最終話
二十四日はクリスマスイブ。当然お店は大忙しです。私たち企画営業部員もお店に借り出て応援です。
午後十一時を過ぎて、ようやく一段落つき、帰途につく事に。
「なぁ、緑川。昨日の店にもう一回行かないか」唐突に部長は言った。
「だってイブの夜になんて…それに子供だっているし」
「大丈夫。あの店は俺の親父が経営する店なんだ。それから俺も息子を呼ぶから、お前も莉奈ちゃんを呼ぶと良い。ささやかだけどクリスマスパーティーをしよう」なんか嬉しい。この小さな幸せの気持ちはお守りの効果なのかな?
お店の前で二人して待っていると、部長のお母様が忠一君を連れてやって来た。なんだか忠義君に似ている気がした。そしてすぐに私の母も莉奈を連れて来た。
「あっ!忠一君…とパパもだ」えっ?…そう言えば忠一君って聞いた事ある名前と思っていたら、莉奈の仲の良いお友達だ。って事は、莉奈は部長の事も知ってた?
「莉奈ちゃん。こんばんは」そうだ。部長にだって莉奈の名前を教えた事なかったのに知ってたもんね。私って
店内に入ると、奥の特別ルームに通された。既にテーブルには数々の豪華な料理が並べられていた。私たちは四人でテーブルを囲んだ。
「しかし莉奈ちゃんって緑川の子供の頃にそっくりだな」部長ははにかんで言った。
「そ…そうですか?…えっ、なんで部長が私の子供の頃の容姿を知ってるんですか」私は驚いて、思わずお守りを落としてしまった。
「なんだよ。まだそんなもん持ち歩いてたのか。でも懐かしいなぁ」部長はお守りを拾うと、莉奈に握らせた。
「莉奈ちゃん。これはママをずっと守ってくれたお守りだよ。これはママから莉奈ちゃんへのクリスマスプレゼントだよ」意味が分からない。どう言う事?
「それからこれは俺からお前へのクリスマスと誕生日のダブルプレゼントだ」そう言うと、部長は小さなケースを取り出しゆっくりと開いた。中には小さな赤い石と緑色の石が入っていた。
「もう子供騙しの石は卒業だ。赤いルビーと緑のエメラルド。受け取ってくれるか」赤石部長は忠義君だった。
私が転校した後、忠義君は事故で同時に両親を亡くしたらしい。それから身寄りのなかった忠義君は施設に預けられ、その後今のご両親に特別養子縁組で引き取られたのだそうだ。
そして不幸続きの忠義君の運命を変えようと、ご両親は姓名判断で下の名前も誠司に改名させたのだそうだ。
でも忠義君の不幸はまだ続き、結婚して忠一君が生まれて間もなく、元々身体の弱かった奥様も亡くされたのだそうだ。
だけど忠義君は笑顔を絶やさなかったんだよね。自分の幸せを信じて。その結果を確信したのは私が入社した時なんだって。すぐに言わないところが忠義君らしい。変わった部分は素敵に、変わって欲しくなかった部分はそのままに。
忠義君は幸せを諦めなかったから、小さな幸せが、この大きな幸せに変わったのだろう。
お店を出ると、街にはそこら中に色とりどりのイルミネーションが輝いていた。私たち四人は互いに手を取り合って歩いた。
赤い光が消えたと思えば次には緑の光が。オレンジかと思えば白い光が。それは私には人が人の欠点を補い合ってお互いが輝いているように見えた。
こんな時代だけど、世界中の人が皆んな、そうあって欲しいと、今の私には願わずにいられない。この幸せが、この想いが、世界中の人々に届きますように。
Merry Christmas for everyone!
May the people of the world be happy!
クリスマスに奇跡なんて起きない 岡上 山羊 @h1y9a7c0k1y2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます