ロープは半分こ? 2
偶然にも、二人が引っ張る力はほぼ互角だった。
しかしながら、双方ともそのことに大いに驚いていた。
「うそ…………今の力と互角ですって!?」
「ちょ、ちょっと! なんですかその力!?」
「いったい……あなたは何者ですか? まさか魔の物ではないでしょうね?」
「魔物だなんて、冗談じゃありません! 私はハルカ・アナトリア! 火星プラントの観光案内を務める、サイボーグですから! トラックくらいだったら余裕で引っ張れるんですけどね!」
「
対戦相手のハルカは、
綱引きの相手としてはかなり悪い方であり、見習いたちであれば太刀打ちできなかったかもしれない。しかし幸いなことに、
少々驚いたものの、
「カナメさん、あなたこそ……なぜそんな力を? センサーでは、あなたの機械化率は0%と出ています!」
「ですから先ほど説明したじゃないですか。私は退魔士……超常の異能を操る資格を持つ国家公務員なんですよ。そして私が操るのは、悠久なる大地の力……則ち重力。これが意味するところは、お分かりですね?」
「なんですって!? じゃあその力は…………!」
「それがあなたの全力なら、私は勝たせていただきます。重力5倍!」
ガクンという衝撃と共に、ロープが1メートルほどの距離を持っていかれる。
ハルカは歯を食いしばって何とか耐えたが、危うくロープとともに持っていかれて、塔の上から前のめりに落下するところだった。そうなれば彼女の身はともかくとして、競技に敗北したも同然だ。
「うう……ずるいです! 最大出力を持っても力負けするなんて!」
「ふふふ、相手が…………悪かったわね?」
1メートル、また1メートルと、結び目は徐々に
しかし、ハルカもやられっぱなしではいられない。
彼女は持てる全力を振り絞ろうと、腕だけでなくほかの機関の出力も上昇させる…………そんな時、ハルカの放電機関が作動した!
「私だって! 負けられないんですからっっっっ!」
高圧電流がハルカの手を伝ってロープに流れる。そしてその電流は、一瞬にして
「いゃぁあああぁぁぁぁっっ!!?? お、おっぎゃあぁぁっ!? おあっ、あっはあぁぁっっ!!??」
感電という表現では生ぬるい威力の電撃が、
想像を絶する悲鳴を上げた
「え……えと? 私何かやっちゃいました?」
突然の強烈なスペクタクルに、電撃を放った当人であるハルカも驚きで数秒の間呆然としてしまう。が、
「はっ! 今なら逆転するチャンス! 死んじゃったらごめんなさいですけど、これも勝負だから、相手が悪かったと思ってあきらめて、ね♪」
想定外のことで人を死なせてしまったことに少々罪悪感を感じたハルカだったが、かといって中断するわけにはいかない。20メートルほど持っていかれてしまった距離を取り戻すため、ハルカはいそいそとロープを巻き上げる。
そうして、ロープの結び目が今度はハルカの方にどんどん近づいていく。抵抗は全くなく、何事もなければそのまま勝てるだろう…………そう思うのも無理はないが、やはりそれはフラグとなった。
緩んでいたロープが再びピンと張られ、楽々引くことができていたロープが、またしてもガクンと止まってそれ以上引っ張れなかった。
驚いたハルカが向こう側の塔を見て見れば、倒れていたはずの
「なっ!? あなたまだ生きてっ!?」
「ふふふ…………退魔士はしぶといんですよ。そう簡単に死んであげませんから…………」
「お、おもらししたくせに…………」
「シャラップ」
服はボロボロで、髪の毛は焦げて乱れ、見た目はほとんど満身創痍であった。
だが、この状態でもなお
「ならば、もう一度!」
「ぐっ……うあっ!」
再び高圧電流がロープに流れる。
電流が流れるロープは、いくつかの個所でバチンバチンと火花を散らし、髪の毛でできた部分は焼けてひどい悪臭を放ち始める。
「ねぇ、よくも私をこんな格好にしてくれたわね。
「いや、そんなの知りませんよ。私みたいに、いつ誰に見られてもいいもの履かなきゃ」
「ふーん…………あなたのその下品な体は、見せるためにあるのね。じゃあ、これを食らっても平気よね?」
「下品だなんて失礼なっ! 私はお客様に喜んでもらえるように…………って、なにそれ!?」
「文字通り、丸裸にしてあげましょう……!」
飛び出した術札は、小さな戦闘機のような軌道で飛び立つと、ハルカめがけて紫色の光球を射出した。弾速自体はあまり早くないものの、ロープを引っ張ることで精いっぱいのハルカはこの攻撃を避けることができない。
「シールド磁場展開!」
ロープに回すはずだった電流をシールド発生素子に回し、高密度エネルギー体の盾を発生させる。
普通の攻撃であれば、このシールド磁場で十分防ぐことが可能なはずだが、術札から発射された紫の光球がシールドに当たってはじけると、その部分に修復が不可能なほどの大きな穴が開き、それが絶え間なく直撃することで、1秒も持たずにシールドを破壊してしまった。
それだけでも厄介なのに、紫の光球は発射され続け、彼女の服に直撃すると、その部分を大きく分解してしまう。
白いブラウスが、ピンクのベストが、チェックのスカートが…………紙屑のように消滅していく。
「きゃああああぁぁぁぁぁぁっ!!!???」
服が消滅するという異常事態に、ハルカは絹を引き裂いたような悲鳴を上げ、残りの光球を慌てて回避すると、手のひらから電撃を放って、飛び回る術札を急いで撃墜した。
だが時すでに遅く――――――ハルカの衣装はわずかな布切れを残すのみとなり、損傷の激しい下着では、見えてはいけない部分を隠すことができなかった。
そして彼女がロープから手を放している数秒の隙に、
「あーらあら、その辺もきれいなままなのね。非常識なくらい大きかったから、てっきりおっぱいミサイルとか装着してるのかと思ったわ」
「黙りなさい!」
黒焦げになり、太ももに失禁の跡を垂らす
想像を絶する激しい戦いになったが、お互いにまだ一歩も譲らない。
だが、彼女たちの知らないところで、大きな異変は進行していた。
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