16 あまりにも噛ませすぎるので
「ぁんだ、てめえ。文句でもあんのか?」
「お楽しみ」を邪魔されたチャラ男が、振り返って俺に凄んでくる。
「悪いが、通報させてもらった」
「Dungeons Go Pro」には通報機能がある。
ダンジョン内で犯罪を行なっている探索者を発見した場合に、アプリ経由で「しかるべき」機関に連絡されるという仕組みだ。
この場合のしかるべき機関は探索者協会だな。
「てめっ、ざけんな!」
俺に食ってかかろうとする一人を、別の一人が押さえた。
「ふん、通報したから、それで? 協会の監察員がここに来るまでに何時間かかると思ってんだ? そのあいだてめえが無事で済むとでも?」
「俺を殺す気か?」
「殺しはしねえよ。半殺しにして身ぐるみ剥いで、ボス部屋に放り込むくらいで勘弁してやらあ」
「俺たちのお下がりでよければ、そのガキをヤってもいいぜ? 人生の最期くらい、いい目を見てえもんなぁ?」
「ひゃははっ、そりゃいいや!」
「……あのな。俺がなんの勝算もなしに話しかけたと思うか?」
俺の言葉に、男たちが眉を顰める。
そんなに強そうには見えないが……って反応だな。
実際、自分が強そうに見えないことくらいわかってる。
だが、探索者の強さは見てくれとは関係がない。
「へっ、どうせはったりだろ。そら、『簡易鑑定』――ぶふおおっ!?」
チャラ男の一人が俺に「簡易鑑定」をかけ、吹き出した。
「な、なんだよ!? こいつ、そんなにやべーのか!?」
「ち、ちげーよ。逆だ、逆! こいつ……ぶひゃひゃひゃ!」
「笑ってねえで説明しろよ! 『簡易鑑定』持ってんのおまえだけなんだからよ」
「わ、悪ぃ悪ぃ。えっとだな、この正義漢気取り君のレベルは……なんと、『1』だ!」
「はっ? 1!?」
「マジかよ!」
「おいおい、レベル1で俺らにケンカ売ってきたってのか!?」
「さっきのが精一杯のハッタリだったんだろ! こりゃ笑えるぜ!」
チャラ男たちが腹を抱えて笑いあう。
「れ、レベル1なんですか!? わ、私のことはいいですから、すぐに逃げてください!」
少女までもが、血相を変えて言ってくる。
……なるほど。やっぱ、レベル1だとバレると面倒だな。
「心配してくれてありがたいが、こんな場面を見て逃げるわけにはいかないさ」
「ぎゃはははっ! 身の程を知れよ、レベル1!」
「そうだぜ! どうせ、悪い男に騙された女の子を助けてモテようとか思っちゃってんだろ? 発想が童貞くさいんだよ!」
「ひゃははっ! あっちのほうもレベル1ってか!」
「ちげーよ、レベル1じゃなくて、ステータスもまだ獲得してねーんだよ!」
ぎゃはははっ、と笑い声。
煽りに煽られた感じだが……正直、何も感じない。
チャラ男とか、見た目からして同じ人間とは思えないし。
見た目に反していい奴だ、とかならまだしも、見た目通りにクズだしな。
同じ人間ではあるが、こいつらよりはモンスターのほうが害が少ない分だけマシだろう。
《犯罪者集団からの強い敵意を確認。あなたには正当防衛の権利が発生しました。あなたが敵対探索者を殺害しても、レッドネームに認定されることはありません。》
「天の声」からのお墨付きも出たな。
「おまえらと会話しても時間の無駄だ。俺を殺したいならさっさとかかってこいよ」
「お望み通り――やってやらあ!」
六人のうち半数の三人が剣を手に襲いかかってくる。
俺はそれを引きつけて、
「『毒噴射』」
「ぶはっ!?」
「げほっ!?」
「ぐぁ、な、なんだぁ!?」
毒の霧に呑まれ、先頭三人が隙をさらす。
「フレイムランス」
「ぐぎゃあっ!」
うち一人を炎の槍で片付けてから、
「『鑑定』」
残り二人の片方に「鑑定」を使う。
Skill──────────────────
中多健二
レベル 34
HP 374/374
MP 272/272
攻撃力 728
防御力 526
魔 力 372
精神力 248
敏 捷 340
幸 運 572
・取得スキル
剣技2 スタン攻撃1
・装備
鉄の剣
革の鎧
眠らずのはちまき
────────────────────
なるほど。このレベル帯のアタッカーはこんなステータスになるんだな。
スキルが少なめなのは、取得SPの高い「スタン攻撃」にSPを注ぎ込んだからだろう。
まあ、攻撃力と防御力だけなら、俺を上回ってるな。
だからどうしたって話だけど。
「フレイムランス!」
「ぐぎゃ……」
精神力248でHP374なら、「古式詠唱」を使わなくてもフレイムランスで確殺できる。
せっかく「鑑定」した中多健二とやらは、悲鳴も半ばに灰と化す。
残り一人の前衛に向けてさらに魔法を放とうとしたところで、
「サンダースピアぁあっ!」
「ライトニングボルト!」
「ロックバレットぉっ!」
最初に突っ込んでこなかった三人から攻撃魔法が飛んでくる。
俺に、魔法を防御する手段はない。
だが、
「な、なに!?」
俺は有り余る敏捷で飛び来る魔法を回避しつつ、後衛三人に突っ込んでいく。
その合間に「鑑定」をかけると、レベルは30台半ばから40まで。スキルの所持数は3から7個。固有スキルの持ち主はいなかった。
後衛三人はHPの基本値が低い上にHPにボーナスの付くスキルを持ってない。
HPは300に達しない程度で、魔法防御を決める精神の値も高くはない。
それなら、こっちでいいだろう。
「紫電地走りの術」
俺から扇状に放たれた紫電は、地面を走り、瞬く間に後衛三人の身体に絡みつく。
「ぐあ――!?」
「なんだこれは、があああああ!!」
「ぐぎゃああああっ!」
「忍術」は敏捷の値をも参照する特殊な擬似魔法――と、説明にはあった。
この「紫電地走りの術」のばあいは、紫電の範囲と速度、対象を捉えてから絡め取る速さに影響する。
範囲が広い分威力は拡散してるから、俺の今の魔力でも火力はそこまで高いとはいえないだろう。
だが、この三人程度の相手なら、ほぼ確実に殺し切れる。
さて、残りは一人。
最初に取りこぼした前衛の一人だけだ。
と、そこで、俺は気がついた。
「紫電地走り」の範囲からギリギリで外れていた少女が、焼死、感電死した男たちを、青い顔で見つめていた。
目の前で人が死んだことにショックを受けているのだろう。
男たちは、弱みにつけこんで彼女を騙し、強姦した上で殺そうともくろんでいた人間のクズだ。
そんな人間の死にもショックを受けるとは……。
心優しい少女なのだな、と素直に感激できればよかったのだが、俺のすれた感性では、ちょっと世間知らずが過ぎるのではないかと思ってしまう。
でも、女子中学生に見せていい光景ではなかったかもしれないな。
もっと穏便な片付け方もあったのに、ここで殲滅することを選んだのは俺だ。
「天の声」によって正当防衛が保証されたことも後押しにはなったが……単にこのクズどもを殺してすっきりしたかっただけなのかもな。
とはいえ、殺してしまったものをなかったことにはできない。
……いや、ちょっと待て。
妙なことを思いついてしまった。
「……ここで『逃げる』を使ったらどうなるんだ?」
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