テンプレはどこまでテンプレでなければならないのか?(後編)



 異世界転生と言えば、トラックにひかれて死ぬ→あれ? 死なないぞ→赤ん坊になってる? というパターンであることぐらいは、読まない僕ですら情報として知ってます。


 じつは先日、とある転生物のアニメの一話めを見ました。たぶん、ラノベが原作なんでしょうね。


 この作品のファンのかたには、ほんと申しわけない。正直に言います。開始五分後で「退屈で死にそう、もうダメ、我慢できない」となって、録画消しました。僕の好みにはあわなかった。

 だって、頭にパンツかぶった赤ん坊の成長していくさまを、あのままさらに数分見せられたらヒマでヒマでしかたないから……。


 ふだん、ドラマやアニメ見るときは、スマホでゲームしたり、なんならこのエッセイを書きながら見てます。セリフだけ聞いてれば、たいていの流れはわかりますし。それが僕にはちょうどいい感じ。テレビだけに集中するのは、そうとう凝った内容じゃないと退屈になって、すぐ飽きちゃいます。


 ただ、たいがいの番組は最低でも一話めの最後まで見てから次回以降も見るかどうかを決定するんですが、まれに一話もたないことが……。


 もしかしたら、あのアニメも、僕が見るのやめた直後に大事件が急に起こって、「わあっ、どうなるんだ? ドキドキ。面白い!」となったかもしれないんですが、そこまで待てませんでした。せっかちさん向きの話ではなかったですね。


 というのも、あまりにも異世界転生のセオリーどおりの展開だったからです。トラックにひかれ死。その段階ではものの数十秒だったので、なんのストレスもなかったんですが、赤ん坊になってからが長かったなぁ……。


 母ちゃんが美人だ、おっぱい吸えるの役得とか、母ちゃんのパンツあさりとか。

 これ、たぶん、ラノベなら喜ばれる微エロなんだろうけど、アニメでわざわざやるほどのことかな? ハリウッド映画だって始まって五分までに一つめの事件が起きないと視聴者をひきつけられないんですよ?


 あと気になったのは、そのパンツ。ナーロッパだから設定がてきとうなのはしかたないですが、どう見ても現代のパンツなんですよね。中世なのかなんなのかわからないけど、その時代の女性下着はそういう形じゃないです。そもそもゴム紐がないでしょ? 現代のパンツはゴム製品が作られてない時代には製造がムリなんですよ。せめて紐パンで形だけ現代風なら、まだ「ナーロッパだから……」で納得したかも。現代風の異世界というなら、下着だけでなく服も現代風にすべき。


 まあまあ、そのいいかげんさが読みやすさにつながってるんだ、という一面もあるんで、そこはいいですよ。


 気になったのは冒頭の展開ですよねぇ。前々から思ってたんですが、異世界転生って、轢死れきし(場合によっては別の死にかた)異世界で赤ん坊、成長のパターンですが、ほんとにこれって必要ですか?


 じつは以前、ちょっとした知りあいの異世界転生物を読んでみたことがあります。

 レビューがとても上手だったので期待してたんですが……。

 冒頭から、まずどうやって死んだかが延々と続き、やっと終わったと思ったら、次はギフトですか? あれを貰うまでの女神との契約内容がこれまた延々と続き、じゃあ、いよいよ物語が始まるかなと思ったら、今度は赤ん坊からの成長過程が延々と……ここまでに文字数で言えば、たぶん、5000字くらい? もしかしたらもっと長かったかも? 流し読みだったけど、つらかった。面白ければ最後まで読むつもりでしたが、そのあたりでそっと去りました。


 異世界転生って、とにかく、現世で死んで、今の記憶を持ったまま異世界に転生する。それが大前提ですよね?

 なら、いらなくないですか?

 テンプレだから必ず書かないといけないもんなんですかね?


 ミステリーだって、ルールはあるけど、ストーリーの展開は千差万別じゃないですか。

 殺人の最中で始まる作品もあれば、刑事が現場に到着したとこから始まることもある。誰かの語りから始まったり、テレビのニュースで連続殺人事件が放映されてて、それを見る謎の人物の描写で始まることだってある。


 異世界転生もそれでよくないですか?

 この前、ちょっと調べるためにランキング上位の異世界転生物を何作か冒頭だけ見たとき、どれも死ぬとこから赤ん坊になるやつなかったんですが……。

 森のなかで仲間とモンスターを狩ってるのかな? って場面で始まってたり。


 つまり、最初に異世界転生を書いた人の作品はそれが最初の一作であるから、その出だしでも斬新だった。今これほど異世界転生があふれてる世の中で定番どおりにやったって、誰も見向きもしないんですよ。すでに何度も読んで飽きてる展開だから。ランキング上位の人はそれを知ってるってことじゃないかなぁ?


 個人的には冒頭は動きのあるシーンで、じょじょに現状がわかっていくほうが飽きないんじゃないかと思う。


 たとえば、冒頭のアクションシーンが終わったあと、またはその途中で、


(狩りもだいぶ慣れたよな。トラックにひかれたあと、急に赤ん坊になってたときは焦ったもんだけど)


 みたいなのを入れとけば、とりあえず転生者だとはわかる。たった数行で。


 ギフトに何かしらの仕掛けがあって、トラップ的なものがあるんだけど、本人はそれをすぐには思いだせない。ストーリーが進むにつれて、少しずつ思いだしていく——とかのほうが盛りあがりませんかね?


 もちろん、テンプレ研究してる人たちは「そんなのとっくにやってるし」とか「あたりまえのこと言ってるな」としか思われないかもですが、あの市場のことに詳しくないもので……。


 なんというか、テンプレだからって、ずっとテンプレだけでいいのかなっていう話題でした。だってそれって、SFで冒頭に世界観の説明がずぅーっと続くようなもんじゃないですか。説明はとにかく、つまらない。


 たぶん、実力を持ちつつ、本気で読まれるためにテンプレを書いてる人たちは、そのへんをしっかりやってるから人気高いんじゃないのかなと。テンプレラノベのことを考えなくても読めるとか言われますが、読みやすい作品って、じつはその裏で読みやすいようにすごく努力や工夫があったりするんですよね。


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