蝸牛

@morimoriRice

第1話

ハルが朝だと気づいたのは、エンタメ番組の司会者の声だった。それに続いて、若い女のモデルが、今季のファッションがどうこうと熱弁を振るっている。つけっぱなしにしてしまっていたのだろうか。ガンガンと痛む頭と重たいまぶたを持ち上げ、眩しいデジタルの画面をちらと横目で見てそんなことを考えた。

なんでこんなところで寝ているんだろう。ひどく痛む頭のせいで昨日のことは思い出せない。

「…おなかすいたな。」

誰にともなくそう呟くと、動こうとしない自分の身体に鞭打って、緩慢かんまんな動きで椅子から立ち上がる。冷蔵庫になにか作り置きがあるかどうかは思い出せない。正確には脳を使いたくなかっただけだが。ただ、とりあえず、何かを腹に入れたかった。

ふらつく足取りでキッチンへ向かうと、ポリ袋に入れられ乱雑に置かれた食パンが目についた。フレンチトーストでも作ろうかとぼんやりと考え、フライパンをIHコンロの上に置いた。賞味期限が切れていない卵が冷蔵庫にあるかは定かでは無かったが、運良くとでも言うべきか、偶然、2つだけ残っていた。1人分作るのには事欠かないだろう。卵を片手で割りながら、ハルは虚空こくうを見つめ、無意識に記憶の糸を辿っていた。

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