第8話 全ての行き着く果てに

「雫…あなたはあの時消えたはずじゃ…」

「確かに私は消えた。だから今この場にいる私はあなたの中にいる思念のようなものよ。」

思念…私もどこかで雫を思う気持ちがあったということ…?

「玲子、何故あの子の元へ行かないの?」

「美子とは別れてしまったのよ…だからどうしたら良いのか分からなくて…」

「今まで喧嘩したことが無いって結構難しいものね…」

そうだ…私と美子は今までずっと一緒で喧嘩をするなんて考えたことも無かった。だから今私はこうして立ちすくんでいるだけなんだ…

「でもね、玲子…今はあなたのやるべきことを考えなさい。あなたなら分かるはずよ。」

「えっ…?」

「私には分かるわ、あの子があなたのことをどれほど信頼しているか…それが、どんな時も頼りにし、どんな時も一緒にいてくれた「凛条玲子」というあなた個人なのよ。」

「今、何をすべきか…」

コォォォ…

「もう私ももたないみたい…さぁ行きなさい。私が出来るのはここまでよ。」

「ありがとう…姉様…!行ってくる!」

やるべきことは分かった。今すぐにそっちに向かうわ…美子!




「ウォーーーンッ!!!」

「あれが…九尾狼!?」

禍々しい妖気を纏い、暗い夜の如き黒い体毛…一目で分かる…生半可なものではないと…!!

スゥゥゥ…キィン…

「刀を口にくわえた…!?」

「ヴァルゥ!!」

「炎華!!危ないっ!!」

「えっ…」

ジャキィン!!

炎華が…斬られた…?

スゥゥゥ…シュオン…

「炎華!?しっかりして!」

声をかけても返事は無い。まるで抜け殻の如く体は冷たく、それに、斬られたはずなのに傷跡が見当たらない…

「九尾狼はその九つの尾に斬った者の魂を封じ込める…全ての尾に魂が行き渡るまで手当たり次第に暴れ続けるのよ…!」

「じゃあ炎華の魂は今九尾狼の尾に封じ込められたってこと…?」

「そう…つまり裏を返せば、奴を倒せば封じ込められた魂も元に戻る!」

なら、早急に九尾狼倒さなければ…!

「こんなことになってしまったのは馬鹿な私のせい…でも私は一人で止められない妖怪を先の焦りから出してしまった…ごめんなさい…無責任だけど…」



「お願い…どうか…奴を止めて…!!」



「もちろん止めるよ…九尾狼は私が倒す!」

「ありが…とう…」

そう言うと鳴はさっきの戦いの疲れか、そっと目を閉じて気を失った。目を閉じた瞬間に見えたのは…彼女の頬を一筋の涙がつたっていたことだった…

「酒王さん達は鳴と炎華を安全な場所までお願いします。」

「待て…お前一人で大丈夫なのか!?」

「私を信じてください。こういうのは幾度となく経験していますから。」

「分かった…必ず生きて帰って来い!」

「はい!!」

酒王さんと酒殿さんは炎華と鳴を抱えながらこの場を立ち去った。

「グゥゥゥ…」

「コハク…あなたも一緒に戦ってくれるの?」

「バウッ!バウッ!」

コハクも一緒なら凄く頼もしい…!

「行くよ!コハク!」

「ウォウッ!!」

ドスッ!!

「コロロ……」

まずは口にくわえている刀を落とさなければ!

「コハク!背中を借りるよ!」

「ガウッ!」

バッ!

「蝶月輪…!」

ジャキィン!!

「月ノ美兎!」

ギチギチ…カァンッ!!

「グルァウッ!」

「くっ…!」

後ろから刀を弾こうとしたが、とてつもない力で凪ぎ払われた。やはり一筋縄では行かないか…!

バンッ!!

「グゥッ!」

「コハク!!」

「ガルァッ!!」

「あっ…!?」

九尾狼が目の前まで迫って来る…この距離を避けることは無理に等しい。私はここで終わりなのか…こんなとき玲子ちゃんがいてくれたら…!

「玲子ちゃん…助けて…!」

ガキィン!!

「……!?」

「こんなとき、いつも私を呼んでくれるのは…あなただけよ。美子…」

「玲子ちゃん!」

玲子ちゃんが戻ってきてくれた!最後に玲子ちゃんの顔を思い浮かべたから、想像の力で来てくれたんだ…!

「おかえり、玲子ちゃん。」

「ただいま、美子。そして、ごめんなさい…でも今はそんなこと言ってる場合じゃ無いみたいね。」

カチャッ…

玲子ちゃんが私に差し出したのはお兄ちゃんの刀である猛華刀だった。

「兄様の刀はあなたが使って。炎と氷で一気に畳み掛けましょう。」

「分かった!」

シュイン…ボシュウ…!!

ガチガチガチ…パキィンッ!!

