31 苦戦する余地がない

 天狗峯神社ダンジョンのダンジョンボスは「だいだら」。

 見た目的には、赤鬼をそのまま大きくし、肌を土色に変えて、顔の造作をのっぺりさせたような感じだな。


 十数メートルの巨体、1万近いHP、雑魚とは桁違いの攻撃力。

 さらには「地割れ」のスキルで地面に裂け目を造り出す。

 その裂け目に呑み込まれればもちろん即死。


 かなり厄介なモンスターだ。


 ミスが死につながりかねない相手だから、普通のパーティは必要がない限り戦おうとはしないという。

 こいつのせいで天狗峯神社ダンジョンはBランクダンジョンの中でも不人気で、たまにやってくる探索者も四層で引き返すことがほとんどらしい。

 ……まあ、単に天狗峯神社の交通アクセスが悪いせいもあるだろうけどな。


 だが、強みがはっきりしてる分、弱みのほうもわかりやすい。


 動きが遅くて、精神力(魔法防御)が低い。


 おまけに人の形をしてる。


 俺にとってはやりやすい相手だ。



 んんんもおおおおおおおおっっっ!



 と、やや間の抜けた感じの雄叫びを上げ、だいだらが一歩を踏み出した。

 それだけで地面が激しく揺れた。


「うおっと」


 俺は浮き上がった足を押さえつける。

 歩くたびにこんなに揺れるんじゃ鬱陶しいな。

 もっとも、俺の敏捷をもってすれば、多少足場が不安定なくらいなんでもない。


 今回も、俺の戦略はシンプルだ。


 俺はだいだらの周囲を回り込むように駆け、だいだらの背中側に移動する。


 だいだらは俺を見失って頭を左右に振っている。

 俺の動きが見えなかったらしい。


 その無防備な背中に、



「フレイムランス!」



 魔法を叩き込む。


 かなりのダメージがあったはずだが、だいだらは痛がる様子もなくのっそりとこちらに振り返る。


 そのときにはもう、俺はだいだらの後ろへと回り込んでいる。


「フレイムランス!」


 だいだらの延髄あたりを狙ってさらに魔法。


 さっきも今回もクリティカルは出たが、即死は発動しなかったな。


 ――もうおわかりだろう。


 「魔法クリティカル」の効果で魔法にもクリティカルが乗る俺は、「バックスタブ」でクリティカル率をさらに上げつつ、「暗殺術」「致命クリティカル」での即死を狙う。

 即死の確率は高くないが、やってればそのうち当たるだろう。


 もっとも、だいだらは魔法に弱いから、即死が発動するよりもHPを削り切るほうが早いかもしれないけどな。


 十発ほどフレイムランスを放ったところで、



 ん゛ん゛ん゛おおおおおお……!!!



 ビルが一棟崩壊したような音を立てて、だいだらの巨体が地面に倒れた。



《ダンジョンボスを倒した!》


《ダンジョンボスに経験値はありません。》


《SPを1470獲得。》


《134200円を獲得。》


《「銘酒『鬼泣かせ』」を手に入れた!》



「さて、今回はどうだ?」



《特殊条件の達成を確認。スキルセット「魔法一徹」を手に入れました。》



Congratulations !!! ────────────

特殊条件達成:「単一の魔法のみを用いてBランク以上のダンジョンのダンジョンボスを倒す」

報酬:スキルセット「魔法一徹」

「魔法一徹」を入手したことにより、セットに含まれる以下のスキルを獲得します。

「魔法連撃」

「MP節約」

「属性増幅」

────────────────────


Skill──────────────────

魔法連撃1

同じ属性の魔法を連続して使用すると、詠唱時間が(S.Lv×10)%減少し、かつ魔法の威力が(S.Lv×10)%上昇する。(S.Lv+1)回分まで効果が重複する。

────────────────────

Skill──────────────────

MP節約1

スキルの消費MPが(S.Lv×10)%減少する。

────────────────────

Skill──────────────────

属性増幅1

弱点属性攻撃時のダメージボーナスが(S.Lv×10)%上昇する。

────────────────────



「なるほど、そういう条件か」


 スキルもそれぞれ有用だな。

 これで魔法の威力がさらに伸びる。



《天狗峯神社ダンジョンを踏破しました!》



《特殊条件の達成を確認。「秘伝書・破の巻」を手に入れました。》



Congratulations !!! ────────────

特殊条件達成:「Bランク以上のダンジョンをレベル25以下で踏破する」(初回のみ)

報酬:「秘伝書・破の巻」

────────────────────


Item──────────────────

秘伝書・破の巻

使用するとSPを40000獲得。

────────────────────



 これはまあ、予想通り。

 SP40000は今の俺ならそこまで苦労せずに稼げるが、ありがたいことに変わりはない。


 まだ……あるよな?



《特殊条件の達成を確認。「奥義書・序の巻」を手に入れました。》



Congratulations !!! ────────────

特殊条件達成:「Bランク以上のダンジョンをレベル15以下で踏破する」(初回のみ)

報酬:「奥義書・序の巻」

────────────────────


Item──────────────────

奥義書・序の巻

使用すると一部の秘匿されたスキルを取得可能状態にする。

────────────────────



「そういう刻みか」


 さっきのがレベル25以下、今のが15以下だ。

 前回のCランクダンジョンのときは5以下だけだった。

 ということは?



