第2話 狼月

「グルァウッ!!」

『玲子ちゃん!危ない!』

美子の声が言い終わるか否か、既に素早い動きで目の前に迫られた…これは流石に避けられない…!



「待って!この子と争うのはやめて!」



声のした方へ振り向くと、狼の耳が生えた女の子が立っていた。この子は一体…

「もうやめてコハク。彼女は敵ではないわ。」

コハクと呼ばれた白い狼は私の前から数歩退いてお座りをした。少なくとも見る限りこの女の子が飼い主で間違い無いみたいだ。

「あなたは…?」

「私は狼月鳴。狼の妖怪である狼月一族最後の生き残りよ。」

鳴と名乗る妖怪は淡々とした口調で話していた。

「えっと…私は二重人格なんだけど、今表に出ている私が凛条玲子で、内にいるもう一人は美子っていうの。」

「二重人格?結構面白い精神をしているのね。」

精神って…まぁ間違いではないんだけど…

「あなたがこの白い狼の飼い主なの?」

「飼い主とはちょっと違うかな。この子はコハクという狼月一族を守護する妖獣で、長い間私と共に過ごしてるの。」

「そう…さっきはごめんね…コハク。いきなり刀を向けちゃって。」

「クゥゥン…」

まるでコハク自身も謝るかのように悲しげな鳴き声を出した。

「この子ちょっと目を離すとどこかに行ってしまうのよね…森の中は暗いから探すのに一苦労だわ。コハクが迷惑をかけちゃったけど見つけてくれてありがとう。」

元はと言えばコハクの方から私達を見つけて来たんだけど…

フッ…

「あっ…玲子ちゃんが戻っちゃった。」

「えっと、あなたがさっき言っていた美子って子?」

「そうだよ!さっきの玲子ちゃんは妖怪との戦いの時にしか表に出ないんだよ。それでも私達は心を通じて会話が出来るんだけどね。」

鳴ちゃんはどうやら私達の二重人格という性質に興味津々なようだった。

「そういえば、もう夜も遅いよね?コハクの背に乗せて街まで送ってあげるよ。」

「えっ!?そんなこと出来るの?」

「コハクは体力あるし、良く私も移動するときには背中に乗せてもらってるから大丈夫よ。ね、コハク?」

「バウッ!」

「そうなんだ!じゃあお言葉に甘えて乗せてもらうね!」

かがんだコハクの背に乗ってみると、体毛がふわふわで凄く心地良い…

「しっかり捕まっててね…コハク、お願い!」

バッ!!

「うわぁっ!」

いきなり走り出して危うく落ちそうになるが、どうにか安定させた…それにしても良く木とか当たらずに素早く進めるよなぁ。



「面白い子と出会ったわ。李斗…いつかあなたにも会わせてあげるね。」



ー街ー


「あー凄かった!送ってくれてありがとうコハク!」

「バウグッ!」

「良かったらまた会いに行くからね。それじゃ!」

別れの言葉を言うと、コハクは森の中へと駆け出していった。本当に速いや…コハク…

「さっきのどうだった?玲子ちゃん。」

『何だか始めての気分だったわ。動物の背中に乗れるなんて早々無いからね。』

玲子ちゃんも私と同じく満足気な様子だった。

続く。



告予回次

「狼月一族って知ってますか?」

「狼月一族…確かどこかで聞いたことあるような…」


「直にこの街で異変が起こる。」

「そんなこと、分かるんですか…?」


「私には弟がいたのよ。」

次回「誰かの為に」

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