第4話 消えたハルカと天使の策略

「私は代理天使のタントロン。クラリッサ・タントロンよ」


 白いドレスに身を包み、寂しい胸を精一杯に張って偉そうな態度を取っている。彼女は代理天使だと言う。


「私を拷問しようとしていたそこのおチビちゃん。私より貧相な胸で生意気なのよ」

「胸……胸……私が貧乳だからって誰かに迷惑かけるわけじゃないのよ。そんな事よりハルカさんをどうしたの? 正直に答えなさい。でないと、電気椅子と嘘発見器を今から突貫で作っちゃうからね。急いだら時々誤作動するけど、天使だっていうならへっちゃらだよね!」

「この貧相なガキんちょが生意気言ってんじゃないよ!」

「うるさいわね。私は見かけ中学一年生だけど、本当はもっと年食ってるのよ。実年齢は秘密だけど」

「何わけわかんない事いってるのよ。あんた豚になりなさい」

「?」


 突然、タントロンとノエルの口論が始まったのだが、タントロンが右手を高く上げその手の中に黄金の杖が出現した。そしてその杖をノエルへ向けて振ろうとしたその時、マリーの右フックがタントロンの顔面を捉えた。タントロンは畳の上にぶっ倒れてピクピクと痙攣していた。


「こいつ、何か物騒な魔法使おうとしてたな」

「ですね。じゃあこの物騒な杖は取り上げます」


 美冬がタントロンの右手から黄金色の杖を奪う。そして、泡を吹き白目をむいているタントロンの頬をぺちぺちと叩くのだが、タントロンは完全に気を失っているようで反応は無い。


「あちゃー。やりすぎちゃったな。こいつが目を覚まさないと尋問できないわね」

「天使だとか偉そうな事言ってたけど、てんで弱いじゃないの。この格好もコスプレよね」


 タントロンの頬をソムリエナイフでつつきながら、ノエルがつぶやく。その場の皆がどうしたものかと考えあぐねていたその時、部屋の中央が眩しく光り始めた。その眩い光球の中から、ハルカが忽然と姿を現した。


 ぜいぜいと肩で息をしていたものの、服も汚れておらず怪我をしている様子もない。ただし、ピンクのブラウスとベストの上に、ボロボロの上着を羽織っていた。


「ハルカさん」

「大丈夫だったのか」


 ミハルとマリーの問いに答えられないハルカ。自分の身に何が起こったのか思考を整理しているようだった。


「私、勝負に負けてしまいました」


 ハルカの一言に、美冬とノエルは驚いていた。


「負けたって?」

「ハルカさんが?」


 二人はハルカが高性能な戦闘用サイボーグである事を知っていたのだ。そのハルカが負けるとはどんな勝負をしたのだろうか疑問に思っているようだ。


「負けた。あの、なんちゃらかなめって女に。もう……あんな場所で綱引きさせるなんて……主催者の奴め、今度会ったら雷撃で黒焦げにしてやる!」

「綱引き?」

「なんちゃらかなめ?」

「そう、なんちゃら要。苗字は忘れた。まあ、彼女も私と同様、何処かの世界から召喚され、ゲームをさせられたんだ」


 ハルカの言葉が腑に落ちないのか、美冬とノエルはそろって首を傾げている。マリーは何か掴んだようで、畳の上に転がっているタントロンを軽く蹴飛ばした。


「ふーん。こいつが元凶なのは間違いない。代理天使と名乗っていたが、その主催者とやらの代理で何かの競技を開催するために人集めをした」

「なるほど」

「こいつやっぱり悪い奴だね」


 ノエルが転がっているタントロンを指さす。

 そしてハルカはそのタントロンの顔をまじまじと見つめ……何か思い出したようだ。


「こ、こいつは!」

「ご存知なのですか。ハルカさん」


 ハルカの顔が歪む。何か、思い出したくない記憶が蘇ったのか。


「知っているの何も、こいつのせいで酷い目に遭った。肥溜めよりも臭い汚物の島で戦わされたからな。仕返しにこの天使も汚物の島へ頭から突っ込んでやったのだが……」

「肥溜め?」

「何かな?」


 美冬とノエルは肥溜めが分からないようできょとんとしていたが、マリーは話が理解できたようで、必死に笑いをこらえていた。


「だから、ハルカさんに仕返ししようと企んだんだな。こいつは」

「え? つまり、ハルカさん好みのオジサンに化けて?」


 マリーはしきりに頷いて納得していたし、美冬は裏切られたハルカを心配そうに見つめていた。


「怪しいと思っていたんだ。何か怪しいって。あの黒部様はタントロンが化けてたなんて…………………………………………やっぱり腹が立つ。この貧乳天使め!」


 ハルカは全身に雷をまとい、拳を固めて渾身の一撃をタントロンのお腹へと放つ。


 感電したタントロンは一瞬目を覚ましたものの、ピクピクと痙攣しつつ再び昏倒した。白いドレスは焼け焦げて所々穴が開き、また、金髪の巻き毛は焼け焦げてチリジリのカーリーヘアに変化した。


「これ、どうしますか?」


 つんつんと、ソムリエナイフでタントロンの頬をつついているノエルが質問するも、ハルカはプイっと横を向く。


「こんな馬鹿の事は忘れて、お風呂へ行きましょう」


 マリーの提案に皆が頷く。

 そして、大浴場へと移動しようとしたその瞬間に、美冬の体が光に包まれた。


「美冬姉さま!」


 ノエルが美冬の手を掴もうと右手を伸ばしたのが、何も触れる事は出来なかった。美冬の姿は忽然と消えていたのだ。


※ハルカ・アナトリアvs長曾祢要ながそねかなめは南木様のエピソードを参照してください。


「出撃! 六花特殊作戦群」

https://kakuyomu.jp/works/1177354055352339386


「ロープは半分こ? 1」

https://kakuyomu.jp/works/1177354055352339386/episodes/1177354055406896546

「ロープは半分こ? 2」

https://kakuyomu.jp/works/1177354055352339386/episodes/1177354055410435171

「ロープは半分こ? 3」

https://kakuyomu.jp/works/1177354055352339386/episodes/1177354055423676878


※タントロンとハルカのアレコレに関しては、こちら「雷神のアナトリア」を参照してください。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054917930889

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