《特殊条件の達成を確認。「レベル封じの腕輪」を手に入れました。》



Congratulations !!! ────────────

特殊条件達成:「Bランク以上のダンジョンをレベル5以下で踏破する」(初回のみ)

報酬:「レベル封じの腕輪」

────────────────────


Item──────────────────

レベル封じの腕輪

装備中獲得経験値が0になる。経験値を無効にするたびに細かな亀裂が入り、無効にした経験値が合計1,000,000を超えると、経験値を獲得するたびにランダムで壊れる可能性が発生する。

────────────────────



「マジか!」


 とんでもないもんが出た!


 だが、驚くのはまだ早かった。

 次はソロ攻略ボーナスのラッシュがきた。

 


《特殊条件の達成を確認。スキル「ミニマップ」を手に入れました。》



Congratulations !!! ────────────

特殊条件達成:「Bランク以上のダンジョンをレベル25以下かつソロで踏破する」(初回のみ)

報酬:スキル「ミニマップ」

────────────────────


Skill──────────────────

ミニマップ

五感とスキルで得られた情報をもとに視界にミニマップを表示する。

────────────────────



《特殊条件の達成を確認。スキル「窃視」を手に入れました。》



Congratulations !!! ────────────

特殊条件達成:「Bランク以上のダンジョンをレベル15以下かつソロで踏破する」(初回のみ)

報酬:スキル「窃視」

────────────────────


Skill──────────────────

窃視

「簡易鑑定」「鑑定」「看破」等他者の情報を読み取るスキルと併用すると、そのスキルを使用したことが相手に察知されなくなる。

────────────────────



《特殊条件の達成を確認。スキル「ステルス」を手に入れました。》



Congratulations !!! ────────────

特殊条件達成:「Bランク以上のダンジョンをレベル5以下かつソロで踏破する」(初回のみ)

報酬:スキル「ステルス」

────────────────────


Skill──────────────────

ステルス

自分自身に光学的・音響的な迷彩を施すことで、他者に存在を感知されにくくなる。使用中MPを消費する。

────────────────────



「ヤバすぎんだろ……」


 今回はスキルセットではなくスキル単品になったが、その分一つひとつのスキルが濃い。


 「ミニマップ」の便利さは言うまでもないよな。

 他の二つは、以前のように他の探索者を相手どるはめになったときには便利だろう。

 そんな機会がないことを祈りたいが。



《特殊条件の達成を確認。スキルセット「鬼ノ哭ク声」を手に入れました。》



Congratulations !!! ────────────

特殊条件達成:「種族:鬼を400体連続で倒す。うち1体以上ボスモンスターを含む。」

報酬:スキルセット「鬼ノ哭ク声」

「鬼ノ哭ク声」を入手したことにより、セットに含まれる以下のスキルを獲得します。

「凶暴化」

「渾身の一撃」

「地割れ」

────────────────────


Skill──────────────────

凶暴化1

自身を状態異常「狂奔」状態にする。戦闘が終了するか状態異常が解除されるまでのあいだ、攻撃力が(S.Lv×30)%上昇する。

────────────────────

Skill──────────────────

渾身の一撃1

次の物理攻撃の威力が(S.Lv×20)%上昇する。ただし、攻撃の命中率が(S.Lv×10)%減少する。

────────────────────

Skill──────────────────

地割れ1

大地に深い割れ目を生み出し、落下したものをその中に呑み込む。一戦闘中に一回のみ使用可能。水上や空中では使用できない。

────────────────────



「これは……まあまあか?」


 ……と思ってしまうあたり、感覚が麻痺してるな。


 「凶暴化」は発動すると狂奔――怒り狂って物理攻撃しかできない状態になってしまう。

 いくらなんでも博打すぎる上に、俺の主力は魔法である。使う機会は当面ないだろう。

 それでも能力値にボーナスがつくのはありがたい。


 「渾身の一撃」も物理攻撃限定か。

 魔法にも適用されればよかったのだが。


 「地割れ」はだいだらが持ってたやつだな。

 結局見る機会がなかったが、予備動作が大きいので見てからでも回避できるという話だった。

 呑み込みさえすれば即死というのが魅力だけど、避けられたらそれでおしまいだ。

 それならハズレでもダメージの出る「致命クリティカル」のほうが堅実だな。

 「堅実」の意味がおかしいような気もするが。


 ……鬼のスキルは微妙だったが、今回の鬼縛り、実はスキルが目的じゃない。


 「ボスを1体含む同種400体を連続で倒す」という達成条件がスライム以外にも存在する――

 このことを確かめたかったのだ。


「神様にも会えたし、特殊条件も思ったよりたくさん回収できたな」


 今回の探索は濃厚だった。

 成果も、ありすぎるほどにありまくった。

 消化するのに時間がかかりそうなくらいにな。


 俺はほくほく顔でダンジョン奥のポータルに飛び込むのだった。

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