第5話 血が受け継ぐもの

キリキリ…

「灼炎矢!!」

シュボッ!!カキィン!!

「やっぱり炎華は矢の扱いが凄いわね。」

放たれた炎の矢を難なく防御しながら一撃をかまそうとする。

「蝶月輪…」

バッ!!カチャ…

「月ノ美兎!!」

ガキィンッ!!

素早く跳躍した勢いのまま兜割りをしようと考えたが、弓でそのまま防がれてしまった。

「隙あり!」

シュボッ…

「灼炎小太刀!!」

ガァンッ!

矢を逆手に持ったかと思えば炎の小太刀を形作って近接攻撃をしてくるなんて…!こんな予想外のことが…

「いつの間に近接技を編み出してたなんてね…!」

「いつまでも遠距離からじゃダメだと思ってね、密かに近接でも攻撃出来る技を編み出してたのよ!」

「そう…じゃあこれならどうかしら…!」

シュオッ…

私の体から冷気が溢れ出す。雪女の力を使えば炎は効かない!

「蝶月輪、無刃…」

フシュゥゥゥゥ…

体に溜めた冷気を一気に放出して目眩ましを狙う…

カシュッ!カシュッ!

「むっ…?」

「確かにあなたの冷気の前では私の炎は無力。だけど、矢を拡散させたら…どうなるかしらね。」

「なっ…」

頭上に大量の矢が…いつの間に…!さっき横から飛んできた矢は気付かせない為の作戦か…

「灼炎雨!!」

シャクシャクシャク!!

キィンキィンッ!!

「ぐっ…!」

「流石にこの量の矢は避けきれないはずよ。どう?私だってやれば出来るんだから!」

「いくら修行とは言えど、まともに食らえばまずかったわ…」

見ない内に随分と技に磨きをかけたみたい…私もうかうかしてられない!

「まだやれる?玲子。」

「えぇ、勿論。今日はとことん付き合って貰うわ…!」

そう言うと、炎華は「待っていた」とばかりに微笑みを見せた。


ー翌日ー


「うっ…肩こりが酷いや…」

私もまだ若いとは言え、昨日あれほど動けば体に影響が出る…逆に良く疲れを感じずに動けたもんだよ…

『ごめんなさいね。久しぶりに炎華と修行したからつい…』

「修行は良いけど、仕事に支障が出ないようにって……ちょっと待って…」

『美子?どうかしたの?』

私達の向かい側、真さんの雑貨屋の側にあの時の男性が立っていた。

「よっ、また会ったな。」

「あっ…あの時の!」

私達が声をかけるまでもなく向こうから声をかけてくれた。

「……あの…」

今言うべきか…この人の存在について核心めいたことがある。前に真さんのところに訪れた時に私達は悟ってしまったのだ…この人は何者なのかを…

「おっ、何か言いたそうな顔をしてるな。まぁ言いたいことは分かる。だが、「それ」を話すにはちょっと場所を変えた方が良さそうだな。」





「ここなら大丈夫だな。それじゃあ、何が言いたいか言ってみろ。」

「単刀直入に言います。」




「あなたは…真さんのお父さんなんですか?」




その狐面を真さんが手入れしてる時に真さんは「父が気に入っていたもの」と言っていた。その時に私達は核心に至った…

「はっはっはっ!!まさかこんなに早く気付かれるなんてな!!大当たりだ。お前の言う通り、俺は稲木真の父親…稲木秀(いなぎしゅう)だ!」

「秀さん、何故私達の前に現れたのですか?他の人に秀さんの姿は見えないのですか?」

「気付いているなら今更言う必要もねぇが、俺は簡単に言えば幽霊、正確には地縛霊のようなものだ。当然限られた人にしか見えない。お前さん達の前に現れたのは正直偶然だ。俺はこの世に未練があるからな。この世に未練が残っているうちは完全に天国へ逝けねぇってこった。」

まさか…ぐ…偶然とは…

「その…残った未練とはどういうことですか?」

「ん?あぁ、俺の未練は「成長した息子を見る」ことだよ。」

「真さんを…?」

「そうだ。俺はアイツが小さい頃に死んじまったからな。俺はまだ成長したアイツを見てない…だからこの世に未練が残っていつまでもお陀仏になれない。まぁその未練も達成出来たしな…」

「えっ…それじゃあ秀さんは…」

「じきに消える。制限時間が来ちまったから、もうこの世にはいられない。」

「そう…なんですか…」

「そんじゃ、俺の息子を頼んだぞ。」

それってまさか…

「もしや気付いてないと思ったか?お前さん、はっきりと顔に出てるから分かるんだよ。ま、今更息子をやらねぇぞとか言うつもりは無いから安心しろ。」

やっぱり言われた…!

コォォォォ…

「おっと時間が来ちまったみてぇだな。ここで別れるとするか。最後にお前さん達と会えて嬉しかったぜ。」

「こちらこそ…秀さんと話せて良かったです。」

「おっと、最後に一つ言わせてくれ。」

「はい…?」

秀さんは最後にお面を外して素顔を見せた。その表情はやはり真さんとそっくりで、彼がそのまま成長したかのような素顔だった。






「お前さん達ならきっと、この先も…その先も…大きな壁に当たっても乗り越えられる。俺はそう信じてるぜ。ただの中年の直感がそう言ってるからな。」






ホォォォォ…

最後の言葉を残した後、風にさらわれるかのように消えた。そして、私の頬には…

ツー…

『美子…泣いているの…?』

「泣いてなんかいないよ…泣…いて…なん…か……」

私の頬にはいつしか大粒の涙がつたっていた。






『鳴達は今頃何をしてるのかしらね?』

「私もそれ思ってたよ。」

玲子ちゃんとの満場一致ということで、この日の夜は鳴の元へと行くことにした。


ー森林前ー


「あれ?コハク…?」

「クゥゥン…」

どこか悲しげな声を上げるコハク…どうかしたのかな?

「もしかして…コハクが何かを伝えようとしている…?」

『一体何があったのかしら?』

「コハクが悲しそうにするなんて、鳴に何かあったのかもしれない。コハク!鳴の元へ連れてって!」

この時の私達は鳴が何をしようとしているのか、そして立ちはだかる「大きな壁」のことなんか知る由もなかった…

続く。



告予回次

「鳴…?一体何をしてるの?」


「私は家族と暮らしたいの!お兄さんを亡くしたあなたなら分かるでしょう…?」

「それは違う!!」


『ここで彼女を止めなかったら誰が止めるって言うの!?』

「それでも…嫌だ…!鳴を傷つけたくない…!」

次回「正義と結束」


『あなたには失望したわ。さようなら…』


美子と玲子、絶縁の危機…!?

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