53 シークレットモンスター召喚

 俺が自転車でやってきたのは、自宅からの最寄りである雑木林ダンジョンだ。

 自転車をアイテムボックスにしまい、俺はダンジョンに足を踏み入れる。


 現れたスライムを一体残して「逃げる」――という面倒なことは今日はしない。

 敏捷に任せて駆け抜け、「逃げる」を使わずに普通に逃げる。

 ダンジョン内で遭遇したモンスターから逃げるのは危険を伴うというのが常識だが、今の俺のステータスなら問題ない。

 というか、「隠密」「ステルス」をかけていると、よほど近づかない限りスライムはこちらに気づかないようだ。


 俺はあっというまにボス部屋へとたどり着く。

 あいかわらずレベルレイズされないヒュージスライムLv7を一撃で葬った。


 今回用事があったのは、道中のスライムでもなければボスでもない。

 このボス部屋こそが目的だ。


 「シークレットモンスター召喚」と「幻獣召喚」。


 この二つのスキルをずっと試してみたかった。

 だが、ダンジョンの外で試すわけにもいかない。

 だからこうして人気のない雑木林ダンジョンの奥までやってきたってわけだ。


「まずは『シークレットモンスター召喚』からだな」


 もう一度見ておこうか?

 スキルの説明文ではこうなってる。



Skill──────────────────

シークレットモンスター召喚1

撃破したことのあるシークレットモンスターを召喚する。召喚されるモンスターのレベルは、召喚者のレベル、撃破時のモンスターのレベル、召喚できる他のモンスターのレベルの中から、最大値となるものが適用される。

同時にS.Lv体のモンスターを召喚できる。ただし、同種のモンスターを同時に複数体召喚することはできない。

召喚中は常にMPを消費する。MPの消費量はモンスターのレベルとレアリティに依存する。

【現在召喚可能なシークレットモンスター】

ゴールデントレジャーホビットLv2941 Bランク

ホビットスモウレスラーLv2941 Aランク

────────────────────



 スキルを使おうとすると、脳裏に呼び出せるモンスターの名前が浮かんでくる。


 ゴールデントレジャーホビットとホビットスモウレスラーだな。


「召喚――ゴールデントレジャーホビット!」


 俺がスキルを使うと、俺の前方の床に魔法陣が広がった。

 ソシャゲのガチャ演出のようなエフェクトとともに、魔法陣が光に包まれる。

 光が晴れたときそこにいたのは、金色の大きな袋をかついだ、でっぷりと太った大きなホビット。


 「鑑定」してみると、



Status──────────────────

(名称未設定)

ゴールデントレジャーホビット

レベル 2941

HP 294100/294100

MP 294100/294100

攻撃力 81702

防御力 64702

魔 力 49997

精神力 58820

敏 捷 277457

幸 運 2320757


・固有スキル

ランダム呼び


・生得スキル

強奪4 盗む4 トレジャーハント4

────────────────────



「レベルが上がってるな」


 俺が撃破したゴールデントレジャーホビットはレベル72だったはずだ。


 「シークレットモンスター召喚」の説明文では、「召喚されるモンスターのレベルは、召喚者のレベル、撃破時のモンスターのレベル、召喚できる他のモンスターのレベルの中から、最大値となるものが適用される」とある。

 召喚者のレベルは1、撃破時のレベルは72、召喚できる他のモンスターのレベルは(ホビットスモウレスラーの)2941。

 説明文通り、最大値の2941が適用されている。


「ズルいような気もするが……いや、そうでもないか?」


 召喚した俺がレベル1なのに召喚されたモンスターがレベル2941というのはズルくないか?

