジョンでは、倒すモンスターの吟味に「逃げる」を使うことになる。
ゴブリン、ゴブリン、スライムみたいな編成があって、ゴブリンだけを倒したいなら、ゴブリン2撃破・スライム1残しで「逃げる」……といった具合にな。
ダンジョンボスの種族や、ボスと同じ種族のモンスターが道中に出るかについては、灰谷さんから事前にデータをもらってる。
探索予定のすべてのダンジョンで都合よく条件が満たせるわけじゃないけどな。
⑩「金策」……まんまだな。
道中で「逃げる」必要がなくなったから稼ぎやすくなるかと思ったんだが、冷静に考えてみるとそうでもない。
ボス相手にレアドロップを盗めるまで「逃げる」を繰り返す可能性があるからな。
ボス戦での運次第で、ダンジョン踏破時のマナコイン残高は、大きくブレることになりそうだ。
むしろ、⑪「『簒奪者』の技能でレアアイテム収集」のほうが金策の軸になるかもしれない。
Sランクダンジョンの方がもちろん貴重なドロップが出るはずだが、貴重すぎて売りにくいという問題も発生する。
その点、Aランクダンジョンのレアドロは、貴重すぎず平凡すぎずでちょうどいい。
状態異常耐性アクセサリが余るようならほしいと、灰谷さんから頼まれてもいる。
……まあ、現在所有してるアイテムだけでも、全部換金すれば一生遊んで暮らせるくらいの額には余裕でなる。
やるからには稼ぎたいとは思うものの、シンプルにレアなアイテムをコレクションしてみたいという蒐集欲もあるんだよな。
からくりUFOのときみたいに、単体では使い方のわからないアイテムが組み合わせで効果を持つこともあるらしいし。
⑫「『魔王』の技能で魔法開発」。
ジョブ世界で、光魔法「ブラストノヴァ」を改造し、「ブラストノヴァ・インプロージョン」を編み出したのを覚えてるだろうか?
スキル世界のスキルはもちろん、ジョブ世界の魔法系技能でも、普通はここまで大きな魔法改造は不可能だ。
杓子定規なスキルと違い、ジョブ世界の技能でなら若干のアレンジが利くんだが、「改造」とまで言えるような改変は、魔王以外にはできないはずだ。
固有スキル以外の一般的なスキルは、一部では研究も進んでる。
スキルの枠にとらわれないオリジナルの魔法を開発できることは、今後の大きな強みになるだろう。
……おまえは何と戦おうとしてるんだ、とつっこまれそうではあるけどな。
⑬「ブレインイーター対策」。
スキル世界のクローヴィスは、ブレインイーターに寄生されていた。
誰が、どうやって、というのは謎のままだ。
クローヴィスが凍崎純恋の亡霊を見て驚いたことからも、「羅漢」や凍崎誠二が怪しくはあるが、今のところは証拠がない。
もし今後、同様にブレインイーターに寄生された人間を見つけたときに、宿主とされた人間を傷つけずにブレインイーターだけを除去する方法がほしい。
除去する以前に、ブレインイーターに寄生されてることを判別する方法もほしいよな。
「鑑定」で見えればよかったんだが、クローヴィスを「鑑定」したときにはブレインイーターの寄生についてはステータスに表示されなかった。
まあ、もしステータスに表示されるようなら、クローヴィスが自分のステータスを見たときに、妙なものに寄生されてることに気づいたはずだ。
ひとつ可能性があるのは、スキルではなく、現代の科学技術の力だ。
ブレインイーターは脳そのものに物理的に寄生してるようだったから、病院のMRIで撮影すれば見つけられそうな気がするよな。
病院のMRIと同じような形で対象の体内をスキャンできるようなスキルがあれば、脳に寄生したブレインイーターを発見することもできるかもな。
……でも、治療については手がかりらしきものが何もないのが現状だ。
そもそも、ブレインイーターなる特殊なモンスターがどこにいて、その乾燥卵をどうやって手に入れたのか?ってのも謎のままだからな。
⑭「長寿のエルフの精神的摩耗を防ぐ方法」。
これはもちろん、はるかさんのことだ。
盗み聞く形になったクローヴィスとはるかさんの会話から、歳を経たエルフは精神が摩耗するということを知ってしまった。
これも手がかりのない話だから、手がかりを探すことから始めるしかない。
⑮の「ギルドへの貢献」。
パラディンナイツに所属することになった俺だが、今のところギルドに貢献らしい貢献をしていない。
