第三章「  」

52 逃げるスキルレベル2

 新宿駅地下ダンジョンと光ヶ丘公園ダンジョンのダブルフラッドから一週間。


 骨休めと今後の活動指針決定のために、この一週間はダンジョン探索は最小限にして家にいることが多かった。


 PCチェアに背を預けて天井を見上げる。

 あいかわらずどこか煤けたような天井だ。

 といっても、実際に煤がついてるわけじゃない。


 この一週間家にいるうちに気づいたんだが、俺の部屋の天井や壁は、ごく薄っすらと灰色に染まってる。


 その色味の加減は――ダンジョンの壁や天井にそっくりだ。

 ほんのりと魔力の気配すら漂っている。


「……まさか俺の部屋がダンジョン化してたとはな」


 探索者として経験を積んだ今ならわかる。

 俺の部屋はごく薄っすらとダンジョン化してる。


「俺が何年ものあいだ外のダンジョン騒ぎのことを知らなかったのはこのせいか?」


 はるかさんはダンジョン化した旦那さんの想いによって守られ、ダンジョン崩壊を生き延びてこの世界にやってきたと言っていた。


 俺は俺で、自分の部屋をダンジョン化することで、外界からの情報を遮断してたってことだろうか?


「まあ、だからどうしたって話だけどな」


 俺が数年ものあいだダンジョンのことを知らずにいた理由はわかった。

 もっとも、ほのかちゃんがお腹の中にいる状態ではるかさんはこの世界のダンジョンに現れたと言っていた。

 ほのかちゃんの年齢を考えれば、なお十年以上のラグがある。

 ほとんどの人がダンジョンの出現を素直に受け入れすぎてるという問題も残ったままだ。

 謎は解けたようで解けてない。


「どうせわからんことだらけなんだ。考えるだけ無駄か」


 どうせ考えるんなら、探索の役に立つことを考えよう。


 といっても、この一週間で考えるべきことはあらかた考えた。


 その成果がこのステータスだ。



Status ──────────────────

蔵式悠人

レベル 1

HP 69519/69519

MP 95274/95274

攻撃力 5178

防御力 20725

魔 力 121914

精神力 91384

敏 捷 102849

幸 運 220115


・固有スキル

逃げる S.Lv2


・取得スキル

【魔法】上級火魔法1 火魔法5 風魔法1 水魔法1 氷魔法1 雷魔法1 妨害魔法1 身体強化魔法1

【技能】体術3 棍術1

【特殊能力】忍術2 暗殺術1 毒噴射1 エナジードレイン1 地割れ1 疑似無敵結界1 ショートテレポート1 強奪1 魔力暴走

【召喚】シークレットモンスター召喚1 英霊召喚1 幻獣召喚

【戦闘補助(魔法)】高速詠唱3 MP回復速度アップ3 魔法クリティカル3 強撃魔法2 魔法連撃2 古式詠唱2 MP節約1 属性増幅1 二重詠唱1 切り札化1

【戦闘補助(先制)】奇襲1 先制攻撃1 先手必勝1 先陣の心得1

【戦闘補助(攻撃)】致命クリティカル1 バックスタブ1 渾身の一撃1 凶暴化1

【戦闘補助(防御)】自己再生4 回避アップ1 幽体防御1 魔法障壁1 セルフダメージ軽減1 絶対防御 ソリッドバリア1 魔法相殺1 パリング1

【戦闘補助(生存)】幽体生存1 リバイブ サバイブ

【戦闘補助(特殊強化)】思考加速3 天誅1 切り札化1 魔神化1 魔人化1 虚仮の一念1 逆行威圧

【戦闘補助(その他)】ノックアウト 追い払う 分裂1

【能力値強化】 HP強化5 MP強化5 防御力強化5 魔力強化5 精神力強化5 敏捷強化1 幸運強化1 身体能力強化1

【耐性】麻痺耐性2 石化耐性2 睡眠耐性2 即死耐性2 混乱耐性2 沈黙耐性2

【探索補助】アイテムボックス4 索敵3 隠密3 獲得SPアップ2 ステルス 気配探知1 罠発見1 罠解除1 鑑定 簡易鑑定 偽装 窃視 アーカイブ ミニマップ トレジャーハント1 エバック