地面に刀を擦り付け、刀に炎を灯す…玲子ちゃんは雪女の力で刀を絶対零度の温度に下げて氷の刀を作る…

「これで…終わりにしよう。玲子ちゃん。」

「えぇ…これで本当に最後…」




「「今ここで決着をつけるッ!!」」




「グォーーーーンッ!!!」

九尾狼の遠吠えで戦闘再開の合図だと理解した。

チャキッ…

「分散する一太刀…」

スッ…

「バゥガッ!!」

「氷刀・冬原千草。」

シュババババッ!!

「クォウ……!」

足元を狙った玲子ちゃんの無数の斬撃が九尾狼を襲った。その千を越える斬撃は私達に向かっている九尾狼の足を止めた。

「玲子ちゃん、そのまま足止めをお願い!そこを私が叩く!」

「良いとこどりってところね。あなたがそう言うなら、奴の隙を確実に作ってみせる!」

「ありがとう!」

ガチガチ…

玲子ちゃんはもう一度氷刀を作り出し、抜刀の構えへと移行した。それを察知したのか九尾狼が玲子ちゃんの元へと飛びかかる。

「グゥアウッ!!」

「玲子ちゃんの邪魔はさせない!天地爆葬!」

シュイン…ズドォンッ!!

「クキャッ…」

カチャン…!

「氷刀…」

ガキガキガキ…

「雪花氷輪。」

スッ…パキィンッ!!

「美子!今よ!」

玲子ちゃんが作ってくれた隙は逃さない!!

「猛華刀…!」

ボシュウ!!



「極……業火葬ッ!!!」



「グキャァァァァァ…!!」

炎と共に真っ二つに焼き斬られた九尾狼は最後に泣いているような断末魔をあげて絶命した。終わったんだ…これで全てが…

「ついにやったのね…」

「これで鳴も少しは楽になれる…よね…」

戦いへの疲れか、ふらふらとした拍子に倒れてしまった。

「美子…?大丈夫?」

「もう疲れて眠いや…」

「ふふ…そうね。今日はぐっすりと寝ましょう。」


ー翌日ー


「鳴も炎華も回復しているんですね、良かった~…」

「あぁ、もう少ししたらこっちに来るらしい。」

昨日の一件の後、九尾狼に封じ込められた炎華の魂は無事元に戻り、気絶していた鳴も今日の朝に目覚めたのだと言う。

「じゃあ俺は二人をここへ呼んで来る。」

「はい!ありがとうございます!」

酒王さんがこの場を去った辺りで玲子ちゃんが私に話しかけた。

『美子、あなた結婚するって本当なの?』

「えっ…何で私が真さんと結婚することを知ってるの?」

『人格は二つでも体は共有してるんだから分かるわよ。正直…嬉しい…美子が幸せをつかんだんだから。』

「玲子ちゃんは本当に良いの…?何だか私だけが幸せになっちゃうような感じで…」

『元はと言えば私はよそ者の魂よ。本当なら私は雪女として生きていくはずだった…あなたは行き場の無い私の魂に生きる為の場所を…幸せをくれたのよ。だから今度はあなた自身が幸せになってほしいの。』

「玲子ちゃん…ありがとう。でも幸せになるのも二人一緒だよ。」

『もう…あなたって人は…』

「それに、実は玲子ちゃんも真さんのこと好きだったりとか?」

『ちょっ…確かに真さんは素晴らしい方だけども…!』

「ぷぷっ…玲子ちゃん顔赤くしちゃって~」

『本当にあなたって人は…!』

これなんだ…いつもの他愛もない話をするこの日常が私は大好きだ。

「美子ー!連れてきたぞー!」

「鳴、炎華、無事だったんだね。」

「えぇ、あなたがあの妖怪を倒してくれたおかげよ。ありがとう。」

「美子…ごめんなさい…私が間違ってたわ。犠牲を払って弟を復活させるなんて…そんなのきっと本人が一番嫌だもの。あなたのおかげでこうして立ち直れた。ありがとう…」

「鳴が謝る必要なんて無いよ。鳴が無事だったならそれで良いんだ。」

「良い雰囲気のところ邪魔してすまないが、彼に帰ってきたと伝えに行かなくて良いのか?」

「あ!そうだった!真さんにそのことを言わなくちゃ…行ってくるねみんな!」

「ふふ…行ってらっしゃい、美子。」


ー雑貨屋ー


いつも通り真さんは店にいた。うぅ…婚約者となったとはいえやっぱり伝えるの緊張して慣れないな~…

「あの…真さん…」

「美子さん!」

「えっとその…約束通り仕事から帰ってきました…!」

「はい…おかえりなさい、美子さん。」

「…ただいま、真さん。」

愛する人が迎え入れてくれるってこんなにも暖かいものなんだ…これから毎日「ただいま」と「おかえり」で愛する人を暖かく迎え入れるんだね…



天国にいるお兄ちゃん…私はこれから、幸せになるよ!

続く。




今まで色んな人と出会って私はどれくらい成長したんだろう…



今もこうして…色んな人と繋がっているんだって思うんだ。



だから私は言いたい。私の幸せを心から祝ってくれている人々に……



みんな…ありがとう!



次回、大正百鬼夜行シリーズ完結。

「数日後の私へ」


いつまでも、忘れないよ…

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