鬱展開の需要



 先日、近況ノートで。

 鬱展開すぎて書いててツライ。自分がダメージ受ける。鬱展開を平気で書ける人を尊敬する。

 と言った内容のことを書かれてる人がいました。


 じつはこれに似た内容のノートを読むのは何度めか。わりと見るんですよね。人によってはツラくてもう書けないので休載します、とまで。


 そうですか? そんなにツライですか?

 僕は基本的に悲しくて切なくて涙がボロボロ出る話が大好きなので、登場人物(おもに主役。そうでなければヒロイン)がツラくて悲しくて残酷なめにあってると、筆が乗って乗ってしかたないんですが……ドS。そう、それです。


 まあ、これは書き手側の趣味が関係してるのかなと思います。


 あと、最終的にハッピーエンドなのか、アンハッピーエンドなのかも影響してるんじゃないかなと。途中どんだけツライことがあっても、ラストでそれを大きくくつがえして、ハッピーエンドになることがわかってれば、書き手としてはそこを目指してるので、「待ってね。あとで必ず幸せにしてあげるから」とつぶやきつつ、鬱展開を乗りきることはできる。


 そう言えば、僕の話のなかには、あんまり完全なバッドエンドってないもんな。ほろ苦いラストでも、必ず希望を残す終わりかたを信条にしてるので。


 あとで幸せになれるとわかってるから、途中経過を書くのはラクなのかも?


 完全バッドエンドでツラくてもう書けない……と言われれば、残念ながら、そういう話はあなたに向いてないのかもしれない。心を病むと言う人もいるくらいだから、自身のメンタルやられるくらいなら書くのをやめましょう。


 ところで、解決法のないこの問題をなんでとりあげたかというと、書き手のメンタルの話がしたかったわけじゃないんですよね。


 読み手の話です。

 作者が離脱したくなるほどの鬱展開って、じゃあ読者は求めてるのかなって。


 以前にも失恋離脱の話をしました。主役が失恋したとたんに、読者が減る現象についてです。


 これで考えると、ほとんどの人は求めてないのかなって思うんですが、愛着のあるキャラだから最後まで読むって人は一定数いる。そして、ラスト、鬱を打ちやぶって結ばれる二人を見て感動する、ということはあるでしょう。一回、そういうのを読むと、この作者さんの他の話も読んでみたい、と思うんじゃないでしょうか?


 だからと言って、みんながみんな、重い暗い内容を好むわけではない。じゃあ、どのていどの鬱なら、大多数の人がついてきてくれるのかなと。


 ストレスフリーが流行と言われるかたわらで、ざまぁが大流行り。矛盾した世の中ですよね。ただレビューなどでよく聞くのが「前半の追放までがあまりにも長く、重すぎて、ついていけなくなりました」「ずっと待ってるけど、ぜんぜん、ざまぁに到達しない。もう耐えられません」「これ、ほんとにザマァするの?」などなど。


 つまりですね。世間一般では、多少の不遇や不運、虐待などは、その後のザマァでふっとばされることを見越して許容されてるわけです。こんなツライめにあわされた主役がじつは強くて、イヤなやつらに復讐してやりました。スッキリ!——というのを期待してるわけです。


 ダラダラと長い鬱展開を楽しんでるわけではない。

 そこは前菜。これから来るメインディッシュをより美味しく味わうために、ちょっとほろ苦いオードブルが少量ついてくるのは気にしないよってことなんです。


 ところで前に、放映中のテレビドラマのラブコメ三作について書きました。プロミスシンデレラ、推しの王子様、彼女はキレイだった。

 どれもドラマなんで、リアリティはそれなりですが、番組としては、まあまあ面白かったです。


 そのなかで、推しの王子様だけが、途中からめっちゃ、つまんなくなったんですよね。よっぽど見るのやめようかなと、七、八話あたりで思ったんですが、しょうがないから最終回まで見たって感じですね。


 なぜ、こんなことになったのか……?


 これ、途中で結ばれる予定の二人が、それぞれに別の恋人や婚約者とつきあって、完全に縁が切れてる状態が三話くらい続くんですよね。その上に主役の女社長は会社を乗っ取られて追放されるっていう憂きめにあう。


 それは書き手ですから、この段階でわかってますよ? 最終的には会社は取り戻すし、おたがいのおじゃま虫と別れて、二人がくっつんだよね?——って。


 ただ、そこに行きつくまでが長かった。そろそろザマァしてほしい……と視聴者が思うタイミングを完全に逃してました。ラストにかけて恋愛よりお仕事の比重が重くなってしまったのが原因だろうなぁ。


 三話もいらなかったですね。長くても二話。コミックで言えば二冊ぶん。


 最終回も「ほらね。やっぱり、こうなった」って範囲を出ないので、ぜんぜん新鮮味が得られないんですよね。三話のあいだ、ずっと「そうなるよね?」って、予想はしてるので、じっさいにその場面を見ても意外性は、もはやない。


 ほかの二作品については、何度も仲たがいしたり、別れそうになっても、その回のうちに解決するか、少なくとも次回には和解して、いったんラブラブに戻ってから、また新たな試練が来るっていう、波状攻撃型だったんですよね。推しの王子様だけが完全断絶型だった。


 そう。これなんですよね。つまんなくなった原因。

 断絶。

 主役(ヒロイン)のまわりの男は、完全に断絶しちゃいけない。ケンカしたり、すれ違ったりして、つかず離れずの関係になるのはかまわない。でも、関係が切れてしまうのはいけないんですね。


 今回のこの三作、じつは四角関係という点ではみんな共通でした。ヒロインがいて、ヒロインに惹かれる男が二人いて、ヒロインの本命くんを好きなライバルの女の子がいる。


 プロミスシンデレラと彼女はキレイだったは、四角と言いつつ、男二人がヒロインを奪いあう形に、ジャマしてくる女の子がくっついてる感じ。


 推しの王子様だけ、男二人で奪いあうシチュエーションがなかったんですよね。ほんのりあったけど、ヒロインも本命くんも身をひいて、文句を言わない、自分が我慢する。まわりに流される二人。あまつさえ本命くんは「恋って感情がわからない」と言って、ヒロインに惹かれてることすら自分で気づいてない。


 なので図式として、三角四角と言うより、二組のカップルがうまく行かずに、もつれてるだけ。


 これじゃダメだよぉー。

 もっと激しく奪いあわなきゃ!

 とにかく不完全燃焼な印象でした。


 これをふまえて、読者が我慢できる鬱展開は、たとえば100万字のシリーズ作品なら、一巻ぶんの10万字から20万字ていど。これを超えると、読者の読みたい意思は消えていく。


 もちろん、最初から最後まで暗くて鬱々した作品もありますが、それはそういうコンセプトですよね。

 少なくともラブコメとか、ふつうのエンタメ小説でやるべきことではない。


 前に、ハッピーエンドなら下げる、アンハッピーエンドなら上げるって話をこのエッセイでしました。

 途中経過はとにかく下げて下げて、主役をこれでもかって逆境に追いこむと、ラストのハッピーエンドが、より盛りあがる。アンハッピーエンドなら、その逆。


 これもツライ期間が長すぎるとダメなんですね。全体の20%を目安に、やるときはスピード感を持ってやりましょう。あと、一度のイザコザを長ーくひっぱるより、波状に試練を与えるほうが、読者は飽きないみたいです。

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