第5話 幸福

≪火の村 ラトル≫


「あっ、帰ってきたー!」

またしても末っ子のケルキアがロディアたちの姿を見つけて声を上げた。


そこには舞踏団だけでなく、厨房を貸してくれた酒場の店主、滞在させてもらった宿屋の家族。

他にも、村中の人々が手を振ってロディアたちを迎えた。


「ロディアちゃん、お帰り!」

「元気になってよかったわー!」


お世話になった人たちに暖かく迎えられ、ロディアは1人ずつ感謝の言葉を返した。


「さぁこっちこっち、ロディアはここね!」

村人が集まり輪を囲む中、

ケルキアが手際良くロディアをその中央へ誘導する。


「さぁ、私が腕によりをかけて作ったご飯だよー!みんな、たっーぷり食べてね!」

続いてウラニャが次々に料理を運んでくる。


「ありがとう!」

いつも通り明るく元気なロディアの姿に、ケルキアやウラニャも嬉しくて笑顔になった。


「アルドたちも一緒に祝ってくれ。」

メネシアがアルドたちにも場所を用意して促した。

「え、いいのか?」

「もちろんだ、たくさん世話になった。心から感謝する。ありがとう。」

遠慮気味なアルドにメネシアが笑顔で答えた。


「では、遠慮なくご一緒するでござる!」

「お祝いゴトは私も嬉しい気持ちになりマス。」

「ありがとう、じゃぁお言葉に甘えて。」


アルドたちも一緒に輪になり、食事を共にする。


大好きな仲間とお世話になった人たちに囲まれ、

楽しそうに会話をしているロディアの様子を見て、アルドたちも幸せな気持ちになった。


「そういえばこの睡眠薬、使わなかったな。」

アルドが服のポケットから思い出したようにとり出した。

「クスリは逆から読むとリスク デス。使わないで済んだのナラ、それは結果オーライ デス。私が厳重に保管しておきまショウ。」

「あぁそうだな。間違って飲んだら大変だからな、頼むよ。」

そういうとアルドはリィカに薬箱を渡した。

リィカは自身の額にあるハート型の部分を開け、奥行きが分からないほど黒々とした収納スペースへ収めていった。

「リィカ殿にそのような収納場所があったとは…。」

サイラスはリィカが自分のボディ内に収納していく様を不思議そうに見ていた。


すると、


ドドンッドンッ



突如軽快な太鼓の音が聞こえてきた。

虹の舞踏団の歌と踊りが始まるのだ。


エイシアが魂を込めて作った衣装に身を包み、

舞踏団が登場する。

こだわったラプトルの皮は力強い鎧のように装飾されていた。

着色がされており、一人一人色が違う。


赤、橙、黄、緑、青、藍、紫


まさに虹の色だった。


「虹の舞踏団へようこそ。日頃はご支援いただき、ありがとうございます。今日は団員の1人、ロディアの誕生日公演です。最後まで楽しんでいってください。」

舞踏団リーダーのサウリャのひと声に拍手が起こる。


虹の舞踏団が賑やかな舞と歌を披露する。

見ている人を幸せに、暖かい気持ちにする。


ロディアは、舞踏団のみんなが自分のために準備をしてくれたという幸せを噛みしめながら食い入るように見ている。

そこへパシアがロディアの元へお揃いの衣装を持って向かってきた。


「これ、ロディアの分ね。」

「え?私の?」

「もちろん!ロディアも舞踏団の1人でしょ、この後はいつもと同じ振り付けだから一緒に来て!」


そういうとパシアはロディアの手を引いて観客の正面に連れて行った。


大きなラプトルの皮の鎧を羽織らせ、両肩をポンポンと叩き、ニコッと笑いかけた。


その衣装の色は、


鮮やかな黄緑色だった。


そして、ロディアを中心に舞踏団が左右に並び列をなす。

手を繋ぎ、皆んながロディアに笑いかける。


一列に並んだ舞踏団が、シンクロした振り付けを披露する。


息の合った一糸乱れぬ踊り。

回転するテンポ、振り上げる腕の角度、足の向き

8人全員が同じ動きだった。

まるで一つの生き物のように、一体となっていた。


そこには血のつながる姉妹だろうと無かろうと関係ない、絆で感じるリズムがそこにはあった。


観客から手拍子が起こる。


『私、幸せだなぁ…。』


暖かい観客に見守られ、

舞踏団の姉妹たちの思いやりに触れ、

ロディアの心は暖かい気持ちで満たされた。


そして踊り最大の見せ場、

8人での同時大ジャンプが近づく。


息を合わせ、飛距離を出しながら下手から上手へ向かって着地する大技。


観客も最高潮。


そして、ついにその時がきた。


8人がリズミカルにステップを踏み、

そこから強く踏み切った。


青空に大きな弧を描き、色とりどりの衣装がはためく。


観客は歓声を上げ、頭上を見上げた。



それはまるで、八色に輝く虹だった。


雨上がりに出現する虹のように、大きく輝いていた。それは、ロディアの心にも虹がかかったようだった。


八色の虹がかかるとき、

自分の居場所はここだと、皆んなが教えてくれる。

一人ではないと感じさせてくれる。


『これからもずっと、ここが私の居場所なんだ…!ありがとう、みんな!』


大ジャンプを成功させ、8人は観客に丁寧にお辞儀をした。

アルドたちも大きな拍手を送った。


鳴り止まない拍手と歓声、

ラトルはしばらく、賑やかな笑顔に包まれた。



公演は大盛況に終わり、

ラトルは静かな夕日に包まれた。


舞踏団が後片付けをしている中、ネイリアが気づいた。

「あっそういえば、ラチェットさんにロディア元気になったよって報告しなきゃ!明日行こうね、ロディア!ってあれ?ロディアは?」


ネイリアは周囲をキョロキョロ見回して、ロディアを探した。

ロディアに話しかけたつもりだったが、近くにロディアの姿は見当たらなかった。


______________________________


ロディアはキーラ浜に来ていた。


夕陽に染まる静かな海を眺めながら、

オレンジ色の砂浜に立っていた。


ロディアは服の裾から、ここで拾った七色に光る貝殻を取り出した。


水平線に沈む夕陽にその貝殻をかざし、

ゆっくり握りしめた。


そして、


「…えいっ!」


握っていた貝殻を夕陽に向かって放り投げた。

貝殻は波の中に静かに消えていった。


海に返るのを見届けたロディアは

何かが吹っ切れて、

晴れ晴れした気持ちになった。


自分が何者か分からないまま舞踏団で過ごしていた頃よりも、ロディアの心は強くなった。


自分が存在する理由を、

虹の舞踏団は教えてくれた。


虹が何色あるかなんて事は大きな問題ではない。

大事なのはどのように見ようとするかだ。


今なら自信を持って言える、


『私の居場所は、虹の舞踏団!』


キーラ浜の波打つ音を後に、ロディアは

駆け足で舞踏団の待つラトルへ帰っていった。




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