最終話 数日後の私へ
数日後の私へ
お元気ですか。今あなたは今までに出会った人々に囲まれ、愛する人と一日の中で幸せな時間を過ごしているでしょう。数日後の私…どうかこの先も未来永劫幸せに暮らしてほしいです。
「「「美子!結婚おめでとう!」」」
煌びやかな着物を着て、みんなから祝福されるなんて…こんなに嬉しいことって初めてだよ…!
「似合っているじゃない、美子。」
「えへへ…そう言ってもらえると嬉しいな…」
「この後は宴会だろ?そろそろ会場へ移動したらどうだ?」
「あ、そうですね。じゃあ行きましょうか。」
ー宴会場ー
会場に着くと、馴染みのある人達が私達を待っていた。
「美子、玲子、結婚おめでとう。」
「天閣さん!」
「俺が半ば強引に連れてきたんだ。「お前の弟子が結婚式挙げる」と言ってな。」
「全く…もう少し加減というものを知ってもらいたいものだな。」
「言わないとお前は山下りて来ないだろうが。」
「は、はは…二人とも仲が良いですね。」
これこそ、喧嘩するほど仲が良いというやつかな?
「何はともあれ美子、玲子…君達が幸せになってくれるのは私としても嬉しい。旦那さんとこれからも仲良くしてね。」
「はい!ありがとうございます天閣さん!」
私が他のところへ行こうとした矢先、外から大きな声が聞こえてきた。
「おい見ろ…!あの人は奈月花魁じゃないか!?」
「私、初めて見たわ…!」
『どうやら奈月花魁も来てくれたようね。』
流石は遊女屋敷の花魁というだけあって皆に大人気だなぁ…もう人だかりで全然見えないよ。
「失礼します、少し通していただけませんか?」
ようやくとばかりに取り巻きの人達が通路を確保して奈月花魁が私の元へと顔を見せた。
「こんにちは美子さん。」
「奈月花魁!わざわざ遠くからお越しになってありがとうございます…!」
「美子さん、ご結婚おめでとうございます。あの日から更に立派になられましたね。」
「私はそれほど変わってはいません…ただ…仲間が、友達が…支えてくれる人々のおかげで今私はここにいるんだと実感しています。」
「なるほど…ではその人々をどうか大事にしてくださいね。」
「はい。後で咲寺さんにも結婚の報告を伝えに行きますね。」
「ふふ…咲寺もきっと喜びますよ。」
帰り際も多くの人の目を釘付けにしていった奈月花魁…大人の魅力って凄いなぁと改めて感じ取った時だった…
「お母さん…どこなの…?」
真さんと会場を散策していたところ、一人の泣いている女の子を発見した。
「迷子…でしょうか?」
「そうみたいですね。お母さんを探しているようですが…」
泣いている女の子に近付き、優しい声で尋ねる。
「どうしたの?お母さんと迷子になっちゃった?」
「お母さんとはぐれちゃって…ぐすっ…どこにいるか分からないの…」
「そっか…じゃあお姉ちゃん達とお母さん探そうね。」
「うん……」
良かった…とりあえず怖がらないで泣き止んではくれたみたい。一先ずこの子の母親を真さんと一緒に探しにいくことにした…
ー数分後ー
「吉乃ー?本当にどこに行っちゃったのかしら…」
「あっ!お母さん!」
どうやら母親と思われる人物を見つけたみたい。これで一件落着だね。
「花嫁さんに迷惑かけちゃダメでしょ?本当に申し訳ございません…!この子がはぐれてしまったばかりに…」
「いえいえ、大丈夫ですよ!あれ…?」
私は母親の人物に見覚えがあった…この人はもしや…
「もしかして…夜桜姫さんですか…?」
そう、数年前にお兄ちゃんと私達がある男性の依頼で助けた妖怪の女性…あれ?子供がいるってことは…!?
「良く気がつきましたね。お久し振りです美子さん。」
「やっぱり!まさかここで再会するなんて…その子は夜桜姫さんのお子さんなんですか?」
「はい。全ての事が終えた後、私はあの男性と結婚して子供の吉乃(よしの)を授かったのですよ。そして私は現在、桜という名前で花屋をやっています。」
「そうなんですか!じゃあ今度お邪魔してもよろしいですか?」
「はい!是非いらして頂いて!」
正直夜桜姫さんがあの後どうなったのか気になっていたし、現在の幸せな様子が聞けて良かった…
「ありがとう!お姉ちゃん!」
「吉乃ちゃん、今度は一緒に遊ぼうね!」
「おーい美子ー!こっちで写真撮ろうぜ!」
酒殿さんに呼ばれて私達は夜桜姫さん達と別れた。
「よし、じゃあ撮るぞー」
パシャッ、
「うっし、撮れた…ん?何だこのモヤモヤみたいなの。」
「モヤモヤ?」
酒殿さんが撮った写真を見せてくれたが、確かに私の横に何か霧のようなものがかかっている。
「うーん…撮り直すか?」
「いや、良いですよこのままで。記念すべき一枚目の家族写真ですから。」
「そ、そうか…う~…何か心霊みたいでちょっと怖いな…」
宴会場での食事などを終え、しばらく経った後、鳴が会場へとやって来た。
「鳴!来てくれたんだね!」
「えぇ、友達の結婚式だもの。少し遅れちゃってごめんね。」
「全然大丈夫だよ。来てくれただけでも嬉しいし!…というか、コハクはどこに行ったの?」
「あー…コハクならそこで子供達と…」
鳴の指をさす方向では、コハクが小さい子供達と戯れて遊んでいた。
「キャンキャン!」
「この狼さん大きくて毛がお布団みたい!」
「あの感じじゃしばらくの間帰って来ないね…」
でも子供達と楽しげに遊ぶコハクを見るとほっこりするなぁ…
「言い忘れてたけど…美子、玲子、結婚おめでとう。末永く幸せにね。」
「ありがとう鳴!私達…絶対に幸せになるから!」
「…玲子ちゃん。」
『何かしら?』
「玲子ちゃんは今、幸せ?」
『もちろんよ。これだけの人々に祝われて、何よりあなたが幸せな時間を過ごしているのが私にとっての幸せなの。』
「それを聞いて安心したよ。18年間の付き合いだけど、これからも…この先もずっと一緒に人生を生きて行こうよ。」
『えぇ…どんなことがあってもずっと一緒よ。』
玲子ちゃんにそう言われ、少し照れ臭く感じてしまう。
「じゃ、みんなのところに戻ろうか。」
『きっとみんながあなたを待ってるわ。行きましょう。』
宴会が終わり、がらんとした会場を後にし、みんなの待つところへと足を運んだ。
「どうした美子、この場を離れるのは名残惜しいか?」
「いえ、ちょっと玲子ちゃんと話してまして。」
「今日から美子は旦那さんの家で暮らすのかぁ…何かちょっと寂しいな。」
「別に今生の別れというわけでもないだろ。こんな兄妹だが、これからもよろしく頼む。」
「いえいえ!こちらこそよろしくお願いします!」
「酒王さん達に続くようで申し訳ないけど私からもよろしくね。」
「炎華…もちろんだよ!炎華もこれからよろしくね!」
お兄ちゃん…私は今でも、そしてこれからも…仲間達と日々を過ごすよ。お兄ちゃんがあの時言ってくれたように…私は強く生きていくよ。
「みんな…今更こんなことを言うのもあれだけど…」
「みんな…ありがとう!」
眩い夕日の光が私達の足元を照らしていた。
終わり。
シリーズのご愛読、誠にありがとうございました!!
「お?どうした、お前さんまでこっちに来ちまうなんてよ。」
「僕も、この世の未練を晴らせました。だから僕はついさっきここへ…」
「俺に続き、お前さんもついに成仏か…んで、お前さんの未練って一体何だったんだ?」
「妹の…幸せな姿を見届けることです。」
「幸せ…ねぇ…でもお前さんの顔を見た感じ、満足そうな顔をしてやがる。そうだろ?秀次の兄ちゃんよ。」
「えぇ、とても…とても素晴らしい一日でした。」
大正百鬼夜行~完結~
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