41 至福の狩り

 三層も二層と同様だ。

 全体のレベルが上がって、敵の編成が5〜6体に変わっただけ。

 苦戦する余地はないし、俺にとってはむしろありがたい。


 肝心のトレホビのレベルは……60だった。

 あと1、あと1上げてくれませんかねえ!


 ただ、ひとつ気になることがある。

 モンスターの編成の中に、トレホビ三体という偏った編成が混じってるのだ。

 メイジ3、トレホビ3なんていう、あつらえたように美味い編成まである。


 だが、ダンジョンの奥に進んだのに敵の編成が弱くなる(バランスが悪いという意味で)というのは妙だよな。


 「索敵」でダンジョン内の敵の動きや編成に注意しつつ、「ミニマップ」を広めに埋めながら進んでいく。



 そのおかげで、気づけた。


「なんだこれ?」


 枝道のさらに奥、ほとんど隠し通路のような一角に、トレホビ6体+未知のモンスターという奇妙な集団がたむろしてる。


 「隠密」「ステルス」で慎重に近づく。


「あいつか……」


 「トレジャーホビットLv63」6体に囲まれて、でっぷりと肥ったホビットが座ってる。


 このサイズになるともう小人とは言えないだろう。

 七福神の大黒様を、顔だけ邪悪にしたような感じだな。


 「鑑定」。



Status──────────────────

ゴールデントレジャーホビット(シークレット)

レベル 72

HP 7200/7200

MP 7200/7200

攻撃力 5784

防御力 1584

魔 力 1224

精神力 1440

敏 捷 11744

幸 運 59544


・固有スキル

ランダム呼び


・生得スキル

強奪3 盗む2 トレジャーハント2


撃破時獲得経験値7777

撃破時獲得SP777

撃破時獲得マナコイン(円換算)777777

ドロップアイテム オリハルコン塊 オリハル硬貨のブラックジャック 大盗賊のブローチ

────────────────────


Skill──────────────────

ランダム呼び

召喚可能なモンスターをランダムに召喚する。MPを消費しない。

────────────────────

Skill──────────────────

強奪3

攻撃時に「盗む」が自動で発動する。「盗む」のS.Lvは「強奪」か「盗む」の高いほうが適用される。スキル「盗む」を未取得でも発動することができる。

────────────────────

Skill──────────────────

トレジャーハント2

ドロップアイテムや「盗む」系スキルで入手できるアイテムのグレードが上がる。

────────────────────



「おおう」


 俺がほしかったスキルをどっさり持ってやがるな。

 ホビット系400体撃破の特殊条件でこの「強奪」や「トレジャーハント」が手に入ればいいのだが……。


 っていうか、あの特殊条件でもらえる三つのスキルって、どういう選定条件なんだろうな?