・装備

防毒のイヤリング

旅人のマント

守りの指輪

エメラルドロッド


SP 2620

────────────────────



 装備が「旅人のマント」に戻ってるのは、光が丘公園ダンジョンのフラッドのときに「クローク・オブ・サンダーストーム」を着ている姿を羅漢の探索者に見られてしまったからだ。

 顔を「烏天狗のお面」で隠してはいたが、あのクロークは目立つからな。

 くれた芹香には申し訳ないが、当面あのクロークを装備して人前に出ないほうがいいだろう。


 さて、そこよりもっと気になってることがあるはずだよな?


 注目の部分はここだ。

 


Skill──────────────────

逃げる

S.Lv1 戦闘から逃げることができる。

【NEW!】S.Lv2 現実から逃げることができる。


S.Lv1「戦闘から逃げる」

使用条件:

戦闘エリアの外側に向かって(30-5×S.Lv)秒間逃げ続ける。

戦闘エリアの範囲は、敵の初期位置の中心から半径(10×S.Lv)メートルの空間。


特記事項:

逃走成功時に所持金を落とす。

落とす金額は、所持金の({50-10×S.Lv}±20)%の範囲でランダムに決まる。落とす金額がマイナスになることはない。


【NEW!】 S.Lv2「現実から逃げる」

使用条件:

(5-S.Lv)秒間、現実から逃れたいと強く念じ続ける。


特記事項:

「現実から逃げる」で入ることができる異空間では、自分の意思によって現実と異空間の時の流れの相対速度を変化させることができる。変化させられる幅は(0~S.Lv)倍まで。

元の現実に戻る意思を失った場合には、異空間から出ることができなくなる。

連続して使用するほどに元の現実に戻りたくなくなる。


能力値補正:

「逃げる」の所有者は、各能力値に以下の補正を常に受ける。

HP -20%

防御力 -60%

精神力 +20%

敏捷 +200%

幸運 +400%

(「攻撃力 -50%」は「賢者の石のかけら」によって消去された。)

────────────────────



 悩んだ挙げ句、俺は「逃げる」のスキルレベルを2に上げた。


 その結果として開放された能力は――「現実から逃げる」。


 後ろ向きな名前ではあるが、能力としては強力だ。

 3秒間(スキルレベル2の場合)念じるだけで異空間とやらに入れるという。

 しかも、その異空間では時間の流れをコントロールできるというオマケつき。


 クールダウンの指定はないが、「連続して使用するほどに元の現実に戻りたくなくなる」「元の現実に戻る意思を失った場合には、異空間から出ることができなくなる」のコンボが怖すぎるよな。

 「戦闘から逃げる」の所持金落としもつらかったが、元の世界に戻れなくなるのはまさに異次元の恐怖である(異空間だけに……)。

 

 さっそく試してみようとしたのだが、普通に念じただけではこの能力は発動しなかった。

 「現実から逃れたいと強く念じ」る必要があるってことなんだろう。

 ぶっつけ本番の投入になるのは不安要素だよな。

 SP64万に見合う効果であることを祈るしかない。

 

 前回の特殊条件達成ボーナスで手に入れた「賢者の石のかけら」(スキルのデメリットを一つ消去)も「逃げる」に使った。

 