それどころか、ダンジョン崩壊前後のことでは多大な負担をかけてしまってる。
灰谷さんの心労はヤバいことになってそうだ。
芹香や灰谷さんに、目に見える形で報いたい。
で、最後となる⑯「人生を楽しむ努力をする」。
ダンジョンに潜ってばかりでは精神に余裕がなくなるだろう。
ダンジョン探索は好きでやってることではあるが、生きるための仕事でもあるし、危険と隣り合わせの稼業でもある。
有名観光地だった場所も多いAランクダンジョンを巡るついでに、観光等で人生を楽しむ努力をしたっていいだろう。
人生を楽しんでいれば、「現実から逃げる」の暴発も防げるかもしれないし……。
……でも、「人生を楽しむ」って難しいよな。
目標にするとかえって楽しめなくなるような気もするし。
「楽しいって何だっけ?」に始まって、「俺は今、本当に楽しいと思ってるんだろうか?」と自分の気持ちを疑い出し、「何のために人生を楽しもうとしてるんだっけ?」、「その時は楽しかったとしても、過ぎてしまえば過去の記憶にしかならないのに、努力してまで楽しむ意味があるんだろうか?」、「しかしそれを言い出したら、どうせいつか終わりを迎える人生を、苦労してまで生き抜く意味とはなんなのか?」、「人生とは一体……うごごごご」に至るまで十秒弱ってとこだろう。
そこらへんを考えすぎないようにするために、「人生を楽しむ(努力をする)」と、保険をかけた表現に丸めてある。
さて、長々とTo Doリストを振り返っているうちに、俺は千鳥ヶ淵ダンジョンの最奥へとたどり着いた。
ダンジョンマスターのユニークボーナスで今いるフロアの情報がわかるからな。
モンスターは鎧袖一触、一刀両断、見敵必殺。
残念ながらシークレットモンスターには出会わなかった。
簒奪者の技能で盗んだアイテムも、驚くようなものはなかったな。
「ダンジョンボスは……ちっ、はずれか」
ボスもシークレットモンスターではなく、通常のボスだ。
「特殊条件狙いで――最速で行くか」
レベル797のワイトキングの背後に回り込み、頭上高くに跳び上がる。
魔剣シャドースレイヤーを両手で握り、全体重を載せて叩き斬る。
「QIIIIIIIAAAAAAAAA……!!!」
甲高い絶叫とともに、真っ二つに断ち割れたワイトキングが宙に消えた。
《ダンジョンボスを倒した!》
《ダンジョンボスに経験値はありません。》
《SPを108384獲得。》
《3108300円を獲得。》
《「亡霊王の王冠」を手に入れた!》
「よし。で、特殊条件は?」
《千鳥ヶ淵ダンジョンを踏破しました!》
《特殊条件の達成を確認。――》
まずは三つ、フツーのやつはまとめて見よう。
Congratulations !!! ────────────
特殊条件達成:「Aランク以上のダンジョンをレベル25以下で踏破する」(二回目以降・踏破済みのダンジョンを除く)
報酬:「秘伝書・破の巻」
────────────────────
Congratulations !!! ────────────
特殊条件達成:「Aランク以上のダンジョンをレベル15以下で踏破する」(二回目以降・踏破済みのダンジョンを除く)
報酬:「秘伝書・急の巻」
────────────────────
Congratulations !!! ────────────
特殊条件達成:「Aランク以上のダンジョンをレベル5以下で踏破する」(二回目以降・踏破済みのダンジョンを除く)
報酬:「レベル封じの腕輪」のリセット、「秘伝書・急の巻」
────────────────────
この辺はまあ、あると思ってたやつがあったってだけだ。
「レベル封じの腕輪」のリセットはもうあまり恩恵がなくなってしまったな。
「秘伝書・破の巻」は使用することでSP40000、「秘伝書・急の巻」はSP100000が入手できるアイテムだ。
俺にとっては
芹香にあげるという手もあるし、戦闘に参加することが少ないらしい灰谷さんにあげるのもいいだろう。
探索をがんばってるらしいほのかちゃんや、その保護者であるはるかさんにあげてもいい。
俺は「あげる」つもりであっても、その四人ならお金を出すと言われそうだけどな。
……しかし、この条件の感じだと、新たにAランクダンジョンをクリアするたびに「秘伝書」シリーズが手に入るってことなのか?
