5章 エイリアン・セルフィ―
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「ねえ、これ見て、灯美。かわいいっしょー?」
高校の、昼休みの教室。いつものように談笑であふれかえるその片隅で、あかねは灯美に自分のスマホの画面を見せた。彼女の自撮り画像が表示されていた。見せたいのは、その着ているシャツらしかった。黄色い人気のキャラクターがいっぱいにプリントされている。
「あ、ほんとだ、かわいいー。いいな、これ買ったんだ」
灯美もあかねのシャツを見てにっこり笑う。
「でも、こういうのって高いんじゃない?」
「まーね。レアな柄だし、なかなかユニバーサルなお値段だったわね」
そうは言うが、あかねの顔は実に得意げだ。自慢したくてしょうがない感じだ。
だが、そこでふと、灯美はそのあかねの自撮り画像の顔に違和感を覚えた。アプリの機能で画像を修正しすぎて、実物よりもだいぶ目が大きくなっていた。さらに肌もびっくりするぐらいツルツルだ。アゴもかなり小さく補正されている。
「この写真、いくらなんでも加工しすぎじゃない? もはや別人だよ」
「えー、これぐらい普通でしょ? かわいいじゃん?」
「いやいや、ないない。やりすぎてキモくなってるってば」
「実物のほうが断然いい?」
「うん」
「マジ? 灯美にそう言われるとか、照れるわー」
にひひ、と、あかねは笑う。灯美よりは地味な顔立ちだが、笑顔は年相応の素朴なかわいらしさがあった。
「でも、ツイに画像アップするなら、これぐらい盛らないとダメでしょ? さすがに、そのままのブサ顔はアップできないって」
と、あかねはスマホをいじり、自分のSNSのアカウントを表示した。さっきと同じ自撮り画像が、最新のつぶやきに添えられてアップロードされていた。
「いや、いくら修正しても顔をネットにさらすのはよくないでしょ。何かの事件に巻き込まれちゃうかも」
「灯美ってば、超まじめだねえ。みんなこれぐらいやってるよ?」
「で、でも、私、そういうのやっちゃだめって、お父さんに言われたし……」
そう、中学生になってスマホを父に買い与えられたとき、灯美は父にきつく命令されたのだった。いかなる理由があれ、実名でSNSやブログをし、顔写真や個人情報をむやみにネットにさらすようなことをしてはイカン!と。それは頭のゆるいバカ女どもがやることだから、と……。
「それに、中学生のとき、先生にも言われたもん。最近、こういうネットで、未成年が悪い大人にたぶらかされて、犯罪に巻き込まれる事件が多いんだって。だから気をつけなきゃだめだって」
灯美は基本的にお子様メンタルなので、先生の言うことはちゃんと守るのだった。
「まあ、そうだけどさあ。ツイで顔さらすくらい別にいいじゃん? そもそも、アップしてる顔、盛りまくってて原型とどめてないし」
と、あかねは自分の顔の隣にスマホの液晶画面を掲げた。確かに、まるっきり別人である。
「目だけ大きめに加工して、動物の鼻とか耳とかつけちゃえば、ますます誰だかわかんなくなるし……灯美もちょっとやってみれば?」
あかねはそこでいきなりパシャリと、スマホのカメラで灯美を撮影した。そして、そのやや驚き顔の写真をアプリで修正しはじめた。
「もう、何勝手に人の顔いじってるのよ」
どんな感じになっているのだろう。とりあえず首を伸ばし、あかねのスマホの画面を覗き込んだ。するとそこには……異常に目のでかい妖怪のような顔立ちの女がいた!
「何コレ! なんでこんな変な顔にしちゃうのよ!」
「いやー、ごめん。元々お目目がぱっちりしている灯美さん向きの機能じゃなかったわ」
あかねは、けらけらと楽しそうに笑って、その変顔画像をすぐに削除した。
「まー、灯美は修正なしの顔が一番ってことで!」
と、あかねはこれでこの話は終わりというふうに、スマホを制服のポケットにしまった。
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