「オニサン…」

低迷アクション

第1話

「キッカケはエアコンの送風機能だったんです」


母子家庭の“Aさん”は、そう話を切り出す。彼女は小学生の娘とアパートに

1人暮らしだ。亡くなった夫が残した蓄えはあるものの、夕方までのパート勤務に就いている。


娘は低学年だが、1人での留守番が問題ないとわかり、今は鍵っ子の生活…


そんな、夫のいない生活がようやく落ち着いてきた頃、妙な事に気が付き始めた。


夕食時、エアコンの風が、誰もいない所に吹いている。最近のエアコンはCMの通りなら、人に反応し、集中的に風を送る機能がある事になる。


それが本当なら、自分と娘に風が当たる筈だ。疑問に思う彼女の前で娘が可笑しそうに笑う。


「やだぁ~っ“オニサン”ったら、服着てないもんね~、寒いの当たり前だよ~」


娘の言葉が気になり、Aさんは尋ねる。


「オニサン?マミちゃん(娘の名前)、それ誰の事?」


母親の問いに、娘は少し小首を傾げた後、話し始める。


「オニサン、いるよ。ママとこないだ、パパのお墓にいって、ナムナムしてたら、

こっち見てて、ついてきたの。それからずーっといるよ。ママがいない時もオニサンいる。だから、マミ、寂しくないの!」


オニサン…娘の心が作った友達?

そう言えば、時々、誰もいない空間に話しかけているのを見た事がある。


Aさんは紙とペンを渡し、娘にオニサンの姿を描かせてみた。


「マミ…これ…鬼、さん?」


出来上がった絵は、2本の角を頭から生やした人の姿…


「うん、本で読んだ“泣いた赤鬼”と同じ、だからオニサン!あっ、そうだ」


何かを思いついた様子の娘が、立ち上がり、走り去る。

驚いたAさんが腰を上げる前に、娘は、夫の生前着ていたコートを持ってきていた。


「はい、オニサン!」


娘がコートを宙に投げ、それが床へ落ちずに、まるで人が着ているみたいな形で

空中に留まった時、Aさんは悲鳴を上げ、そのまま気絶した…



 話し終えたAさんに、私は尋ねる。


「今も、その…オニサンは家にいるんですか?」


こちらの問いに彼女は暗い顔で頷く。


「はいっ、最近はもっと酷くなって…食器が浮いたりします。娘は喜んでます…

夫が、父親がいた頃みたいに…一体、私達はナニを連れてきたんでしょう?」


「…わかりません、ですが、娘さんに被害はない。なら、悪いモノではないのでは?」


「ええ、多分…でも、こうは考えられませんか?

昔話じゃないですけど、娘が大きくなるのを待ち、大きくなったら…」


そこまで喋り、彼女は口を噤んだ…(終)

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「オニサン…」 低迷アクション @0516001a

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