70 レベルレイズしたボスを周回することでSPを爆発的に稼ぐことができるのか?

 さて、いよいよAランクダンジョンに挑戦だ!


 ……と言いたいところだったのだが、前回の天狗峯神社ダンジョンでひとつ重大な発見をしてしまった。


 その検証のために、今日は実家最寄りのダンジョン、うちからはコンビニより近くにある雑木林ダンジョンへとやってきた。

 何度目だよ! と言われそうだが、検証にはここがいちばん便利なのだからしょうがない。


 もう地図を見なくてもルートは覚えてる。

 俺はスライムの横を駆け抜け、小一時間で最奥へ。


「『シークレットモンスター召喚』、堡備人海ほびとうみ!」


 どおおおすこおおおい!


「今日はパーティメンバーに入ってくれ」


 毎度お馴染みホビットの力士が任せろ!とばかりに胸を叩く。


 いつもは同行者にすることで俺に経験値が入らないようにするのだが、今回はスタメンでの登板だ。

 心なしか堡備人海の鼻息が荒いような気がするな。


 俺は堡備人海を前に、ボス部屋へと足を踏み入れる。


 そこにいたのはもはや親の顔より見たヒュージスライムくん――


 なのだが。


 感じる「圧」が以前とは桁違いだった。



Status──────────────────

ヒュージスライム(ダンジョンボス/レベルレイズ適用済み)

