終わりの回

 毎日、何も起きなくなった。


 相変わらずセカイは来るし、変な体はそのままだし、特別な力は目覚めない。電気代、水道代、ガス代はかかる。通信費、交通費もかかる。家賃だってある。そろそろ仕事を始めないと生活ができなくなるところまできた。

 特別なことをしていても、普通の人間は気が付かない。沖縄の知り合いはできたけど、それだけだ。満足感も感動もなくなった。空港を出た時の絶望感もエイトマンにあった時のもやもや感もセカイを見た時の悲壮感も過去の出来事ののように割り切られた。


 今の生活に慣れてしまった。


 相変わらず海を眺めていた。目の前にはボートに乗っている大城さんが映っている。その向こうには慶良間諸島が見える。その向こうには久米島が見える。


 その向こうには、あれ、あれ。


 あれ、あれ、あれ。


 向こうの向こうまでどこまでも見える。北も、東も、南も、北も、上も、下も、見ようと思ったらどこまでも見える。透視とは違うけど見える。


 うわぁぁぁぁぁ。


 もう一度


 うわぁぁぁぁぁぁぁぁ。


 感情のままに大声がでた。これは、特別な力なのかもしれない。どこまでも見えることが特別な力なのかもしれない。待ちに待ったあれかもしれない。いやあれだ。

 私は、大城さんを大声で呼んだ。大城さんは最初の叫び声が気になったみたいで、こちらのほうへ向かっていた。

 大城さんに聞いてみた。どこまでも見えるようになったことを。宇宙の果てまで見えるようになったことを。自分にやっと特別な能力が覚醒したことを。

 大城さんは目を丸くしていた。私は大城さんの表情を読み取って、ついに私の中にあった胸のつかえみたいなものが取れたと思った。能力を手に入れたのだと確信した。


「高橋さん、みんなできるよ。知っていると思って、知らせてなかったよ」


 大城さんは切なそうな顔をして、小さい声で「ごめんね」と言った。

 

 

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そのとき、そのとき @m89

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