 スライムや鬼はスキルが少ないからまだしも、ホビット系はスキルがかなり多彩なんだよな。

 もしランダムで三つ選ばれるとしたら、目当てのスキルが手に入らないおそれもある。

 特殊条件の達成し直しはできないだろうし。


 ……いや、それは今は置いておこう。


 スキルを別にしてもとんでもないモンスターだよな。

 撃破時獲得SPは破格の777。

 天狗峯神社のダンジョンボスであるだいだらでも210だったことを思い出せば、どれだけ異常かがわかると思う。


 77万オーバーの金もすごいんだが……俺の場合は「逃げる」たびに落とすからな。

 77万を手に入れても、その後雑魚から「逃げる」たびに半減していく。

 ダンジョンを出る頃にはろくに残ってないだろう。


 ただ、それだけの報酬に見合うだけの強敵でもある。

 名前の後ろに(シークレット)とあるのが気になるな。

 これまでの傾向から察するに、なんらかの条件を満たすことで出現する特別なモンスターってことなんだろうが。


 やれるか、と言われれば十分やれるだろう。


「先制攻撃」「先手必勝」「先陣の心得」「奇襲」「古式詠唱」「強撃魔法」「魔法クリティカル」「暗殺術」「致命クリティカル」「天誅」「属性増幅」。


 おまけに、「魔力強化4」を取った今の俺の魔力は20475。



「フレイムランス!」



 俺の放った火炎の槍が、ゴールデントレジャーホビットに突き刺さ――


 らなかった。


 ゴールデントレジャーホビットがいきなりその場でぼてっと転び、俺の魔法が空を切る。


 トレジャーホビットたちが一斉に俺に敵意を向けた。


「幸運回避かよ!?」


 ゴールデン(以下略)は幸運が6万近いからな。

 こういうこともあるだろう。


 だが、


「フレイムランス!」


 それなら、当たるまで撃ち続ければいいだけだ。


 慌てて立ち上がろうとしたゴールデンがまた転び、その頭を炎の槍がかすめて過ぎる。

 二回続けての幸運回避。


 しかし、


「フレイムランス!」


 幸運は三度は続かなかった。

 炎の槍がゴールデンの首に直撃、爆発でゴールデンの頭がちぎれとぶ。


 初撃でなく、「古式詠唱」もしなかったのに威力が高いのは、


Skill──────────────────

魔法連撃1

同じ属性の魔法を連続して使用すると、詠唱時間が(S.Lv×10)%減少し、かつ魔法の威力が(S.Lv×10)%上昇する。(S.Lv+1)回分まで効果が重複する。

────────────────────


 こいつの効果だろうな。


 俺は残り6体のトレホビのうち5体を狩り、後ろに「逃げる」。



《「逃げる」に成功しました。》


《経験値を得られませんでした。》


《SPを6384獲得。》


《832901円を獲得。》


《「オリハル硬貨のブラックジャック」を手に入れた!》


《470932円を落としてしまった!》



 47万円落とした!

 とかいう魂に響くアナウンスは無視するとして。


「と、とんでもねえな!?」


 一回の戦闘でSP6384だぞ!?


 これまでの稼ぎが霞むくらいの効率だ。


 逃げた先から振り返ってみる。


 ゴールデントレジャーホビットはちゃんと元の位置に復活していた。


 シークレットというからひょっとしたら消えてしまうかと思ったが、「逃げる」の場合、撃破数にはカウントされても、倒した扱いにはならないようだ。


 もっとも、出現条件はわからないままなので、一度ダンジョンを出てしまえば二度と出会えない可能性もある。



「なら、今のうちに存分に稼いでおかないとな……!」


 

 初撃が当たれば、「先制攻撃」の効果(こちらに気づいてない相手にS.Lv×20%のダメージ増)でゴールデンを確殺できる。


 だが、初撃を避けられた二撃目だと削りきれないことがある。

 「先制攻撃」の効果がなく、「魔法連撃」の効果がまだ一スタックしかないからだ。


 一、二撃目を外してからの三撃目は、二撃目よりは撃破できる可能性が高くなる。

 「魔法連撃」の効果が二回分スタックするからだな。

 「魔法連撃」は「(S.Lv+1)回分まで効果が重複する」という仕様になっている。


 逆に、ゴールデンを残すという発想はありだろうか?

 まず、取り巻きのトレジャーホビットを6分の5倒す。

 そのあいだにゴールデンが「ランダム呼び」でホビット系モンスターを召喚する……こともある。

 その追加分を倒し続けることで「逃げる」ことなく稼ぎ続けられるのではないか? という発想だ。


 だが、これは微妙な発想だった。

 「ランダム呼び」で無限に稼ごうとするよりも、ゴールデンをさっさと倒して「逃げ」たほうが、稼ぎの効率が圧倒的に高いのだ。


 考えてみれば当たり前だ。

 ゴールデントレジャーホビットの撃破時SPは777もある。

 「ランダム呼び」でホビットが追加されるのを待つよりも、ゴールデン本体をくりかえし狩るほうが効率がいいに決まってる。


 俺は稼いだ。


 猛烈に稼いだ。


 脳内麻薬がドバドバ出てるのが自分でもわかる。


 至福の時だ。


 こんなに気持ちのいいことが他にあるだろうか?


 俺にしかできない方法で、俺しか知らないシークレットモンスターを無限に狩る。


 今が人生の絶頂ではないかと恐ろしくなるほどだ。


 この先、ゴールデントレジャーホビットに再び出会えるかはわからない。

 他のシークレットモンスターに出くわす可能性はあるが、条件がわからない以上再現するのは難しい。



《特殊条件の達成を確認。スキル「アーカイブ」を手に入れました。》



 特殊条件だって? この快楽を邪魔するな!


 一瞬、「天の声」を無視してゴールデントレホビを攻撃しそうになってから、


「いやいや。特殊条件だから! 大事だから!」


 俺は踏みとどまって「Dungeons Go Pro」を開く。



Congratulations !!! ────────────

特殊条件達成:「シークレットモンスターを10体倒す」(初回のみ)

報酬:スキル「アーカイブ」

────────────────────


Skill──────────────────

アーカイブ

これまでに倒したモンスターのステータスを想起できる。また、これまでの「鑑定」の結果を再表示することができる。

────────────────────



「便利だな! 以上!」


 俺は歓喜の狩りに再び戻る。



 どのくらいそうしていただろうか?



 三十回、四十回ではきかないだろう。


 時間の経つのを忘れて超効率狩りに没頭する俺。


 そんな俺の頭を冷ましたのは、いきなり流れた「天の声」だった。



《警告。Sランクダンジョン「新宿駅地下ダンジョン」でダンジョンフラッドが発生しました。》


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