テンプレはどこまでテンプレでなければならないのか?(前編)



 さて、あいかわらず、本棚企画とか、読みあいではない読みます企画に作品をあれこれつっこんでます。本棚企画なんで星評価やレビュー文がつくことはまずないですが、PVはあるていど増えるですよね。


 それで先日、異世界転移の自主企画に『東堂兄弟の冒険録』を参加させました。

 そういうのに入れといても、たいていの企画主さんは読まないか、読まれてもプロローグだけとか、一話だけとかが多い。めずらしく三万字ほど読んでくださったので、ありがたい。コメントをくださったので、これまたありがたい。


 ただ、そのコメントというのが「主役が転移をすぐに受け入れてしまったことにモヤモヤした。もとの世界へ帰る道を模索するとか、転移させた何者かの存在とかを示してほしかった」という内容でした。


 んん〜、言わせてもらえば、これ、全部で50万字なんですよ。50万字のうち3万字ですから、ほんの序盤なんですよね。


 序盤のうちは、主役は「これは夢を見てるんだな。じゃあ、どうせ夢なんだから楽しめばいいや」と思ってます。ちゃんとその描写もしてる。

 そして、もっと先の中盤あたりまでには、ほんとは夢じゃなく転移だと気づいてあわてる場面や、帰りかたを探そうとする場面、また転移させた何者かの存在や、なぜ転移させられたのかの理由など、じょじょに明らかになってきます。とくに何者かの正体と理由はメインストーリーにかかわってくるので、これは序盤ではわざと謎のままにしてるんですよ。だって、小出しにしたほうがストーリーが盛りあがる。


 だからって別にそのコメントに腹を立ててるわけじゃないんです。ちょっと気になったのは、もしかして異世界転生や異世界転移、いわゆるテンプレを好んで読む人って、みんなこういう反応なのかな、と。


 異世界にとばされて、意識が戻ってすぐに「あれ? 見知らぬ世界。異世界転移だー! ウソー! どうしよう! と、とにかく帰らなくちゃ……帰らなくちゃー!」とあわてふためく場面がないと落ちつかないんですかね?


 というのも、じつはずいぶん前(二年くらい前?)に、ぜんぜん見ず知らずの作品に、見知らぬ人が書いたレビューを読んだんですが、その内容が、さきほどのご指摘とまったく同じだったんですね。


 そのときの作品は転生だったか転移だったかまでは覚えてないんですが、たしかクラス転移だったような記憶がかすかに……。


 その作者さんもレビューの人に近況ノートで、「このときはまだ転移だと気づいてない。あとで気づいて騒ぐ場面がある。転移させた神様的なものも後半で出るし、まだ明らかにするには早いと思ってやってない」と書かれてました。


 そのときはひとごとだったので「ふうん。そうかぁ」くらいにしか思ってなかったのですが、自作にあらためて言われると、まさに「もっとあとまで読めばわかるよ」としか言えない。


 皆さん、よくよく想像してみてください。あなたが寝てるあいだに異世界転移してしまって、目が覚めると何やらネズミランドっぽいナーロッパに来ています。あなたはまっさきに「異世界転移してしまった!」と思いますか?


 僕は自分がそうなったとしたら、たぶん、とうぶんのあいだ「リアルな夢だなぁ」と考える。その次の段階として「夢にしてはリアルすぎるかな? そうか。ドッキリか! 家族か友人が僕の寝てるうちに、こっそりネズミランドに運んできたんだな?」と考えます。それにしてもネズミランド以上に広い範囲がその状態なら「……なんだろ? テレビ局のドッキリに当選したのかな? もしかして本格的にヨーロッパのどこかの国かも?」くらいで一週間はウダウダしてるんじゃないかと。

 しかも暮らしに困らなくて快適であれば、一ヶ月くらいそのままでも、たぶん疑わない。さすがに職場の休暇がどんなあつかいになってるかだけは心配になりますが。失業中なら数ヶ月そのままでも不審に思わない可能性だって……。


 なぜなら、現実として

 もしかしてそうかな……と思うのは、そうとうにあとではないでしょうか?


 ついてすぐに「うわー! 異世界だ。転移した!」と思うのは、たぶん、小、中学生まで。高校生でも「ありえない」と思うのでは? すくなくとも僕が高校生のころだったら信じなかった。


 なんか、それを一律に「うわー! 転移した。どうしよう!」とあわてふためくのは、かえって非現実的だと思うんですが、テンプレ好きの読者はそうじゃないと納得しないのかな?


 たとえば、『寝て目が覚めたら異世界』ではなく、あきらかに覚醒してる状態でなんらかの異常(都市壊滅の崩壊とか、あたり一帯が光り輝いてそのなかに周囲の人たちが吸いこまれたとか)を経験したのちに変な世界に移動してたら、それはもう「UFOにさらわれた? それともこれがウワサに聞く異世界召喚か?」と考えるでしょう。


 そういう書きかたをしてください、という意味なら言われてることはわかります。


 ところで、ここまで異世界転移について書いてきましたが、異世界転生はどうなんだって。


 まだ長くなりそうなので、続きは次回にまわします。

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