02 さっそくダンジョンへ
母さんに聞いたとおり、ダンジョンはうちから1キロもない場所にできていた。
まるでコンビニに行くような手軽さで、俺はダンジョンのある場所までやってきた。
こんな近くにダンジョンがあったのは偶然じゃない。
現在国内で確認されているダンジョンの数は3万を超える。
国内のコンビニの店舗数が5万5千。
最大手のチェーンだけなら2万強。
ダンジョンはいまや最大手のコンビニチェーンよりも数が多いということだ。
「これ……か?」
ダンジョンの入口は、ガキの頃に遊んだ雑木林の中にあった。
「この先ダンジョン注意」という立て看板の奥に、少し開けた窪地があって、その中央に黒っぽい鏡のようなものが浮いている。
ネットで調べたところでは、あれがダンジョンの入口らしい。
入口に誰かいるかとも思ったが、誰もいない。
平日の昼間にこんなところをうろついてるやつはいないからな。
よくも悪くもダンジョンは新しい「日常」だ。
Dランクのダンジョンなんて、今更注意も惹かないのだろう。
ダンジョン災害がある以上、ダンジョンを見張っておく必要があるのでは? とも思ったのだが、考えてみるとそれは現実的ではなさそうだ。
大手コンビニを凌ぐ数のダンジョンがある以上、そのすべてに見張りの人員を置ける組織なんてない。
警察が見張ろうにも、警察官の数が全く足りない。
交番の数よりもダンジョンの数のほうが何倍も多いからだ。
一応、探索者協会というものがあるにはあるが、所属探索者はそれぞれ自分の探索で忙しい。
探索もせずにダンジョンの入口を見張りたがる奇特な探索者なんていないだろう。
ともあれ、人がいないのは俺にとっては好都合だ。
ソロでダンジョンに挑むやつは少ないから、見張りがいたら見咎められていただろう。
俺のクソザココミュ力でそれを突破できた自信はない。
入口におそるおそる手を突っ込む。
表面に波紋が広がり、俺の手がずぶずぶと飲み込まれる。
覚悟を決めて、俺は入口に身体を突っ込んだ。
一瞬の暗転。
直後、俺はダンジョンの中にいた。
石積みで造られた、縦3メートル、横5メートルほどの通路。
光源はないが、自分を中心にうっすら明るく、少し離れると真っ暗だ。
「マジか……」
情報収集でデマではないだろうと思ってはいたが、実際に入ってみると感じ方がちがう。
もう、社会ぐるみの悪質な冗談でもなければ、俺の頭がおかしくなったわけでもない。
――ダンジョンは、たしかに実在するのだ。
「おっと、感慨にふけってる場合じゃないな」
ダンジョンが実在したのなら、その中に棲息する脅威もまた実在するということだ。
気を引き締める俺に、突然、どこからか声が聞こえてきた。
《新たな探索者の入構を確認しました。》
《新たな探索者にステータスを付与しました。》
《新たな探索者の端末にダンジョン専用アプリ「Dungeons Go Pro」をインストールしました。》
《自分のステータスを確認するには、「ステータスオープン」と口にするか、「Dungeons Go Pro」を開いてください。》
「おおお!?」
いきなりの声に驚いてしまったが、まとめwikiにあった通りではある。
探索者になると聞こえるという「天の声」だ。
男性とも女性ともつかない不思議な声は、探索者の脳内に直接響くのだという。
……さて、ここからが大事だ。
いや、もう結果は出てるはずだが……やっぱり確認するのは緊張するな。
が、こうしていてもしかたがない。
モンスターがいつ現れないとも限らないんだ。
さっさと確認してしまおう。
「す、ステータス……オープン」
俺はおっかなびっくりそう唱える。
おっかなびっくり半分、恥ずかしさ半分って感じだな。
だって、そうだろ。
リアルで「ステータスオープン」とか言っちゃってる人がいたら完全に痛い人だ。
すくなくとも、俺の常識ではそうなってる。
《コマンドはもっと大きな声ではっきりと口にしてください。》
「ああもう、わかったよ! ステータスオープン! ステータスオープンだ!」
やけくそ気味にそう叫ぶと、俺の前に半透明のウインドウが現れた。
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