パンツァーの書きかた、自作(屍喰鬼ゲーム)を参考に実践



 僕の構成法って、そんな感じで経験と勘なので、説明しにくいんですが、ほかの人のメイキングを読んで、「へえ」と僕が思ったように、僕のメイキングを読めば、ほかの人も「へえ」と思うかもしれない。


 じっさいの創作方法って人それぞれ。なかにはビックリするような書きかたをしてる人もいます。以前、このエッセイでも書いたように、セリフと地の文をわけて書いてる人とか。


 自分に書きやすい方法を見つけるのは、自分しかいないわけですが、ほかの人との違いを認識すると、より見つけやすくなるかも。


 というわけで、僕のメイキング。グールゲームを例にあげて。


 屍喰鬼グールゲームはタイトルからもわかるように、デスゲームです。こちら、一年か半年か前くらいに、エブリスタの次の最恐小説大賞に出そうと思って、わりと綿密にネタをメモしといた話。前回のエピソードのなかに、このメモの半分くらいまで載せてます。


 もしかしたら、プロッター組のなかには、「自分のプロット、いつもこのていどなんすけど」という人もいるかもしれない。

 安心してください。僕はいつも、こういうメモ書きすらしません。これはたまたま思いついたとき、すぐに書く感じじゃなかったので、備忘録として残しただけ。

 しかも、いざ書くときに読みなおしてなかったので、あいまいな記憶をもとに、あらためて考えたようなもの。


 まず最初に、「よし、書こう!」と思ったとき、念頭にあったのは、


 1、ウィルスでゾンビはみんながやってるので、別のものにしよう。そう。グール。グールかな。それも感染はしないパターンで。

 2、一日に一回、裁判で処刑者を選出。話しあいのすえ多数決。

 3、グールは一日一人を食べる。

 4、主役は記憶喪失。交通事故かな。

 5、ちょっとカッコイイ男は出そう。で、いつものように恋愛をからめる。この男は恋人が自分のせいで死んでる。

 6、なるべく、たくさん殺す! いっぱい殺す!


 このくらいですかね。

 この段階で、もう書きだしちゃう。


 え? これだけ?

 そう。これだけ。


 主役の名前とかも、じっさいに文章書きながら考える。みんな、てきとう。そのときに思いついた名前。ただ、名前はかぶると読者が混乱するんで、同じ漢字はさける、似た読みはさける、今風の名前を心がける。などは注意してます。それと、ほんとにある名前かどうかは気にしてません。むしろ、なさそうな名前をつける。今回は島縄手とかがそう。


 マンガの『デスノート』の名前って、変なのが多いじゃないですか。魅神照とか、ふつう三上、ですよね。これって、殺されたり、殺人者に自分と同じ名前を使われてると、読者がイヤな気分になるから、わざと世の中にない名前にしてるんだなぁと感心したんですよ。配慮がなされてる。僕のはそこまでじゃないですが。


 さて、初日のシチュエーションは、

 1、廃墟でめざめる

 2、全員が注射を打たれる

 3、ルールを説明される


 重要と思われることしか書いてません。参加者の名前も全員はない。なにしろ三十人も参加者いるので、その一人一人の外見と名前を列挙していくと、それだけでかなりの文字数を食ってしまう。ワンシーン出てきて殺されるだけの人に名前はいらないだろうなと。いわゆるモブ。


 この段階では作者自身もグールが誰なのかわかってません。話の流れで、誰でもありだなと思ってます。


 そして、必要最低限を一話めで説明したので、二話以降では、なるべく早く死体を出すことが重要。デスゲームなんで、緊迫感をもたらすために死体必須。

 犠牲者、誰にしようかな。そうだ。ちょっとでも話した人が死ぬほうが、主役の心理的ダメージがあるぞ。じゃあ、せっかく名前考えたけど、戸田くんに犠牲になってもらおう。戸田くん犠牲者第一号決定。

 そして死体が出たことによって、グールの存在を確信した参加者はおたがいのアリバイ探しに没頭。


 このあとしばらく、ずっとそれによる駆け引きですね。誰にアリバイがあって、誰になくて、じゃあ、グールの可能性があるのは、この人たち……そういうのの一進一退。


 このへんの流れは、自分がじっさいにゲームに参加したら、どんな行動をとるかなという考えで書かれてます。もちろん、みんながみんな、自分と同じ行動するわけではないから、なかにはこういう人もいるだろうなぁという想像で、参加者の行動にいくつかのパターンができる。


