第4話 仲間

ロディアが謎の共同体の一部である現実を突きつけられ、

虹の舞踏団として長年一緒に過ごしてきたメネシアたちは、当然辛かった。


今目の前にいる擬態したものを倒しても、ロディアが元に戻るか分からない。


二度と一緒にご飯が食べれないかもしれない。

二度と一緒に楽しく笑いあったり、歌ったりできないかもしれない。


あまりに残酷な現実を受け入れられず、つい悪い想像ばかりしてしまう。


「みんな行くぞ!」

アルドの声を合図に、一斉に向かっていった。


しかし、擬態したロディアは本物のメネシアたちと変わらぬ戦闘能力を発揮した。


メネシアの大ぶりな刀は一太刀で地面の砂を舞い上げ、強烈な斬撃をくらわす。サウリャの素早い槍の突攻撃もネイリアの力強い剣の攻撃も、本人たちが圧倒されるほどの威力だった。


一方メネシア本人たちは、ロディアの姿ではないとはいえ、自分の放った攻撃がロディアの体を傷つけてしまうかもしれない。

その可能性を考えると思うように攻撃できなかった。


アルドたちも、ロディアを傷つけないために、攻撃は最小限にとどめていたが、容赦ない攻撃に体力の回復が追い付かない。


「…くそっ!このままじゃロディアと会話もできないぞ!」

アルドも攻撃を避けるので精一杯だった。


言葉を発することなく、表情も変えず、

擬態したロディアはアルドたちに攻撃してくる。


それでも、メネシア、サウリャ、ネイリアはロディアに訴えた。


「ロディアは虹の舞踏団の大事な一員だ。どんな姿であっても関係ない!」

「私たちは8人で一つだよ!」

「またみんなで歌ったり踊ったり、美味しいごはん食べよう!」


攻撃を避けながら、必死に声をかけ続ける。


すると、


「…うぅっ!」

突然、舞踏団の3人に擬態したロディアは苦しみながら、うずくまった。

そして、攻撃が止まった。


3つの光に包まれ、それが一つに合わさった。

その光の中からはアルドの姿が現れた。


「えぇ!?俺が…!」

ロディアが次に擬態したのは、アルドだった。


「はははは、そうか!戦っている中で能力が高い者を見極めたようだな!」

共同体の元は激しくうごめきながら、笑っていた。


「さぁ、とどめをさすのだ!」


アルドに擬態したロディアは剣を抜き、

勢いよく飛び掛かった。


ガキィィィーーーン!


