第6話 正義と結束

「バウッバウッ!!」

鳴の元へとたどり着いた私達だが、コハクが焦るかのようにしきりに吠えている。

「鳴…?一体何をしてるの?」

「美子…こ、これは…」

鳴の足下には何かの印のようなものが書かれている上に、何故か鳴の右手は血だらけになっていた…

「右手が血だらけだけど大丈夫?誰かに襲われたの?早く手当てしないと…」

『…………』

「これは転んだ時に血が…」

『待って、美子…この印は…!!』

「玲子ちゃん、どうかしたの?」

『この印は血で塗られているわ…!妖怪を召喚する為の「口寄せの印」よ!』

「口寄せの印が…血で…」

玲子ちゃんの言葉を聞いて私ははっと息を飲んだ…まさか鳴の右手が血だらけなのは…

『それに…コハクがここへ来る前の悲しげな声、ここに来た時の急ぐような声…普通ならここまで吠えたりするようなことはしない…きっと鳴は何かを…』

「やめて玲子ちゃん!それ以上鳴を…」

「もういいわ。美子…全て話すわ。」

「鳴…?」

重くまぶたを開けた鳴は静かに語り始めた。

「玲子の察している通り、私はある妖怪を口寄せしようとしてたの。」

「一体…何の妖怪を…?」

「九尾狼(きゅうびろう)…かつて狼月の一族によって封印された禁断の妖怪よ。」

「何でそんな危険な妖怪を今解くの?一体何の為に…?」

「九尾狼は九つの尾に魂を宿した時、その魂と引き換えに一人だけ蘇らせることが出来る…私はそれで弟を…!」

鳴の顔には本気で実行するという眼差しが感じられた…それと同時に「もう後には引けない」という覚悟も…

「それって、他人までも巻き込んで蘇らせるってことだよね?そんなの…弟さんは…」

「もうコハクと暮らす冷たい夜は嫌だ…私は家族と暮らしたいの!お兄さんを亡くしたあなたなら分かるでしょう…?」

「それは違う!!確かに私は兄を目の前で失った…でも兄の死は決して無駄じゃなかった!兄は今でも私達を見守ってくれている…あなたも一人じゃな……」



「赤の他人のあなたが、勝手なこと言わないでよ!!」



「っ…!?」

『もういい美子、代わって。』

「代われって…鳴をどうする気なの!?」

『もう彼女は以前とは違うわ…ここで斬る!』

「何を言ってるの玲子ちゃん!?鳴は友達じゃない!」

『これ以上彼女を放っておいたら多大な被害が出るのは目に見えてるでしょう!?悲しいけど…私達で止めるしかない!ここで彼女を止めなかったら誰が止めるって言うの!?』

玲子ちゃんの言っていることも分かる…でも…!

「それでも…嫌だ…!鳴を傷つけたくない…!」

『お願い、代わって!!』

「嫌だッ!!」

ガクガクと震える手を止めることは出来なかった…この手で友達を傷つけるなんて…私には出来ない…!

『分かった…危険を放っておいても良いと言うのね。あなたには失望したわ。さようなら…』

「待って玲子ちゃん!待って…!」

その瞬間、私の心に穴が空いたような感覚を覚えた。玲子ちゃんが埋まっていた部分が、そっくりそのまま無くなってしまったかのような……

「はぁ…はぁ…」

「話は…済んだのかしら?」

「鳴、今からでも遅くないよ…こんなこと早く…」

「今分かったでしょう…私とあなたの意見は対立しているって。ならば、やるべきことは一つじゃない…!全力で私を止める。他人の命を奪ってほしくないのなら、力づくでも私を止めなさい!!」

何で…何でそうなるの…何で争わなくちゃいけなくなるの…

「九尾狼が口寄せされるまで一日はあるわ…それまでに私を…」

「止めるよ。絶対。私の仲間達と一緒に……行こう、コハク…」

悲しげな顔を見せるコハクを連れて、決して振り返らずに鳴の元を去った。






「ク~ン…」

「ごめんね…コハク…あなたの主と決別なんかしちゃって…」

何故あんなことになってしまったのだろうと思い返すと…私は何て馬鹿なのか…悔しいよ…

「玲子ちゃんも、鳴もいなくなっちゃった……私は…どうしたら…」

ポツ、ポツ…ザーッ…





「こんなとき……どうすれば良いの…!?」





降りしきる冷たい雨の中、ポロポロと崩れる涙を流しながら吐いた言葉はコハクにしか届かなかった。私の涙を見たコハクは、私が雨に濡れないように、身を挺して傘になってくれた…

続く。



告予回次

「今日の夜、鳴の元へと向かう…!」


「これが終わったら…僕と…」

「必ず生きて帰ります。だから…」


「もうすぐ九尾狼の封印は解かれる!」

「それまでに…私達が止めるよ!!」

次回「失いたくない者」



「玲子……」

「…!?あなたは…!」

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