 1、わりと冷静さを保ち、論理的にアリバイなどを調べて、グールを探しだそうとする一派。これが主流。

 2、自分だけ逃げて隠れるタイプ。

 3、長いものに巻かれるタイプ。流されやすい。主役の詩織なんかはここ。

 4、わけもなく、おびえて、妙な行動をとってしまう。

 5、暴力で押しとおそうとする。自分以外はどうなってもいい。沢井なんかは最初1で、のちに5。沢井の暴走は最初からありきで考えてた。

 6、1に似てるけど、それを一人でやろうとする一匹狼。神崎くんですね。


 今回、けっこう冷静に動く1タイプが多かったけど、集まりによっては、いきなり5が主流になる可能性もある。そうなるとただの殺しあいになるので、物語的に理詰めにできない。デスゲーム感は増すけど、ミステリー感は低くなる。なので、ここでは前半1、後半5の流れに持っていくことにした。ここらへんは勘で決めてる。


 で、アリバイ探しで展開が続いていく。

 視点を詩織に固定することで読みやすさを出しつつ、群像劇としても成立させるため、幕間でそれぞれの詳細な事情を述べる手法。

 1タイプをメインに、6の神崎、5の島縄手をチラホラさせつつ、4の青居などに犠牲になってもらう。

 そして、その部分の展開に飽きそうになってきたら、


 A、謎の三十一人めがいるんじゃ?

 B、グールにしか行けない場所がある?

 C、やっぱいたよ。三十一人め。

 D、グールは二人いる?

 E、屋根裏にも行ける。柏餅登場!


 などの新展開要素を波状になげる。それによってアリバイがくずれたり、また構築されたり。


 そして、ここまで、ただ勘で書いてきた僕に天啓がおりる。

「あれ? もしかして、ここで柏餅殺したら、


 そう。柏餅はそのために殺された。ごめん。ここで僕のなかでグールが決定した。


 このあとは、なので、最後の謎解きにむけての準備期間。たりないとこを足していくだけ。ただひたすらヒントを重ねて謎解きを組み立てるほうへシフトチェンジ。もちろん定期的に、かつ盛大に人を殺して読者を飽きさせないサービスもこらす。


 詩織にはどこかで屋根裏を逃げまわってほしかったし、神崎くんが過去を語る場面も入れたい。恋愛要素、恐怖要素、それぞれの事情や描きたい場面を、入りそうなとこへ、どんどん詰めこんでいく。

 読み切り長編なので、書きもらしないように、後半はとにかく書きたいものはなんでも入れこむ。


 このあたりの頭のなかでの優先順位。

 1、読者を納得させる謎解きへの伏線。ヒント。とにかく論理の構築。

 2、ゲームの勝敗の行方。これも大事。最後にきっちりカタがついてないと、読者さまは不満。

 3、デスゲームはそのあいだにも人が死なないとね。刺激。刺激。それも後半ほど、ひんぱんに大量に、または意表をつく殺害方法。

 4、友情、恋愛、個別の感情の昇華。ここが書ききれると、余韻とか読後感、いわゆる後味が生まれる。


 ちなみに、1〜4の要素を、1なら1だけとか、4なら4だけとか、続けてならべると、読者は退屈するので、1、3、4、3、1、2、3、4、1、3みたいな。

 とにかく、刺激となる殺戮の3をからめつつ、謎が深まる感じで1を多めに出すといい。


 この構築が終わり、いっきに放出するのがラストの謎解き。

 グールゲームの場合は第十八話『最後の裁判』ですね。ここまでにすべての要素を出しきっていれば、読者は納得できる。


 僕のミステリーの場合は、探偵が「謎解きです」と言いだす前に、じつはゆるく謎解きは始まっていて、ヒントをこれでもかと出していってるので、ほんとの謎解きの始まりは、グールゲームの場合、柏餅が殺されたところなんですね。第十二話の『裁判・六日め』が終わるまでにグールがわかれば、ほぼノーヒントで解けたことに。


 知りあいの書き手さんに「自分で解いた気分になれる謎解きがスゴイ」と言われたことがあって、自分ではイマイチその感覚がつかめなかったんですが、たぶん、このの部分のことなんだろうなと。ヒントを構築していって、最後に探偵にそれを断言させる。


 ミステリーは謎解きが華です。なので、このあとは事後処理ですよね。デスゲームなので、無事に生還できるまで。また、そのメンバーは誰か、とか。ちょっと語りもらした人の過去とか。

 あとはふだんの生活に戻って、その後どうなったか。


 で、エピローグ。


 だいたい、こんな感じで書いてますね。

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