「でもまあ、そんなことをするのは俺くらいなのか……?」
普通の探索者なら、途中でレベルが上がるはずだ。
それぞれ特徴のあるAランクダンジョンを、低レベルのまま複数踏破するのは難しいだろう。
「逃げる」以外の経験値回避手段があったとしても、SPを稼ぐ手段も同時になければ、ただ順当にレベルが低いだけの探索者にしかなれないわけだからな。
《特殊条件の達成を確認。スキル「縮地」を手に入れました。》
Congratulations !!! ────────────
特殊条件達成:「Bランク以上のダンジョンボスを一秒以内に撃破する」
報酬:スキル「縮地」
────────────────────
Skill──────────────────
縮地
武術の達人のみが扱える歩法で一瞬にして敵との距離を詰めることができる。
────────────────────
《特殊条件の達成を確認。スキル「雷光転身」を手に入れました。》
Congratulations !!! ────────────
特殊条件達成:「Aランク以上のダンジョンボスを一秒以内に撃破する」
報酬:スキル「雷光転身」
────────────────────
Skill──────────────────
雷光転身1
自らの身体を雷光へと変えることで、稲妻と同じ速さで移動することができる。移動先に到着した瞬間に、自分の周囲に移動距離に応じた量の雷を撒き散らす。この雷のダメージは固定だが、状態異常「感電」を発生させることがある。
ただし、S.Lv×5メートルを超える距離を移動すると、超過した距離に応じて身体の表面に高熱が発生する。一度使用すると、再使用が可能になるまでに60÷S.Lv秒間のクールダウンが必要となる。
────────────────────
「おお、やったぜ!」
魔王のテレポートとかぶるといえばかぶるが、それぞれメリット、デメリットがあるだろう。
これといったデメリットのない「縮地」は気軽に使いやすく、「雷光転身」はここぞというときに使う感じだな。
不意をつくことができる上に、状態異常の「感電」まで入れば、敵を一気に無防備にできる。
調子に乗って限界以上の距離を移動するとしっぺ返しをくらうみたいだけどな。
《特殊条件の達成を確認。スキルセット「暗き墳墓の鎮魂者」を手に入れました。》
Congratulations !!! ────────────
特殊条件達成:「種族:亡霊を400体連続で倒す。うち1体以上ボスモンスターを含む。」
報酬:スキルセット「暗き墳墓の鎮魂者」
「暗き墳墓の鎮魂者」を入手したことにより、セットに含まれる以下のスキルから、三つを選んで取得できます。
「暗視」
「ポルターガイスト」
「憑依」
「絶叫」
「恐怖攻撃」
「霊圧」
「精神侵蝕」
「ドレインタッチ」
「メンタルブレイク」
「死霊魔法」
以下のスキルが取得可能になりました。
「暗視」
「恐怖攻撃」
「死霊魔法」
────────────────────
「なんかひさしぶりな気がするな」
俺はそれぞれのスキル説明文を熟読してから、
「『ポルターガイスト』『霊圧』『精神侵蝕』の三つだ。ついでに、手持ちのSPを払って、『暗視』『恐怖攻撃』『死霊魔法』を取得する!」
《「ポルターガイスト1」、「霊圧1」、「精神侵蝕1」を取得しました。》
《「暗視」、「恐怖攻撃1」、「死霊魔法1」を取得しました。》
「よし!」
最初としては十分すぎる成果だろう。
俺はステータスをほくほく顔で眺めながら、地上へのポータルに飛び込んだ。
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