30 神様カウンセリング

「相談に乗るって……いいのかよ、神様がそんなフットワーク軽い感じで」


「以前ならばそうもいかなかったの。じゃが、今の我――やくにの神々は、以前とは存在の質が異なっておる。良くも悪くもダンジョンの影響よ」


 ダンジョンがアリな世の中なら、元からこの世界にいた(らしい)神様は余裕でアリだろう。

 ダンジョンがここまで日常に食い込んでいるこの狂った現代で神様の力が増したとしても不思議じゃない。


「世界がくも揺らいでおっては、神も我関せずとばかり云ってはおられぬのじゃ」


「神様もこの状況をどうにかしようと思ってるってことか?」


「左様。じゃが、『神』という古来の概念は極めて堅固けんごなものじゃ。『神は地上に直接力を振るわない』、人の子らにとって『神』とはそのようなものと認識されておる。敬虔な信徒であっても、奇跡とは滅多に起こらぬものという認識じゃ」


「えーっと。要するに、昔ながらの神様観みたいなものからは逃れられないと」


「ホホホ……その理解で良かろう。なればこそ、この神社のような回りくどい形で、人の子らの一助にならんと思ったのじゃが……」


「悪いけど、ほぼ知られてないよな」


「それは違うの」


「えっ、一部では知られてるのか?」


「否。ほぼ知られておらんのではない。全く・・知られておらんのじゃ。っ呵っ呵っ!」


「笑い事じゃないだろ、それ……」


「仕方あるまい。神が人を助けるなどという事態は、人の世の夜明け以来のことなのじゃ。人には、神とは己を助けてはくれぬものという『常識』が根付いておる」


 まあ、そうだよな。

 と、言葉にはせずにうなずいた。


しかるが故に、神が人を助けるには、複雑な段取りを踏む必要がある。人に、奇跡が起こっても当然だ、少なくとも、ここまで特殊な条件を満たしたら、奇跡的なことが起こっても不思議ではない――そう思わせるだけの特異な状況が必要となる。おぬしには思い当たる節があるであろう?」


「特殊条件のことか……!」


「然り。そもそも、何故特殊な条件を満たすことで特別な報酬を得られるのか、疑問には思わなかったかの?」


「……そりゃ、ちらっとは思ったけど。ダンジョンなんてものがあるならそんなことがあっても不思議じゃないと思ってな」


「うむ。そのようにして、奇跡が起こるための……そう、『ハードル』を下げておるわけじゃ。もっぱら人の子らの努力によって下げさせておるわけで、神としては忸怩たるものがあるのじゃがの」


「そんな仕組みだったのか……」


「しかし、おぬしならば分かっておろう。この方法には難が多い」


「……まあ、条件が特殊すぎて満たしにくいよな」


 ダンジョンの低レベルクリアなんて、ゲームならともかく現実でやろうとする奴はただの馬鹿だ。

 ボスモンスターを一撃で倒す、なんてのも、よっぽど強力な固有スキルでも持ってない限り無理だろう。


「この神社もまた、人の子らに奇跡を起こすための下地作りなのじゃがな」


「……っていうか、この神社では何をすればいいんだ?」


「おぬしのやっておった通りじゃ。神社は参拝するものであろう。神への感謝でも良いが、具体的な願いを込めてくれた方が、後々奇跡を起こすには都合が良い」


「ああ、あのとき神様にお願いしてたことが叶った、という形が取れるわけか」


「うむ。存分に願うが良い。もっとも、あまりに多くを願えば、その分奇跡の下地という意味では弱くなろう」


「一心不乱に一つのことを願えってことだな」


 プロ野球選手か宇宙飛行士のどっちかになりたいです! みたいに願うより、どっちかに絞ってから祈ったほうが奇跡を起こしやすくなるってわけだ。


「おぬしは惜しげもなく有り金を賽銭箱に放り込んだ。その行為が強い因果を生んだ。おぬしはこれまでにいくつもの特殊条件を満たしてもおるから尚更じゃな。じゃからこうして、我が化身と直接言葉を交わすこともできておる」


