はぐれマンドラゴラとキツネ
ももも
はぐれマンドラゴラとキツネ
「やーい、はぐれマンドラゴラ〜」
「悲鳴をあげられないマンドラゴラなんてただの草〜」
「くやしかったら叫んでみろよぉ!」
「やめてよ……」
ヤンキーたちがいじめていたのは1本のマンドラゴラでした。
彼は気の弱いマンドラゴラで引き抜かれても緊張であがってしまい、今まで一度も悲鳴をあげたことがありませんでした。
そのため恥さらし物としてマンドラゴラ一族から追放され、はぐれマンドラゴラとして1本で孤独に生きていました。そこをヤンキー達につかまってしまったのです。
マンドラゴラは怒りと悲しみで涙が止まりませんでしたが、どうすることもできずにふるえながら丸まっていました。
「オイ、やめるんだ。可哀想だろう」
「うわなんだ、あのピカピカ光っているカタマリ」
「あっちいこうぜ」
そんなはぐれマンドラゴラを助けてくれたのは、銀色に輝く機械じかけの犬のような物体でした。
「あ……ありがとう。アイボさん」
「アイボじゃねぇ。ただのキツネだ」
「え……」
まったくそのようには見えず、思わずはぐれマンドラゴラは首を傾げました。
「お前が言いたいことは分かる。俺はもともとはそこらへんにいるキツネだった。けれど俺の飼い主だった人間が、俺の体を機械で少しずつ取り替えてこうなったんだ」
サイボーグキツネが言うには、彼の飼い主はキツネのことをたいそう愛していたばかりに、足が悪くなったら機械の足を、心臓が悪くなったら機械の心臓を、と改造し続けたために、全身が機械にとってかわったそうです。
その飼い主が先日亡くなってしまい、彼があてもなくうろついていたところ、たまたまマンドラゴラがいじめられている場面に遭遇したのです。
「俺は俺がキツネなのか機械なのか分からない」
彼は身の上話を語ったあと、ぽつりと言いました。
「僕もそうだよ。叫べないマンドラゴラってマンドラゴラじゃないと思うんだ」
「じゃあ叫ぶ特訓をしないか? 俺が手伝ってやる」
「どうして助けてくれるの?」
「俺がお前の悲鳴を聞きたいからだ。もし俺が本当に機械だったら生き残る。けれどキツネだったら死ぬ。俺は俺が何なのか知りたいんだ。頼む」
「分かった、がんばるよ」
そうして1本と1匹の血の滲む訓練が始まりました。
キツネは容赦なくマンドラゴラを扱き上げました。マンドラゴラは時に挫けそうになることもありましたが、真のマンドラゴラになるため必死で耐えました。
その特訓の果てに、気弱なはぐれマンドラゴラはキングマンドラゴラへと進化しました。そしてもう誰にだって怖気付くことはないと自信を持てるようになりました。
「ありがとう。キツネのおかげでこんなに成長したよ」
「俺はただ特訓に付き合っただけだ。お前がめげずにがんばったからだよ」
「キツネならそう言うと思った。じゃあさっそくヤンキーたちの元にいってくる」
「いや、お前の悲鳴を俺が初めに聞きたい」
マンドラゴラはためらいました。
今まで叫べないマンドラゴラとしてバカにされ続けずっと孤独でした。そんな中、共に過ごしたキツネはたった1匹の友人なのです。
けれど約束は約束でした。
「さぁ、引き抜くぞ!」
地中に埋まったキングマンドラゴラの頭にキツネの手がかかりました。
これが、彼の望みなのだ。
キングマンドラゴラはそう言い聞かせました。
ズボッと引き抜かれ、地上に顔がでました。
さぁ叫ぶぞと口を開いたその時――
キツネと目が合いました。
「……」
「……」
マンドラゴラは口を開いたまま何も言わず、沈黙が訪れました。
「叫べよ」
「いやだ」
「叫べよ! 真のマンドラゴラになるんだろ!」
「キツネを失うかもしれないなら、叫べないマンドラゴラでいい。それに気づいたんだ。だれがなんと言おうと僕は草じゃない。マンドラゴラだ」
「……お前はそれでいいのか?」
「うん。キツネさん、色々とありがとう。そしてごめんね」
はぁとキツネはため息をつき、キングマンドラゴラの頭からそっと手を離しました。
「いや、いいんだ。実を言うとお前が口を開けた瞬間、まじでビビった。笑ってくれよ。自分で言っておきながらなさ」
「そう感じたなら、キツネさんは機械じゃないと僕は思うよ。心があるんだから」
キツネは赤い目をピコピコ光らせマンドラゴラを見つめました。
「そうか……そうかもな」
「それにさ、たとえ体が全部機械でもキツネさんはキツネさん以外の何者でもないよ」
「そしてお前は、叫べないマンドラゴラでもマンドラゴラだ」
そしてその場で2人、しばらく笑い合っていました。
「死に損ねたし、どうしようかな」
「僕は楽しいことを探しにいきたい。海にはクジラっていう大きな生き物がいるんだって。一緒にどう?」
「いいな、行こうぜ!」
マンドラゴラとキツネの旅が始まりました。
風が2人を祝福するように吹いていました。
はぐれマンドラゴラとキツネ ももも @momom-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます