第7話 失いたくない者

「なるほど…狼月一族のやつとそんなことが…」

私は昨日の夜にあったことを皆に話していた。

「このままだと今日の夜には多くの命が…!」

「落ち着け、美子。お前らしくないぞ。」

「やめなよ兄者。今は心の支えになっている玲子もいないんだから…」

「美子!本当にあなたどうしちゃったのよ!」

隣にいた炎華が私に迫って言った。

「ちょっ…炎華ちゃん、いきなりそう言うのは…」

「待て酒殿。これは彼女なりの言葉なのかもしれない。」

「あなたはいつも笑顔で皆を迎えてくれるじゃない!酒王さんの言う通り、あなたらしくないわよ!!」

「分かってるよ!らしくないのは私が分かってる!でも私は…誰も傷つけさせたくない!もう誰一人も…失いたくない…だって皆は私の大切な仲間だから!!」

「だったら私達も全力であなた達を守る!!もうあなた達だけに辛い思いはさせないから!!それくらいの約束をしても…良いでしょう…!?」

「……!!」

そうだ…私は一人で全部背負い過ぎてたんだ…大切な仲間がいるのに、全部抱え込んで大事な事が見えなくなってた…今の私は一人じゃない。だって今目の前に…その「大切な仲間」がいるから…!!

「ありがとう炎華…おかげで私、吹っ切れたよ。」

「あぁ良かった…美子!」

ギュッ。

嬉しさのあまりか、炎華は抱きついて来た。

「ちょっと、いきなりすぎるよ~…」

「ごめんね、私ったら嬉しくてつい…」

いきなりすぎて私もちょっとびっくりしたよ…

「良し…皆、今日の夜に鳴の元へと向かう…!」

「もちろんだ。断る理由があるものか。」

「皆…ありがとう!」

「それと、彼に言わなくて良いのか?」

「彼…?」


ー雑貨屋ー


「あっ、美子さん。今日はどうしたんですか?」

「実は…少し話があって…」

凄い心臓が破裂しそうだ…

「私、次の妖怪退治屋の仕事がとても危険で…その前に真さんに言っておきたいことがあって…」

「言っておきたいこと…?」

「私は……」

言ってしまえ…!言ってしまえ凛条美子…!

「私は真さ…」

「でしたら、僕も美子さんに伝えなくちゃいけないことがあって…」

「えっ…?」

遮られた?いや別に悪いことではないんだけど…まさか勇気を振り絞って言おうとしたところを…

「その…これが終わったら…僕と…」

僕と……




「僕と結婚してくれますか…?」




「えっ!?」

「な、なんだってぇぇぇぇぇぇ!!??」

「おい馬鹿!!声がでかいぞ酒殿!!」

け、結婚!?真さんと私が…しかも真さんの方から結婚の約束だなんて…!?

「えっと…いきなりこんなこと言ってすみません。美子さんはその…魅力的で仕事も健気に頑張っていて…そんな美子さんのことが僕はずっと好きだったんです。」

「あの…その…実は…私も真さんのことが…す、好きで……」

うそ…私いきなりの告白で焦っちゃってる…!?こんなので良いのか美子!?

「だから結婚ももちろん…私で良ければ…」

「ありがとう美子さん。嬉しいです。僕はここで待っていますから…必ず帰ってきてくださいね。」

「必ず生きて帰ります。だから…こんなこと言うのも早いですけど言わせてください…」

ギュッ。



「愛しています。」



「僕も…美子さんのこと愛していますよ。」

真さんを抱いて言った言葉はしっかりと心に届いているようで良かった…真さんの為にも私…必ず帰らなきゃ…!

「えぐっ…ひっぐ…」

「何で酒殿さんが泣いてるんですか…」

「こいつ、こういう場面に脆いんだよ。昔っからな…」


ーその夜ー


「ウォウッ!!」

「コハク!待っててくれたの?」

「これが…狼月の守護獣なのか?」

「こんなに大きいとは思わなかったわ…」

「右に同じく。」

そりゃこんなに大きい狼見たらみんなそう思うよね…

「コハク、みんなを乗せて行ける?」

「バウッバウッ!!」

「乗せて行けるみたい!みんなコハクの背中に!」

ドンッ、

「クゥ~…!」

流石に四人は不味かったか…?

「大丈夫コハク?無理はしないでね!」

「クゥ…バウッ!」

バッ!!

「うおうっ!?」

何とか態勢を立て直して走れたみたいだ。このまま鳴の元へ…!




「本当に来たのね。だけど、もうすぐ九尾狼の封印は解かれる!」

「それまでに…私達が止めるよ!!行こう、みんな!!」

「「「了解っ!!」」」

「数で押せるとでも思った?私は多人数も相手に出来るのよ。」

ガリッ、バンッ!!

「口寄せ・狼群像!!」

シュボボボボ…

「ヴォウッ!!」

自らの血を媒介に多数の狼を口寄せした…!?

カシュッ…シュババババ!!

「灼炎雨。」

「ハッ!!せいっ!!」

ドゴォッ!!

「みんな…!!」

「この狼の群れは俺達に任せろ!お前は狼月の所へ!」

有無を言わず、私は鳴の元へと走った。みんなが戦っている間に、私は鳴を…!

「やはり、あなたなら私を必ず止めに来ると思ってたわ。あなたの性格からして逃げるような真似はしないもの。」

「私はこの争いを止める。そして鳴も…救ってみせる!」

「ならば…全力で来なさい!!」

チャキン…

鳴は一瞬の内に短刀を爪の如く装備し、戦闘の態勢へと入った。やはり戦闘になっても玲子ちゃんは戻って来ない…でも今は私だけでも鳴を止めなければ!

「蝶月輪…」

チャキッ…

「一刃!!」

シュバッ!!

「流石に速い…でも速さなら私も負けてはいない!」

キリキリ…

「牙狼乱舞ッ!!」

しまった!二刃の繋ぎまで間に合わない!

ギャリィン!!ギャリィン!!

「ぐっ…!」

ブシュッ!

「ぐあっ!?」

肩を少し裂かれたか…一糸乱れぬ乱舞は防御の隙を突いてくるということ…!?

バッ!

ならば上から速度を乗せた兜割りで…!

「月ノ美兎!!」

ガキィン!!

防御はされたが…この爪を弾き返せれば…!

ギチギチ…ガァンッ!!

「なっ…!?」

今だ!!

「蝶月輪…」

スッ…カチャン。

「月花閃。」

ドンッ!!

「ッ…何故峰打ちでトドメを刺さないの…今ので私を倒せる絶好の好機だったじゃない!!」

「言ったよね…私は鳴を止めに来たって。殺しに来たんじゃない。だからトドメは刺さない…」

「あなたはどうしてそこまで甘いの!?今の私はあなたの敵なのよ!!いいわ…次の一撃で白黒ハッキリつけましょう…」

チャキッ…

二人の間に沈黙が走る。これで決めれば終わる…お互いに一歩も譲れない…

バッ!!

「牙狼閃!!」

「月花閃!!」

お互い垂直に突進し、後方に斬り抜ける…

フラッ…

「本当にあなたは甘いわ。でもその甘さが人を惹き付けるの…かも…ね…」

倒れたのは鳴の方だった。峰打ちでもう一度やったものの、二回も食らった鳴はその場にうつ伏せで倒れた。

「鳴!大丈夫!?」

「私の負けよ…あなたは私との勝負に勝ったの…これで封印は解かれ……ッ!?」

横を向いた鳴は驚いた形相をしている…

「鳴…?どうかしたの?」

「封印が消えない…!?何で…!?」

「何だって…?」

封印が消えないということは…もう九尾狼は…!?

「美子!そっちは大丈夫なのか?」

「何とか…でも鳴が…!」

ズドォォォォンッ!!!

「何だ!?」

「封印が解かれた…九尾狼の封印が解かれたのよ…!!」

森全体を揺るがすような揺れの後、土煙から姿を現したのは…

「ガルルル…」

「こいつが…まさか…」

「ウォーーーーンッ!!!」





勢いで美子と別れてしまった…今外で美子達が戦っているのに…私は…美子に何て言えば良いのだろうか…

「玲子……」

私を呼ぶ声?でもここにいるのは私一人なのに…

「…!?あなたは…!」

「久しぶりね…玲子。」

私を呼んだのは「あの時」消えたはずの雪女としての姉、雫だった。

続く。



告予回次

「玲子…今あなたのやるべきことを考えなさい。あなたなら分かるはずよ。」


「コハク…あなたも一緒に戦ってくれるの?」

「バウッ!バウッ!」


「いつも私を呼んでくれるのは…あなただけよ。美子…」

「玲子ちゃん!」

次回「全ての行き着く果てに」



これで…終わりにしよう。玲子ちゃん。


えぇ…これで本当に最後…


「「今ここで決着をつけるッ!!」」



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