第3話 誰かの為に
「酒王さん、酒殿さん、狼月一族って知ってますか?」
私は昨日の晩に出会った鳴の言う狼月一族について他の妖怪に詳しい酒王さんと酒殿さんに話をしていた。
「狼月一族…どこかで聞いたことあるような…」
「確かそれなりに有名な妖怪一族だったような気もするけど…兄者。」
「やっぱり二人でも分からないんですか?」
「そうだな。ただ、俺が昔聞いた話だから真相は定かでは無いが…その昔、月の下でのみ動きが活発になるという狼の妖怪を聞いたことある。もしかしたら昔聞いた妖怪がその狼月一族なのかもな。」
月の下でのみ動きが活発になる…か…確かに昨日は月が出ていた夜だったような…
「それで、昨日は狼月鳴という子が使役しているコハクと呼ばれる狼の妖獣に街まで送ってもらったんです。」
「妖獣が側にいるということは、きっと狼月一族を守る為なんだろうな。」
流石酒王さん、察しが早い!
「でっ?肝心の乗り心地はどうだった?」
「おい酒殿、機械の乗り物じゃないんだぞ。」
「別に単純に乗り心地を聞いてるだけじゃん。で?どうだったの?」
「その…毛がふわふわで凄く心地良かったです。」
これを言うのも難だけど…何だか抱きつきたくなるような毛のふわふわ感だったなぁ。
「だよねだよね!あぁ~あたしも乗ってみたいなぁ~」
「全く…こいつと来たら…」
まぁ、酒殿さんの気持ちも分からなくもないけどね…
ー夕方ー
「依頼来ないや…」
『もう閉めていつもの温泉にでも行く?』
「そうだね。行っちゃおうか。」
私達が温泉へ行こうと真さんの雑貨屋を通ろうとしたその矢先…
「…………」
「えっ…」
何か…狐のお面を着けた男の人がこちらをずっと見ている。しかも雑貨屋の横で…
「…凛条…美子か?」
話しかけてきた!?
「えっ…そうですが…」
「急に話しかけて申し訳ない。俺はあんたの兄ちゃんと面識があってな。」
「何で兄のことを…知ってるんですか…」
お兄ちゃんがまだ生きていた頃、少なくとも私とお兄ちゃんが私達と行動している時にはこの男の人と出会った記憶は無い…
「数年前にあんたの兄…秀次と出会って仲良くなったんだ。あっ!言っておくけどな、俺は変質者とかじゃねぇぞ!?俺には妻も息子もいるし!くっそ、先に言っておくべきだったな…」
「う~ん…とりあえず私の兄と面識があるのは分かりました。それで私に何の用ですか?」
「まぁ大した話じゃない、少々予言めいたことなんだが…直にこの街に異変が起こる。」
異変?それってどういうことなんだろう…?
「そんなこと、分かるんですか…?」
「ただの中年の直感だ。そこまで気にするな。昔っから俺の勘は少々当たりやすいらしいからな。」
「はぁ……?」
正直に言ってこの人さっきから何言ってるんだろう…?
「邪魔して悪かったな。じゃ、また会えたらどこかで。」
「あ、はい。こちらこそ…」
そう言うと、狐面の男の人は私の後ろをすたすたと歩いて行った…
「ほんとに何だったんだろうね…あの人…」
『悪い人ではなさそうだけど、ちょっと感じ悪かったわね。さっ、早く温泉に急ぎましょ?』
「うん…そうだね。」
「秀次の兄ちゃんよ、あの子達の心配ならいらねぇ。あの子達は芯が通っている。この先のことも大丈夫だろうな…」
ー翌日の夜ー
「キャンッ!」
「コハク!来てくれたの?」
仕事の依頼を早めに終え、鳴のいる森に入ろうとしたところでコハクが待っていてくれた。
「わぁ!やめてよ~くすぐったいってば~」
コハクは私達になついてくれたのか、大きい体で抱きついてくる。ふわふわの毛がやっぱり気持ちいい。
「キャンッキャンッ!」
「え?また背中に乗せてくれるの?」
「クゥン!」
また背中に乗せてもらえるのか…凄く嬉しいや。
「よいしょっと…良し!じゃあ鳴のところまでよろしくね!」
「バウッ!」
バッ!!
私の声で勢いよく駆け出し、コハクは鳴のところまで連れていってくれた。
「鳴!また会いに来たよ!」
「コハクをそっちに向かわせた甲斐があったわ。ありがとう、コハク。」
「バウバウッ!」
コハクは主人の鳴に撫でられて嬉しそう…!
「そういえば思ったんだけど、鳴にはコハク以外に他の家族とかいないの?」
「私の家族はもういない。数年前から私とコハクだけ…」
えっ…鳴とコハクだけって…
「あっ、ごめん…聞いちゃまずかった?」
「いや、良いのよ。ちょうど良い機会だし、お互いのことについて話しましょう?」
「勿論だよ、一緒に話そう。」
「じゃあまず私から。さっきも言った通り、私の今の家族はコハクだけ。でも数年前まで私には弟がいたのよ。」
「弟…?」
続く。
告予回次
「私の一族は元々短命だから…仕方の無いことなのよ。」
「でもそんなのって悲しすぎるよ…」
「このお面って…」
「あぁ、これは亡くなった父が気に入っていたお面なんです。」
「それじゃあ、久々に全力で行こうか!」
次回「魂は何処へ」
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