 一瞬そんな疑問がよぎったのだが、考えてみるとそうでもない。


 「シークレットモンスター召喚」で召喚できるモンスターは、撃破したことのあるモンスターに限られる。

 召喚者はいちばんレベルの高いモンスター(俺の場合はホビットスモウレスラーLv2941)を倒した経験があるということだ。


 通常なら、召喚者のレベルは「撃破時のモンスターのレベル」や「召喚できる他のモンスターのレベル」を超えていることがほとんどだろう。

 レベル1でレベルが2940も格上のモンスターを倒すなんて事態は、スキルの想定の範囲外だってことだな。



《ヘルプ:召喚したモンスターには名前をつけることができます。命名には大量のMPが必要です。》



「命名か。何かメリットがあるのか?」


 愛着が湧く、という以外にな。



《ヘルプ:命名されたモンスターは新たな力に目覚めることがあります。その力がスキルである場合、召喚者はそのスキルを取得できることがあります。また、命名されたモンスターは経験値を得ることでレベルアップすることができます。命名されたモンスターは、死亡すると消滅し、新たに同種のモンスターを召喚し直すことになります。》



「……なるほどな」


 「天の声」の解説にうなずく俺。

 命名すればパワーアップするが、ネームドモンスターはやられると復活しない。死なないように運用する必要があるってことか。


 いずれにせよ、特別なスキルが手に入るかもと聞かされて、やらないという選択肢はない。


 俺は恰幅のいい金色ホビットを見つめながらしばし考え、


「そうだな……『布袋ほてい』でどうだ?」


 俺の言葉に、ゴールデントレジャーホビットが満足そうにうなずいた。

 直後、その身体が光に包まれ、



《「布袋」は、命名により新たな力を手に入れた!》



「うおっ!」


 と、俺が声を漏らしたのは、MPをごっそり持っていかれる感覚があったからだ。


 ゴールデントレジャーホビット改め「布袋」は、外見上大きな変化はないようだ。

 心持ち、目に光が宿ったかな、という程度。


「『鑑定』」



Status──────────────────

布袋

ゴールデントレジャーホビット

レベル 2941

HP 294100/294100

MP 294100/294100

攻撃力 81702

防御力 64702

魔 力 49997

精神力 58820

敏 捷 277457

幸 運 2323957


・固有スキル

ランダム呼び

【NEW!】財宝発見


・生得スキル

強奪4 盗む4 トレジャーハント4

────────────────────


Skill─────────────────

財宝発見

ダンジョン内で近くにある財宝の気配を嗅ぎ取れる。

────────────────────


《秘匿情報の公開条件を満たしていることを確認。》


Secret─────────────────

「財宝発見」秘匿情報の公開条件:「ミニマップ」等ダンジョン内の見取り図を示すスキルを所持している。

報酬:「財宝発見」追加詳細情報の公開。以下の情報が公開されます。

────────────────────

Info──────────────────

財宝発見

嗅ぎ取った財宝の気配は「ミニマップ」等で示される見取り図上に反映される。

────────────────────



《召喚したモンスターとの絆により、スキル「財宝発見」を取得しました。》



「おおっ、やった!」


 命名によって布袋は新たな固有スキルに目覚め、そのスキルを召喚者である俺も取得できたということらしい。

 しかも、そのスキルは「財宝発見」。

 金の稼ぎにくい俺にとっては実にありがたいスキルだな。



《「布袋」をパーティに参加させますか?》



「ん? どういうことだ?」



《ヘルプ:パーティに参加させる場合、召喚されたモンスターはパーティのメンバー枠を一つ使用しますが、そのモンスターが撃破した敵から得られる経験値・SP・マナコイン・ドロップアイテムは通常のパーティと同様、召喚者や他のパーティメンバーにも分配されます。》



「参加させない場合は?」



《ヘルプ:パーティに参加させない場合、召喚されたモンスターは「同行者」とみなされます。モンスターが得た経験値・SP・マナコイン・ドロップアイテムを召喚者が得ることはできません。》



「……えっ、それって……」


 さらっと説明されたが、俺にとっては超重要な情報だぞ。


「召喚したモンスターを同行者にして戦わせた場合、俺にはその経験値が入らないってことか!?」



《その通りです。》



「じゃあ、モンスターを召喚して戦わせれば『逃げる』を使わなくても経験値が回避できるじゃないか!」


 もっとも、その場合には、SPや金、ドロップアイテムも回避してしまう。

 SPを稼ぐにはやはり自分で「逃げる」しかないけどな。


 それでも、道中のつゆ払いを召喚したモンスターに任せることはできる。

 レベル2941のシークレットモンスターにな。


「よし、戻っていいぞ、布袋」


 俺が召喚を解除すると、布袋は虚空へとかき消えた。

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