「なるほど……」


「しかし、あまり時間がないのも事実じゃな。ほれ、何か悩んでおるのではなかったか? 我に相談してみるがよい」


「そういうことなら……」


 相談したいことはいくつかあるな。

 でも今の話を聞く限りだと、質問は絞ったほうがいいのだろう。

 エリクサーがほしい? それではちょっと限定的すぎる。


「『鑑定』のステータスで見える三つ目のドロップアイテムを入手する方法が知りたいんだ」


 これくらいの具体度ならどうだろう。


「ふむ。具体的な質問じゃが、生憎あいにく神は具体的には答えられぬ」


 神様が首を横に振る。


「神託とは常に曖昧なものじゃ。しかし、本物の神託であれば、その中に必ず答えが含まれておる。偽物の神託が曖昧である理由は……言うまでもないであろう?」


「そりゃ、曖昧にしておいたほうが、外れたときに誤魔化しが利くからだな」


「然り。これから語るのは、無論本物の神託である。曖昧であるということでは偽物と判じ難いが、むを得ぬ仕儀と思ってれ」


「わかった」


 俺がうなずくと、神様はしばし目を瞑り、


「……ふむ。おぬしにはやり残しておることがあるのではないか?」


「やり残したこと?」


「先に進むのも大事じゃが、時にはこれまでに得た知識を振り返っておくのも良いのではないか?」


「これまでに得た知識か……」


 未知のダンジョンに挑むのではなく、これまでの探索で得た知識を生かせと。

 逆に言えば、俺がこれまで見聞きしてきたことの中に、問題を解決する鍵があるということだ。



「……そういえば、あれをやってなかったな」



 俺の脳裏に閃くものがあった。


「……道は見えたようじゃの」


「ああ、助かった」


「また道に迷うことがあれば来るが良い。尤も、我と直接言葉を交わすには、相応の奇跡の蓄積が必要じゃがな」


 その言葉とともに、神様の姿は消えていた。





 神様のヒントで思いついたこととは何か?

 気になると思うが、まずは今いるダンジョンの攻略だ。


 ダンジョン神社の裏手にあったポータルに入り、俺は天狗峯神社ダンジョンの七層へと転移した。


 七層も、攻略の方針は変わらない。

 赤鬼だけを狩って他は無視。

 ひたすら前に「逃げる」で先を急ぐ。


 多少遠回りをして多めに赤鬼を狩ってから、貯まったSPを確認する。

 今回は途中でスキルを取得してないので、貯まったSPで赤鬼の撃破数がおおよそわかる。

 おおよそというのは赤鬼のレベルによって獲得SPが5倍のときと6倍のときがあり、その計算が面倒だからだ。

 つるかめ算か二次方程式を解けばわかるはずだが、多めに稼いで悪いことはない。



「さあ、いよいよボス部屋だな」



 七層の最奥にある観音開きの大きな扉を押し開く。


 中はいつものように地下闘技場じみたドーム状の空間だが……今回はひときわ天井が高い。

 五階建てくらいのビルがすっぽり収まりそうな高さがある。


 その空間の真ん中に、それこそビルくらいの大きさの鬼がいる。



Status──────────────────

だいだら(ダンジョンボス)

レベル 61

HP 9400/9400

MP 0/0

攻撃力 3452

防御力 1952

魔 力 1000

精神力 305

敏 捷 305

幸 運 982


・生得スキル

地割れ2 渾身の一撃2 凶暴化2


撃破時獲得経験値0

撃破時獲得SP210

撃破時獲得マナコイン(円換算)134200

ドロップアイテム 銘酒「鬼泣かせ」 鬼の大金棒 猛攻の指輪

────────────────────



「さっきの話が気になるからな。さっさと片付けよう」

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