44 労災と厄災
《警告。Bランクダンジョン「光が丘公園ダンジョン」でダンジョンフラッドが発生しました。》
「天の声」が鳴り響く。
《あなた が 現在探索中のダンジョンです。》
《ランクが 2 上昇する大規模なダンジョンフラッドです。Sランクダンジョン未踏破者はダンジョン周辺への立ち入りを避けてください。》
《また、「光が丘公園ダンジョン」及び「新宿駅地下ダンジョン」に近いダンジョンを探索中の探索者は、速やかにダンジョンから脱出することを勧告します。周辺ダンジョンでさらなるカスケードが発生する確率は 30 %を超えています。》
「んなっ……」
「天の声」は、羅漢の探索者たちにも聞こえたらしい。
「フラッドだと!?」
「こ、こんなときに!?」
「しかもランクが2上昇って……Sランクになるってことか!?」
「ちょっと、ポータルがなくなってるんだけど!?」
パニックに陥る探索者たち。
直後、スーツたちが押さえていたボス部屋の扉が、内側から吹き飛んだ。
「うわっ!?」
「きゃあっ!」
飴細工のように曲がった鉄の扉が床を跳ね飛び、探索者の一人に直撃する。
同時に、ボス部屋の中から「何か」が飛び出した。
「何か」は水平に近い放物線を描くと、ダンジョンの壁にべちゃっ!と音を立ててへばりつく。
それが凍崎純恋の成れの果てだとわかって、探索者たちが悲鳴を上げる。
《ダンジョンフラッドにより、ダンジョン内の全モンスターのレベルが、現在のダンジョンボスのレベルまでレイズされました。》
――一瞬、意味を取りそびれてしまった。
だが、「天の声」の言ってることは明確だ。
この光が丘公園ダンジョンの全モンスターのレベルが、ダンジョンボスのレベルまで上昇した。
そのダンジョンボスのレベルは、つい先ほど凍崎純恋に合わせてレベルレイズされたばかりだった。
単純な、三段論法だ。
つまり、このダンジョンの全モンスターが、凍崎純恋と同じレベルになったということだ。
気づけば、「聖域」だったボス部屋前に、いくつかの赤い光点が近づいてくる。
おそろしいスピードでやってきたそれらは、あっというまに羅漢探索者の青い光点を轢き殺した。
その赤い光点の一つ――近くに来たホビットソードマンを「鑑定」。
Status──────────────────
ホビットソードマン
レベル 2941
HP 29410/29410
MP 20587/20587
攻撃力 41651
防御力 32810
魔 力 20587
精神力 24787
敏 捷 43692
幸 運 40715
・生得スキル
剣技4 パリング3 虚仮の一念3 連携攻撃3
撃破時獲得経験値23528
撃破時獲得SP108
撃破時獲得マナコイン(円換算)647020
ドロップアイテム ハイパーポーション エメラルドソード 憤激の腕輪
────────────────────
「くそっ!」
ミニマップを見ると、青い光点が目に見えて減っていた。
残り4……いや、3!
「ステルス」「隠密3」のおかげで俺は見つかってないが、さすがに見殺しにするわけにはいかないだろう。
俺はアイテムボックスから「レベル封じの腕輪」「鴉天狗のお面」を装備すると、
「フレアストーム!」
俺は「火魔法」のレベル4で覚える火炎魔法を、赤い光点の多いほうに解き放つ。
「魔法クリティカル3」「強撃魔法2」「属性増幅1」「奇襲1」「先制攻撃1」「先手必勝1」「天誅1」「暗殺術1」「致命クリティカル1」、角度によっては「バックスタブ1」も。
「先陣の心得」(戦闘開始後(S.Lv×10)秒間攻撃力・魔力が1.5倍になる。効果時間経過後、(S.Lv×10)秒間攻撃力・魔力が2/3になる)と「古式詠唱」(特殊な呪文を唱えることで、(10-S.Lv)秒詠唱時間が伸びる代わりに魔法の威力が2倍になる)は使ってない。
前者は戦いが長引くと不利になるから。後者は詠唱してる余裕がなかったからだ。
スキルシナジーを限界まで乗せた魔力82224の「火魔法5」は、呑み込んだ赤い光点のほとんどを消し飛ばした。
残ってるのは、精神力の高いメイジだけ。
そのメイジが、生き残った探索者に魔法を放つ。
放った魔法は――
「フレアストームかよ!?」
俺は探索者の前に飛び出し、「魔法障壁」のスキルを使う。
俺の高い魔力・精神力に支えられた不可視の障壁がメイジの放った炎の嵐を防ぎきる。
俺は障壁を解除し、
「
忍術でメイジを撃破する。
《敵を全滅させた!》
《経験値を117640獲得。》
《SPを178475獲得。》
《3293920円を獲得。》
《「エメラルドロッド」を手に入れた!》
敵を全滅させたのはこれが初めてだ。
こんな「天の声」になるんだな。
目ん玉の飛び出るような経験値だが、俺にとっては「レベル封じの腕輪」の寿命を縮める害物でしかない。
金を落とさないのが新鮮に思えるあたり、俺もすっかり「逃げる」に毒されてるな。
獲得SPがイカれてるのは、レベル差補正で「295倍」になった上に、「獲得SPアップ1」の効果でさらに1.1倍になったからだな。
「あ、あなたは……!?」
いきなり現れた黒い天狗面の男に、羅漢の探索者が驚きの声を上げた。
さっき凍崎純恋に土下座してた女性だな。
「いいから、どっかに隠れてろ!」
「は、はい!」
助けはしたものの、かばい続ける自信はない。
フラッドのせいで「聖域」もなくなった。
自分で言っておいてなんだが、一体どこに隠れるつもりなのか?
ちらりと見ると、助けられた探索者は、なんと死体の下に潜り込んだ。
見つかったらひとたまりもなさそうだが、案外いい方法かもしれないな。
このダンジョンに「索敵」スキル持ちのモンスターはいなかった。
息を潜めていればやり過ごせる可能性は十分ある。
助かった他の探索者たちも女性に習い、死体を積み上げた影に身を隠す。
正気ではとてもいられない隠れ場所だが、彼らは劣悪な環境には慣れっこなのだろう。
フラッドの発生したダンジョンから脱出する方法はただひとつ、ボスを倒してその奥のポータルを使うこと。
いや、発生したフラッドを潰すにも、ボスを倒す必要がある。
ボスを倒せばフラッドは止まり、このダンジョンは元の姿を取り戻す。
逆に、もし倒せなければ、レベル2900オーバーのモンスターが地上に溢れ出すことになる。
そもそも、途中のポータルがなくなった以上、ボスをスルーして逃げることは不可能だ。
結局、ボスを倒すしかないってことだ。
誰かが感謝の念を抱いて誠心誠意仕事して、奇跡でも起こしてくれない限りはな。
俺は手に入れたばかりのエメラルドロッドを装備、ボス部屋に足を踏み入れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます