表面上のストーリーと裏のテーマ



 ネットで作品を読んでいて、よく思うのは、「動きがないわけじゃないのに、なぜか退屈。内容が薄い」

 みなさんは、そう感じたことはないでしょうか?


 僕はサクサク展開が早くて、ハリウッド映画のように次々と事件の起こる話が好きなので、いつまでも説明ばっかり続く展開の遅い話は退屈してしまうんですが……不思議なことに、キャラクターたちはちゃんとアクションしてるのに、なぜか退屈でしかたなく感じる話が、たまにある。


 ふつうは人物が動けば、ストーリーも動く。だから、退屈なんてしないはずなんですけどね。


 以前、エブリのころに交流のあった人の作品で、現代ファンタジーでした。女神から何やらの力を授けられ、悪魔と戦うことになる。毎回、悪魔が襲ってきたり、仲間が見つかったり。戦闘シーンもしっかりあって、ヘリが撃墜されそうになったりなどの派手な見せ場もあった。


 なのに、退屈で退屈でしかたないんです……途中で読むのが苦痛になって、申しわけないけどフェードアウトしてしまった。こっちの読んでくれるから、お返しで読んでたわけですが。


 キャラクターもたくさん出てきて、主役は男。敵には男もいるけど、まわりの味方はおもに女の子。つまり、ハーレム。というか、最強の女神が守護神についてくれたのでチーレムですね。

 なのに……退屈。なんで?


 もともと僕が現ファ好きじゃないから? それもあるかもだけど、ほかにも原因はあると思う。

「なんかわかんないけど、つまんない」と言われたことがある書き手さんのために、ちょっと分析してみましょう。


 まず、文体のみの面白さは、なかった。すごく読みやすい文章で、決してヘタではなかったけど、じゃあ、文章力だけで読ませるかと言えば、そこまでではなかった。場面によっては、もうちょっとコミカルでもよかったかも。ラノベなんだし。


 あと、キャラクターが、みんな容姿の可愛い女の子なんだけど、なんか印象が薄い。女神はさすがにちょっと存在感があったけど、これも「うひょー。可愛い。女神ちゃ〜ん」ってほどの魅力はなかった。つきぬけたものがない。


 ここまでは前哨戦なんです。ほんとに言いたいことは、ここから。

 ストーリー展開がとうとつなので、浅く感じられる。伏線が少ないんだろうなぁ。だから、場当たり的な展開に見える。


 あとですね。僕のプロットの作りかたは重構造です。メインストーリーのほか、サブストーリーが二つくらい、同時進行していく。


 たぶん、その人の作品はストーリーがメインのやつ一本しかないから、薄っぺらく感じてしまったんだろうな。


 ——と、思っていました。つい最近までは。


 先日、近況ノートに、「みなさん、作品のテーマはもちろんあると思いますが……」うんぬんと書いてる人がいた。詳しい内容は忘れてしまいましたが。


 みなさん、作品を書くとき、テーマって決めてますか?


 僕は……まあ、ありますね。そう言われてみれば、無意識ですが考えてました。


 たとえば、『東堂兄弟の探偵録 出雲御子編〜幼形成熟BOXのララバイ〜』

 これは不老不死の御子にまつわる一連のミステリーシリーズなんですが、ララバイはそのなかでも大仕掛けの壮大なSFストーリー。だけど、そのじつ、テーマは友情なんですよね。これ書いてるときに、ちょっとプライベートでいろいろあったので、恋愛を超える熱い友情を書きたかったんです。ブロマンス。


 東堂兄弟シリーズの『夢みるカマキリ』のテーマは、何を隠そう! 『ベルセルク』だったりします。当時、一番、ベルセルクにハマってた時期なので、自作のなかでやってみたかったんです。たぶん、僕が言わないことには、誰にも伝わらないだろうと思いますが。愛を肥やしにw


 今、書いてる『八重咲探偵』シリーズは、クトゥルフ物のホラーなくせに、テーマは『宇宙を超える愛』なんですよね。龍郎と青蘭の純愛を描きたかった。


 テーマ。つまり、その作品を書く上で、読者にもっとも伝えたいこと、だと思うんですが、それって文学ではふつうにあることですよね。

 ただ、ラノベやエンタメ小説にそれがあるかと言えば、必ずしもあるわけではない。


 今回の例に出した現ファの作品。足りないのはテーマなんじゃないか……ふと、そんな気がしました。


 もちろん、プロットの単純構造、伏線の少なさなどにも要因はあるでしょう。

 でも、そう言えば、あの作品、根本的に何を訴えたいのか、よくわからなかったなぁと。

 悪魔を退治して、世界を救おうがテーマだとしたら、それは表のストーリーと同じ。ストーリーもテーマも同じ……要するにテーマがないに等しい。だから薄く感じたのか!


 いや、もしかしたら伝わってなかっただけで、ご本人にはあったかもしれないですけどね。

 一番伝えたいこと、書きたかったこと、それは女神とのイチャイチャだ! というなら、それはそれでよし。ただ、そうだとしたら、ぜんぜん、イチャつけてなかっただけ。後半にそんなシーンがあったのかもですが、その場合は伏線で匂わせてほしかった。


 テーマとストーリーを別個にする。それだけで作品に深味が出てくるかもしれません。


 あとですね。どうせテーマがあるのなら、伝わるように書かないと無意味ですね。僕の『カマキリ』も読む人が読めば「あれ? もしかして?」と思うはず。たぶん、きっと。


 ただ、僕の作品も全部にテーマがあるかと言えば、どうだろう?


 ワレスさんのシリーズはとにかく、ワレスさんの生き様なんで、それは問題ない。


『タイプJ』は当時、ゲームが大好きだったので、自分でゲームを作るとしたら、こんなストーリーがいいと思うものを書いた。だから、ボディを組みかえることができたり、ゲームにしたとき美しい映像を意識して描いたりしている。


『一角獣』はお伽話。大人の童話風の話が書きたかった。『月光ファンタジア』はもともと夢で見たストーリーだったので、夢を表現したかった。


 でも、読み切りの短編にはないかも。その場合はストーリーを複雑にして、ごまかすしかない。ま、短編だし。


 テーマはその作品を書いてから何年も経つと、作者自身、忘れてしまう可能性があります。伝えたいことを書ききったと思えば、できあがりに満足できますが、そうでなければ悔いが残ります。


 近況ノートで、これもよく見るんですが、「自分が思ってたのと何か違う気がするので書きなおします」というコメント。

 これは正しいんでしょうね。

 意識してなくても、たいていの人には作品で書きたいテーマってあるんです。それから外れてしまった、違うと感じたら、書きなおすことはアリです。

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