その剣先は、


共同体の元を切りつけていた。

形状のない本体の中には見え隠れしている核があり、そこに一撃を入れたようだ。


「がぁぁぁ!」

核を切りつけられた共同体の元は、黒い邪気を放ち始めた。

もがくように形状を変えながらその場を離れそうとする。

そして光を放ち、また魔物に擬態しようとするが、


「な、なぜだ、私が擬態できないとは…!」


核にダメージを受け、擬態の能力が失われたようだ。


ロディアは自分の姿が消えても暗闇の意識の中で敵と、自分と、戦っていたのだ。

迫りくる無になる恐怖に、必死であがなっていた。


自分の中で芽生えた、

“仲間”を大切にしたいという気持ち。

一緒にいて楽しいという気持ち。

愛おしい気持ち。


自分がどんな生物であっても、虹の舞踏団として過ごした時間は事実で、大切な宝物だった。



仲間が自分を受け入れてくれるなら、

自分はそこに帰りたい。



『今すぐ、帰りたい…!』


メネシアたちの声は、確かにロディアに届いていた。

そしてロディアもまた、その声に応えた。



「ロディアさんの生体反応、微弱ですが感知しまシタ。」

「我々の想いは伝わっているようでござる!」

「よし、このまま一緒に突っ込むぞ!」


弱体化した共同体の元へ7人は総攻撃をしかける。


アルドに擬態したロディアも、アルドの必殺技で攻め、相手の攻撃を許さない。

リィカも槌を大きく振り下ろし、サイラスも刀による連撃を繰り返した。

メネシアたち3人も息のあった攻撃でたたみかける。


そして、アルドは一瞬の隙を察知し、

時を止める大技 アナザーフォースを炸裂させた。

ロディアも含めて、全員の攻撃が一つになり、

ついにとどめを刺した。


「ぎゃゃぁあぁあ!!」


黒い渦となって、共同体の元は吹き飛んで消えていった。


「…やったぞ!」

息が上がって乱れた呼吸をゆっくり整えながら、アルドが敵の消滅を確認した。


「ロディアは!?」

メネシアたちはあたりを見回した。


近くに居ない。


やはり敵と一緒に消えてしまったのか…

サウリャはとメネシアが悲しさで俯きかけた時、


「あっ!あそこ!」

ネイリアが少し先に生えている植物の影に、横たわっているロディアの姿を見つけた。


黒い渦が吹き飛ぶ反動で、あそこまで飛ばされたのだろう。


「ロディア、大丈夫か!?」

アルドたちもっ駆け寄る。


「…うっ…」

うっすら目を開け、ロディアの意識が戻った。


「あ…、みんな…!」

ロディアの声だった。

数日前のような青白い顔ではなく、ヒトらしい血の気が戻っていた。


「よかったー!ロディア、よかったよー!」

ネイリアが泣きながら抱き着いた。


「たくさん迷惑かけてごめんね…。私…。」

ロディアが目に涙を浮かべながら、俯きながら言葉をもらした。


「いいんだ、無事で何よりだよ!」

「顔色も前よりよさそう、気分は大丈夫?」

目立った大きな怪我も見当たらない。

メネシアとサウリャも安堵の表情だ。


ロディアは嬉しそうに、うんうんと頷いた。


「アルドたちもありがとう。一緒に戦ってくれて。」

ロディアは泣きじゃくるネイリアを抱きながらアルドの方を向いた。


「大丈夫だ、ロディアが元気になってよかった。」

アルドもサイラスもリィカも、元気なロディアに戻って安堵した。


「私、心のどこかで、舞踏団の皆んなと自分は何か違うって思ってたんだ。他のみんなは七つ子の姉妹だったし。見た目は似ていても、何かこう、姉妹の絆の中には踏み込めない感じがあった。」


ロディアは自分の心の内を語った。


「私はいつ自分が産まれたのかも、どうやって舞踏団に合流したのかも、覚えてなかったから…。

それでも、皆んなは私を受け入れてくれた。私、毎日がこんなに楽しいって、初めて感じたんだ…!」


当然自分の名前も無かったが、

ロディアという名をつけてくれたのはサウリャだった。

舞踏団のメンバーとして、自分がロディアというヒトとして存在していることをハッキリと実感できる日々だった。


「でも。自分があんな醜い存在だったなんて…」

自分はヒトではないということが紛れもない事実となってしまった。

ロディアは悲しくうなだれた。


「でも、ロディアは私たちと戦ってくれたじゃないか!」

メネシアがロディアの背中にそっと手を添えて言った。

「そうよ、ロディアはロディアなの。紛れもなく、虹の舞踏団の一員だよ!」

「ロディアは私たちの大切な仲間なの!だからどこにも行かないで!」

ネイリアとサウリャも続けて寄り添う。


「そうだよ、しかもロディアはあの擬態する能力を使いこなしたじゃないか!俺たちだけでは勝てなかったょ。」

「アルドさんに擬態した時は、間違いなくロディアさんの意思を感じまシタ。」

アルドとリィカはロディアの擬態の能力を客観的に伝えた。


「…!あの時は確かに、皆んなの元に帰りたいって強く思ったの、絶対あいつを倒さなきゃって…!」


ロディアの強い精神が自我を形成し、あの共同体からロディアの心を独立させたのだろう。

今のロディアの瞳には、はっきりとした強い光が宿っていた。


「それでアルド殿になったでござるか。」

「まぁ、アルドがこの中で一番強いからねー!正しい判断だったかも」

サイラスとネイリアがからかうようにロディアに言った。


「そ、そんなつもりじゃないよ、私はただ必死だったから、誰になってたなんて知らないよ〜!」


ロディアは少し困ったような表情で慌てて弁解した。

無我夢中だったので、自分が誰に擬態するかなんて当然選んでいられなかったし、そこまでの能力はきっと無かった。


冗談だよ、と背中を叩きながらネイリアが返し、くすくすと笑った。


みんなはしばらく、笑いあっていた。


こんな笑顔になったのはいつぶりだろう。

久しぶりに頬を上げて笑ったから、頬が少し痛い。

仲間に囲まれて、暖かい、温もりを感じた。


「さぁ、今日はロディアの誕生日だ!パァッと楽しもう!」

サウリャがロディアの手を取って歩き出そうとした。


「え?私、誕生日?今日?」

ロディアは何のことかさっぱり分からなかった。


「そうだよ、今日はロディアが虹の舞踏団に加わった日だろう?」

メネシアがキョトンとするロディアに、当たり前でしょというような表情で言った。


「!」


ロディア自身も気に留めていなかった。

自分の出生すら不明だったのに、

そんな些細な事を覚えていてくれた事に、感激した。


「あぁ…ありがとう…!嬉しいよ…!」

ロディアは涙を流しながらとびきりの笑顔を見せた。


「よし、ラトルへ戻るでござる!」

「みんなロディアの帰りを待ってるぞ!」

「パーティーパーティー デス!」


舞踏団たちの様子を見守るアルドたちも幸せな気持ちになった。そして一緒にラトルへ向かった。


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