一人称で個性を出すには?(後編)
一人称でキャラクターの個性を表現するには、どうしたらいいのか?
出しおしみするまでもないんで、あっさり明かすと、性格ですよ。キャラクターの性格づけが、どれくらい緻密にできているか。それに尽きます。
たとえば、幼児のテンプレ。
前回の例文のかーくんは、わりとおとなしめで、ちょっと天然、シャイな子どもです。三日間、自分からクラスの子に話しかけられないエピソードからもわかる。
これが兄の猛だったとしたら、また変わってきます。猛が小一で転校したてだとしたら……。
おれは東堂たける。小一だ。
この前、お父さんとお母さんが交通じこで死んだ。
だから、東京から、じいちゃんのいる京都まで引っ越してきたんだ。
家族はもう、じいちゃんと弟のかおるだけだ。かおるはまだ小さいから、人が死ぬってことをよくわかってない。毎日、「お父さんとお母さんはどこに行ったの?」って聞くから、こまってしまう。「とおくだよ」って言ったら「どれくらい?」って聞いてくる。天国って、どのくらい遠いんだろう? おれにはわからない。
だから、にいちゃんのおれが、がんばらなくちゃ!
かおるをぜったい、泣かせない。おれは決心したんだ。
こんな感じ?
学校の話題なかったw でも、それが猛のパーソナリティ。
同じ小一でも、じゃっかん漢字多めにして頭の良さを表現。決心とか、弟を泣かせないとかに、責任感の強さや家族思いの性格が表れてます。
立て続けに幼児の例文。
次は、しんるで行ってみましょう。しんるは僕の描いてる絵本の主役です。ノベルデイズで読めます。
やっほー。しんるだよ。
しんるはねぇ。五さい。天使のみならいだよ。
まほうネコのキメトラのおうちで、しゅぎょうちゅう。
あっ、キメがよんでる。
おつかいに行ってくれって。
ウルサイなぁ。もう。しんるは今からおひるねなのに。聞こえないもんねぇ。
「おーい、しんるくん。
おつかい行ってくれたら、すごくおいしいケーキをあげるニャよ?」
ケーキッ? 行く! すぐ行く! ぜったい行くよ!
「しんる、おつかい行ってくる! しんるが帰るまでケーキ食べたらダメだよ!」
「はいはい。わかってるニャ」
しんるはこういう性格なんでございます……これで五歳。
しんるは知恵の実を食べた設定なので、幼児だけど、すごく頭がいいんですよ。しかも外見上、年をとらないので永遠に五歳と言いはってるし。
同じ幼児でも三者三様ですね。性格の違いを感じとってもらえたでしょうか?
さて、これを大人でやれば、大人にも個性をつけられるわけですが。
じゃあ、キャラクター造詣以外でできることはあるのか?
あります! はい。
幼児例文でもあった漢字ひらがな比率とか。女性はひらがな多めにすると、やわらかい印象が作れる。
たとえ日常会話をしていても、興味のあることが女性と男性では違うから、そこらへんに注意するだけでも、らしさは出る。
あとですね。方言をしゃべらせるのも、かなりの個性になります。以下、例文。
「朝から、にぎやかだなぁ。みやちゃんは。どうしたんだ? ああ、もう夏休みに入ったんだろ? しばらく勉強会はお休みな」
むむぅ。距離をとってきはったなと、うちは思いました。
威さんは大人やし、うちが威さんを好きなことなんて、うちよりさきに知っとったんやろね。
でも、うち、負けへんえ。
恋は勝負や。勢いや。押して押して押しまくるんや!
「威さん!」
ずいっと土間のなかに入りながら、うちは、うしろ手に引戸をしめます。
「みやちゃん。どうした? 顔が怖いぞ」
「からかわんといて! うち、威さんが好きや!」
これ、東堂兄弟の短編集のなかに収録してる『あなたの胸に覗き窓』って話です。けっこうシュールなラブコメなんですが、ごらんのとおり、京言葉をしゃべる女の子が主役。一部分だけでも、けっこうインパクトがありますよね。
ちなみに、この覗き窓は、京言葉で書いた一人称短編の二作めでした。一作めは妄コン準大賞になった『あの子とリンゴ飴』です。
ただ、京言葉を話す二人の女性を描きわけるために、けっこう気をつかいましたね。リンゴ飴のほうの叶子はしっかり者で内省的でワガママの言えない損な性分。京言葉がしっくりくる奥ゆかしい性格です。
反して、みやこは活発で勝ち気で、そのくせ女の子らしく夢見がち。同じ言葉を使ってるのに、性格はまったく正反対。なので当然、行動パターンも違う。このへんを読みくらべてもらいたかったんですが、残念ながらリンゴ飴はエブリから持ちだせないので……興味のあるかたは、あちらでごらんください。
まあ、だからと言って、登場人物すべてに方言を話させるわけにもいかないし、全員、方言だと、それはそれで個人の個性ではなくなる……。
ほかには、しんるのように自分を名前呼びさせるとかも個性。
なんかのフェチで、ずっとそのことを考えてるとか。
その人物のときだけ、変な当て字を使うとか。語尾に特徴を持たせるとか。キメは「ニャ」
小手先の工夫はいろいろできると思います。
肝心なのはそのキャラクターへの愛情や理解が、どれくらい深いか。深いほど、個性はしっかりと確立されます。
そこの作りこみが甘いと平凡でありきたりな人物像になってしまうんですね。
思えば、高校のころの例の短編は、人物のストーリー上の設定作りはあるけど、性格や好みそのものについてはまったく考えてなかったかも。亡国の王子で逃亡中なので身分を偽っていて……という設定でしたが、じゃあ王宮にいたころはどんな生活をしてたとか、食べるものはこんなのが好きでとか、好きな色とか、お世話係の名前とか、なんにも決めてなかったなぁ。
でも、それって、一人称だけの問題ではないですよね? 三人称だって、キャラ造詣が中途半端なら、グダグダなキャラクターになってしまう。
けっきょく、一人称にしろ三人称にしろ、キャラ作りが大事って話でした。
じゃあ、そのキャラ作りって、どうしたらいいのかなぁ?
次回、キャラ造詣に関連したことを……。
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