4章 アフターケア

4 - 1

「おはよう、ジミー」


 小百合が朝起きて最初に口にする言葉はいつも決まってこれだった。彼女にとっては、二年前からの習慣だった。


 けれど、今はもう、彼女のこの言葉に返事をするものはいなかった。広いダブルベッドの上にいるのは彼女一人。その傍らにある台の上には、写真立てがあり、そこには、妙齢の女性と大柄な白人男性が、仲むつまじく肩を寄せ合っている姿があった。


「ジミー、あなたはどうして……」


 下着姿のままベッドの上で上体を起こした小百合はふと、その写真立てを手に取り、眺めた。眉根を寄せ、とても悲しそうな顔で。二十七歳の、よく整った顔立ちの美女だ。体つきはとてもほっそりしており、胸や臀部の膨らみはあまりなく、肌は雪のように白かった。


「やっぱり、私のせいであなたは……」


 と、つぶやいたところで、小百合の顔ににじんだ悲痛の色がいっそう濃くなった。だが、それは一瞬だった。次の瞬間に、彼女はそれを振り払うように首を振り、ベッドから出ていた。もう悲しいことを考えるのはよそう、とでもいうふうに。


 そして、そのまま寝室を出て、キッチンに行き、朝食を作って、居間のローテーブルでそれを食べた。テレビを見ながら。時刻は朝六時。ローカル枠の、半ばワイドショーのようなニュース番組が放映されていた。


 と、その番組の合間、こんなCMが流れた。


「あなたのお悩み、解決します。まずはお気軽にご相談を。ウロマ・カウンセリングルーム」


 陰気な雰囲気の白衣の男が、椅子に座ったまま得意げな顔でこう言うだけの、実にシンプル極まりないコマーシャルだった。早朝のローカル枠らしい、低予算感あふれるCM。だが、小百合はとたんに、そのキャッチコピーに心を奪われた。


 私の悩みも解決してくれるのかしら……?


 すぐにそこに行かなければと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る