レベル 2941

HP 408086/408086

MP 75870/75870

攻撃力 41174

防御力 47256

魔 力 49401

精神力 35292

敏 捷 23528

幸 運 35492


・生得スキル

分裂5 自己再生5 水魔法5 サバイブ


撃破時獲得経験値0

撃破時獲得SP650

撃破時獲得マナコイン(円換算)3235100

ドロップアイテム フルポーション 流体ミスリル エリクサー

────────────────────



 桁違いと言ったがあれは嘘だ。

 以前はレベル7だったんだから、3桁違う。


「やっぱり堡備人海に合わせてレベルレイズされるんだな」


 「分裂」「自己再生」はHPにボーナスが乗る上、「自己再生」で回復速度まで上がってる。

 「サバイブ」で一回だけなら即死を免れるおまけ付きだ。

 スキルレベル5の「分裂」で最大5回まで分裂し、そのそれぞれが「自己再生」「サバイブ」を持つと考えると、かなり厄介なスキル構成になってるな。


 とはいえ、負ける気はしない。


「行くぞ!」


 堡備人海が前衛を務めてくれるおかげで、俺はかなり楽ができた。

 何度か「分裂」を許してしまったが、「分裂」後は最大HPが半分になるからな。

 むしろ「分裂」してくれたほうが「自己再生」の回復量(最大HPのS.Lv%)も減って、俺にとっては倒しやすい。


「ブレイズランス!」


 俺の一撃が最後のヒュージスライムに命中する。

 「サバイブ」でHP1となって耐えたスライムに、堡備人海が張り手を一閃。



《ダンジョンボスを倒した!》


《ダンジョンボスに経験値はありません。》


《SPを230100獲得。》


《3235100円を獲得。》


《「流体ミスリル」を手に入れた!》



「よしっ、計算通り!」


 獲得SPは、650×295×1.2。

 ヒュージスライムLv2941の基本値650に、レベル差(2941−1)によるボーナス補正295倍をかけ、「獲得SPアップ2」による20%増を載せたもの。


 ボス撃破やダンジョン踏破による特殊条件はなかったが、それでも十分すぎる結果である。


 ちなみに、「分裂」で殖えたヒュージスライムを倒しても、獲得物まで殖えることはないようだ。

 戦いのあいまに「強奪」を使って、ドロップアイテム三枠目のエリクサーも盗んでおいた。


 俺は出口のポータルを潜って外に出て、すぐに入口のポータルに飛び込んだ。


 堡備人海はいったん戻し、ダンジョンを駆け抜け、ボス部屋前で堡備人海を呼ぶ。


 ――が、勇んで踏み込んだボス部屋に、ダンジョンボスの姿はなかった。


「……そうか。ボスは再出現までに時間がかかるんだったな」


 普通、ダンジョンをクリアして即座に再挑戦することはない。

 よほど実力に余裕がなければそんなことは不可能だし、実力があるならもっと上のダンジョンに行ったほうが稼げるからだ。


 wikiには、ランクの高いダンジョンほどボスの再出現に時間がかかると書かれていたような。

 逆に言えば、Cランクの中でも簡単な部類のこのダンジョンなら、再出現にさほど時間はかからない……といいんだが。


「問題はそれがどのくらいかだよな」


 たとえ短くても、いつまでかかるか見当もつかないまま待つのはストレスだ。


 そうだ。こういうことは詳しそうな人に聞いてみよう。

 せっかくギルドチャットが使えるようになったんだしな。


 俺はスマホを取り出し「Dungeons Go Pro」を開くと、


『聞きたいことがあるんだが、今いいか?』


 とテキストでメッセージを送る。

 相手は灰谷さんだ。


『大丈夫です。なんでしょうか?』


「返事はやっ!」


 一瞬でレスが返ってきたな。


『一度倒したダンジョンボスが復活するまでの時間ってわかるか?』


『大雑把にであれば、経験則でわかります。ダンジョンのランクは?』


『Cだ』


『なぜ蔵式さんが今さらCランクダンジョンに?』


『検証したいことがあってな』


『そうですか。お尋ねの件ですが、Cランクダンジョンであれば当日中に復活すると思われます』


『何時間くらいとかわかるか?』


『それはダンジョンによるとしか。早いところで2時間、遅いところで18時間といったところでしょう』


『スライムしかいないような初歩的なダンジョンならどうだ?』


『それでしたら早いほうと思っていいでしょう』


 さっきボスを倒してから1時間ほど。

 最短でも残り1時間か。


『ちょっと時間があるから相談に乗ってくれないか? 次に探索するダンジョンの候補についてなんだが』


『他の仕事と並行しながらの対応になってしまいますが、それでもよろしければ』


『うん、返信は遅くても問題ない』


『次のダンジョンと言いますと、やはりAランクダンジョンに挑戦されるおつもりですか?』


『そうだな。まず地元のAランクダンジョンに潜ってみて感触を確かめ、それから狙いを絞ってAランクを踏破していこうと思ってる』


『なるほど』


『地元にわりと普通な感じのAランクダンジョンがあるから、明日にでも行ってみる予定だ』


『でしたら、ご相談はその後のことですね? この前の光が丘公園ダンジョンのように、なにか特殊な条件があるのでしょうか?』


『ああ。人が少ないこと。変わったスキルを使うモンスターがいること。変わったドロップアイテムを落とすモンスターがいること。ドロップアイテムは武器だと嬉しい』


『おもしろい条件ですね。ご自宅から近いほうがいいのでしょうか?』


『いや、遠かったら宿を取るよ。でも、都内か近県ではあってほしい』


『わかりました。調べますので少々お待ちを』


『頼む』


 さすがに時間がかかるかと思ったのだが、五分もしないうちにメッセージが来た。


『いくつか候補はありますが、千葉にある久留里くるり城ダンジョンはいかがでしょうか?』


『どういうダンジョンなんだ?』


『通称からくりタワー。からくり兵、からくり戦車、からくりドローンといった人造物系のモンスターばかりが出るダンジョンです』


『おもしろそうだな』


『そんなことを言うのは蔵式さんくらいです。人造物系モンスター、とくにからくりシリーズは、生物系のモンスターとは異なる機械的な動きをするため、苦手とする探索者が多いのです。からくりタワーは罠やギミックが多く、その面でも嫌われています。そのせいでドロップアイテムのデータは少ないのですが、連射式のクロスボウを拾ったという報告がありますね』


『へえ……』


 連射式のクロスボウがそんなに便利かというと疑問だが、他にも変わった武器が落ちる可能性もあるよな。

 俺には「強奪」もあることだし。


 罠は「罠発見」「罠解除」を上げておけばいい。

 ギミックというのは、回転扉や隠し扉、橋を下ろす仕掛けなんかが代表的だが、「ミニマップ」のある俺なら対応できる。

 「ショートテレポート」では壁抜けはできないが、穴を飛び越えることはできるだろう。

 「財宝発見」で思わぬ宝箱を見つけることもあるかもな。


『他の候補についてもまとめましたので、ファイルを送りますね』


 ギルドチャットに添付ファイルが送られてくる。


「はええよ!?」


 相談してからまだ十分も経ってないよな!?

 他の仕事と並行処理してるんじゃなかったの!?