 消去するデメリットの候補は三つあった。

 攻撃力のマイナス補正、防御力のマイナス補正、(戦闘から)「逃げる」成功時の所持金落としの三つだな。

 HPのマイナス補正もあるが、防御力のマイナス補正のほうが大きいので、どちらかを消すなら防御力だろう。


 もちろん、他のスキルのデメリットを消去することも検討した。

 たとえば、「魔神化」の最大HP減少効果とかな。

 だが、「魔神化」は使う場面が限られる。

 常に大きな影響があるという意味では、やはり「逃げる」のマイナス補正のいずれかを消去するのがいい。


 もう一つ、「逃げる」際に所持金を落とすデメリットを消去するという手も、探索者としての稼ぎを重視するならもちろんありだ。

 でも、銀行に預金が1300万あるし、いざとなればエリクサーを売ってもいい。

 贅沢がしたいわけでもないので、戦力の拡充を捨ててまで収益性を改善する意味はない。

 

 SPを大量に稼ぐことができるという俺の強みを最大限に活かすなら、豊富な武器スキルを取得スキルの選択肢に加えられる「攻撃力」一択だろう。

 -50%の補正がなくなった攻撃力がまだパッとしない感じなのは、攻撃力にボーナスのつきやすい武器系のスキルを取ってないからだな。

 

 その他には、「MP強化」を5まで上げきった。

 これによって特殊条件(能力値強化系スキル二種の組み合わせ)を三つ達成。

 既に取得済みのスキルとの組み合わせで、以下の三つのスキルを手に入れている。


 「MP強化」と「防御力強化」の組み合わせで、

 

Skill─────────────────

ソリッドバリア1

 魔法によってあらゆる物理攻撃を遮る不可視の障壁を展開する。

 消費MPと同じだけの物理ダメージを無効化できる。

 障壁は(S.Lv×8)秒が経過すると消滅する。

────────────────────


 「MP強化」「魔力強化」では、


Skill─────────────────

魔力暴走

 すべてのMPを解き放つ強力な無属性魔法攻撃。

 ダメージは対象にかかっているすべての強化効果を無視する。また、対象にかかっているすべての強化効果を無効化する。

 消費したMPよりもダメージが小さくなる場合は、消費したMPと同じ値のダメージが保証される。

 このスキルで消費したMPは自然回復以外の方法では回復できない。

────────────────────


 「MP強化」と「精神力強化」で、


Skill─────────────────

魔法相殺1

 自身に向けられた魔法をその魔法の消費MPの(200-S.Lv×15)%のMPを消費することで相殺する

────────────────────


 「ソリッドバリア」はMP消費で同じだけのダメージを防ぎ、「魔法相殺」は多めにMPを消費することで敵の魔法を相殺する。

 「ソリッドバリア」は有効時間が短いが、こまめに張り直しながら戦えば物理ダメージを無効化し続けることができそうだ。

 問題はMP消費だが、俺のMPはあと少しで10万の大台。「MP回復速度アップ」の効果もあるし、それでも枯渇したらエリクサーを飲めばいい。

 

 その他にも、「自己再生」を4に、「高速詠唱」を3に、「獲得SPアップ」を2に、「体術」を3に、と有用なスキルをレベルアップ。

 それ以外には、「気配探知」「身体強化魔法」「パリング」「棍術」を取得した。

 

 武器スキルが「棍術」なのは、現状いちばん攻撃力が高い武器が「エメラルドロッド」だからだ。

 他が手に入るまでのつなぎ、お試しとして取得した。


 ロッドなら「杖術」じゃないのか? と思うかもしれないな。

 だが、wikiで調べたところによると、「杖術」で扱える武器は飾りのないシンプルな棒型の武器で、「エメラルドロッド」のような先端が重い「杖」は「棍術」でないと扱えないらしい。

 「エメラルドロッド」を普通に魔法発動の媒体として使う分には「棍術」はいらないが、鈍器として使おうとすると「棍術」が対応スキルになるというわけだ。

 ここは間違いやすいところらしく、wikiのコメント欄には間違って「杖術」を取得してしまった探索者の怨嗟のコメントがついていた。




 さてさて。

 ステータスを確認し終えたところで、今日はやってみたいことがある。

 母の用意してくれた朝飯を食った俺は、アイテムボックスから出した自転車に乗って、とあるダンジョンを目指すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る