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「先生、今日はどうしたんですか? いつもと違って、すごくまともな仕事しちゃって」


 帰り道、灯美は尋ねずにはいられなかった。相談者がこの男に涙を流してお礼を言うなんて、初めて見る光景である。驚かずにはいられない。


「何言ってるんですか、灯美さん。僕はいつだって、まっとうに仕事をしているつもりですよ」

「いや、いつもは違うでしょ。口からでまかせで、相談者をだまして陥れるのが先生のやり方じゃないですか」

「だます? ああ、そうですね。今回だけはやってしまいましたね、それは」

「え?」

「まあ、真実をそのまま伝えるわけにもいきませんからねえ」


 ウロマはやれやれといった感じで、ため息をついた。


「どういう意味なんですか?」

「よく考えてみればわかることですよね。二十五歳の男性が、同居している婚約者の女性に中身を見られないように、パソコンにパスワードを設定している理由なんて。そんなの一つしかないですよねえ」

「え? え?」

「あの、サユリダイダイスキというパスワードは、ゆうべ僕が新しく設定したものなんですよ。本当のパスワードは kyonyu dai dai suki でした」

「きょ、巨乳大好き?」

「巨乳大好きではなく、巨乳大大好きです。好きが足りない」

「い、いやそうじゃなくて!」


 なにその卑猥なパスワード。なんでそんなもの設定して……。


「まさか、あのパソコンに保存されていたデータって――」

「はい。実にわいせつなものばかりでした」


 どきっぱり。力強く言い切るウロマであった……。


「え、でも、さっきはそんなのどこにもなかったじゃないですか?」

「そりゃあ、僕が一晩かけて、ヒロセさんが生前収集されたであろうお宝画像やらお宝動画やらを掃除したからに決まってるじゃないですか。もちろん、ただれたブックマークも健全仕様にしましたよ。壁紙も、ローカルに保存されていた二人の思い出の写真に変えました。もともとは胸の大変大きな女性の、かなりきわどい露出の水着写真でしたからね」

「まさか先生はそのためにパソコンを持って帰ったんですか?」

「もちろんです。故人の尊厳は守られるべきですからね。当然のアフターケアですよ」


 ウロマはにやりと笑った。


「それに、それらの画像や動画は、胸の大きな女性のものばかりでした。ヒロセさんが本当はそういう女性を好んでいたことを、清川さんが知ったらどう思うでしょうか? 彼女はあんなに華奢で、平坦な体つきなのに?」

「ま、まあ、さぞや複雑な気持ちでしょうね……」


 言いたいことはわかるが、どさくさに小百合へのセクハラまでかますウロマである。


 やはりこの男、まったく信用できない。油断できない。いつだってうそつきで、でたらめだ。改めて、ウロマへの評価を下げに転じる灯美であった。

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