 添付ファイルを開くと、そこには条件を満たしそうなダンジョンの候補が十数個も並んでる。


 そのファイルを確認しながら、疑問点を灰谷さんに聞く、ということをやってると、ボス部屋に魔力が集まり、ヒュージスライムが復活した。


 スマホで時刻を確認すると、復活までの時間は2時間と少し。


『ありがとう。すごく参考になったよ。また何かあったらよろしく頼む』


 ギルドチャットを急いで返してから、俺はヒュージスライムに向き直る。


 戦いの流れは、さっきと同じだ。

 特筆すべきことがマジでない。



《ダンジョンボスを倒した!》


《ダンジョンボスに経験値はありません。》


《SPを230100獲得。》


《3235100円を獲得。》


《「流体ミスリル」を手に入れた!》



「一セット2時間でSP23万か……」


 おそろしい稼ぎだな。


「これって、下手にAランクダンジョン探索するより儲かるんじゃ……」


 俺がそうつぶやきかけたところで、「天の声」が降ってきた。



《Cランクダンジョン「葛沢南ダンジョン」が枯渇しました。》



《ヘルプ:枯渇状態となったダンジョンは、十分な資源が蓄えられるまで、新たなモンスターが出現しなくなります。》



《「葛沢南ダンジョン」の枯渇状態が解消されるまでに必要な時間は、214日7時間34分05秒です。》



「……なるほど。そんなに甘くはないってことか」


 もしかしたら、Cランクダンジョンのボスのレベルを本来より大幅にレイズしてしまったのが悪かったのかもな。


 ダンジョンがどうやってモンスターを生み出してるのかはわかってない。

 でも、通常の範囲のヒュージスライムを生み出すコストと、レベル2941のヒュージスライムを生み出すコスト。

 この二つが同じってことは考えにくい。


 レベル差ボーナスでSPにエグい倍率がついたのもまずかったんだろうか。


「このダンジョンが2回で枯渇なら、黒鳥の森公園ダンジョンならもう少し……? いや、ギリで1回耐えただけかもしれないのか」


 最初のレベルレイズで枯渇の一歩手前、たとえば95%のところまで来てたとしたら?

 そうだった場合、もう少し規模の大きいCランクダンジョンでも2回で枯渇する可能性は十分にある。

 Bランクダンジョンでも危ないかもな。


 え? ダンジョンを枯渇させて何か問題があるのかって?


 この雑木林ダンジョンみたいな寂れたダンジョンなら問題はないかもな。

 でも、もう少し大きなダンジョンになると、それぞれのダンジョンをメインの探索対象にしてる探索者がいるはずだ。

 そんなダンジョンを俺が枯渇させてしまったらどうなるか?

 探索者の中には食い扶持を失って困るやつも出てくるだろう。

 もちろん、別のダンジョンに潜ることはできるが、準備不足のまま慌てて他のダンジョンに潜れば、いらぬ怪我をすることもあるだろうし、最悪命を落とす可能性もある。


 それからもちろん、「ダンジョンの枯渇」なんていう(たぶん)誰にも知られてない現象を行く先々で起こしたら、そのうち俺が怪しまれるかもしれないよな。

 罪に問われるわけではないが、目をつけられるのは間違いない。

 俺だけならともかく、パラディンナイツに迷惑がかかるような事態は避けたいな。


「1回。1回だけなら……?」


 いや、それだって枯渇しないとは言い切れないか。

 人が多いダンジョンなら、俺以外の探索者がボスに挑んでダンジョンの「資源」とやらをそれなりに食ってるんじゃないだろうか。

 そこに俺がレベルレイズ2941をぶちかましたら、一発KOとなる可能性がある。


「……くっ。残念だけどこの稼ぎは封印か……」


 元のレベル帯が高いダンジョンならよさそうだが、Cランク、Bランクダンジョンではやらないほうがいいだろう。

 そう考えると、天狗峯神社ダンジョンでボスのレベルを上げずに倒したのは英断だった。


 とはいえ、収穫なしってわけじゃない。


 レベルレイズヒュージスライム二体分のSP460200は、ありがたくAランクダンジョン攻略の原資にさせてもらうさ。



 ちなみに、あとで灰谷さんにダンジョンの枯渇について聞いてみると、


『そんな現象があるのですか。初めて知りました』


 と驚かれ、


『前回のフラッドといい、蔵式さんはレアな現象に出くわす才能でもあるんじゃないですか?』


 と、呆れまじりに言われてしまった。

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