第1話 蝶は羽ばたく


ー街ー


「なるほど…森林で白色と思われる化け物を見たと…」

私はいつも通り客人から依頼を聞いていた。今回の依頼はどうやら一筋縄では行かないみたいだ…

「分かりました。引き受けましょう。では、夜に私が様子を見て来ますので依頼の結果は後日お伝えしますね。」

そう言うと、依頼人はほっと息をついて席を離れていった…

「夜までに暇になっちゃったね…どうしようか玲子ちゃん。」

『私にそう聞く割にはいつも「彼の」雑貨屋に行くじゃない。』

そう…彼とは私達が経営している妖怪退治屋の前にある雑貨屋の手伝いをしている青年のことだった。名前は稲木真で、私は「真さん」と呼んでいる。私とは何度も面識のある仲だ。実を言うと…私が何度も彼に会いに行っているのは彼のことが好きということもあるのだが…

『全く…美子が男の子を好きになる時が来るなんてね。』

「ちょっ、それは言わないお約束!」

私の目の前には客人に接客をする真さんの姿が…やっぱり遠くから見てもかっこいいなぁ…


ー雑貨屋ー


「いらっしゃいませー!あ、美子さんじゃないですか!」

「依頼の仕事が夜なので、ちょっと寄ってみようと思いまして…」

真さんを前にするとちょっと緊張しちゃうや…

「いえいえ、いつでも来てくだっさて良いんですよ。」

「あ…ありがとうございます。」

『これはもう声とか震えちゃってるわね…』

玲子ちゃんが心の中で言っているが、そんなことは気にせず、私は髪留めなどの小物を見た。

「これはどうでしょうか?きっと美子さんにも似合いますよ。」

真さんが見せてくれたのは白い花の付いた髪留め。私は花が好きだから、この可愛らしい髪留めに見入ってしまった。

「試しに着けてみてはどうですか?」

「そうですね。ちょっと着けてみます…」

スッ…

「…こんな感じでしょうか?」

「とてもお似合いですよ美子さん。良い意味で女の子って感じがして……」

「…ッ///」

真さんにそう言われ、思わず顔が赤くなる。真さんに似合ってるって言われた…

「美子さん?顔が赤いですけど…」

「あっ、いいえ!何でもないです!あの…この髪留め購入しても良いですか?」

「勿論ですよ!購入していただきありがとうございます!」




「えへへ…真さんに似合ってるって言われちゃった…」

早速購入した髪留めを着けて、気分良く仕事の場へと戻っていた。

『前の遊女屋敷の時にも思ったけど、あなたって意外と乙女なところもあるのね…』

「そりゃあ女の子だからね。私だってお洒落になりたい時もあるよ。玲子ちゃんもお洒落したいとかそういうの無いの?」

『私は戦いの時にしか表に出れないから…というかあなたがお洒落をしたら実質私にも反映されるし。』

「ふーん…まぁ、玲子ちゃんがそう望むなら何も言わないよ。」

『恋をするのも良いけど、浮かれて依頼を疎かにしないでね。』

「それは勿論…分かってるよ。」

そして時は過ぎ、依頼を実行する夜になった…


ー夜の森林ー


「うーん、今のところ怪しい妖気は感じられないね。」

『まず依頼人の言っていた白い化け物って言うのが悪い妖怪なのかも分からないわ。慎重に行きましょう。』

「そうだね。慎重に…」

玲子ちゃんの言われた通り、辺りを警戒しながら行こうとしたその時…

ガサガサ…!

「何…?この音は…?」

大振りに草木が揺れる音…こっちに向かって来ている!?

『私と替わって!美子!』

「分かった!」

フッ…

すぐに美子と人格を入れ替え、いつでも刀を引き抜けるように臨戦態勢へと入る。

チャキッ…

来るか…!?

「バウワウッ!!」

「はっ!!」

バシュンッ!!ギチギチ……

『これが依頼人の言っていた白い化け物…!?』

「恐らくね…!でもまさかこんな大きいなんて…!」

出てきたのは人間の数倍はあろうという体を持つ白い狼。その巨体で降り下ろされる爪は刀で防御しても弾かれそうな勢いだ…

ガァンッ!!

「なっ…!?」

「グラウッ!!」

ギャインッ!!

なんとか上手く刀で受け流しながら避けることが出来た…

「グルル…」

スッ…

「蝶月輪…」

バッ!

「月花閃!」

ジャキィン!!

ササッ…

「えっ…?」

『避け…られた…?』

月花閃の素早い斬り抜きを避けた!?あの巨体でなんて速さなの…!?

「グルァウッ!!」

『玲子ちゃん!危ない!!』

続く。



告予回次

「待って!この子と争うのはやめて!」

「あなたは…?」


「私は狼月鳴。狼の妖怪である狼月一族最後の生き残りよ。」


「さっきはごめんね…コハク。」

「クゥゥン…」

次回「狼月」

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