キャラ造形について

一人称で個性を出すには?(前編)


 高校のときだったかと思うんですが、友達に自作品の短編を読ませました。むりやり読ませて感想も言ってもらえるなんて、素晴らしいですねw

 そのかわり感想は辛辣ですが。


 さて、その話は原稿用紙80枚ていどの短編でした。一人称だったんですね。悲劇的な結末のBLですw 最後に全員死ぬタイプのやつ。


 そのときの感想が、これです。

「相手役は個性があっていいけど、主役はなんか平凡でつまんない」


 行動原理は理解できるものの、どういう人間なのか、そういうものが見えてこない、と。


 これ、じつは当時、書いてて自分でも気になってたことでした。その前後で何作か一人称の短編を書いてたんですが、どの人もみんな似てしまうんですよね。この人だから、こうするんだ! ってほどの個性を感じられなかった。けっきょく自分の考えになってしまってるというか。


 三人称だと外から見た特徴だとか、癖だとか、服装の好みだとか入れられるので、比較的、個性はつけやすい。でも一人称は内面から描くことが多いので、どうしても心情中心になってしまう。心のなかで、よっぽど奇抜なことばっかり考える人でないかぎり、まあ、だいたい、どんな人を書いても大きな特徴はない……。


 だからテンプレの心理描写は人間が薄っぺらいとか言われてしまうんですかねぇ。もちろん、テンプレのすべてがそうだとは思いませんが、そんなふうに言われることは多い。


 さてさて、それとは別に、今日たまたま近況ノートで、なんだかの公募の選評からこんなことがわかったと書かれてる人がいた。リンクをタップするとエッセイのなかまで行ってしまった……まあいいやページひらいちゃったから読むかと。内容はと言えば、とある作品について、このような選評がついていたと。一人称で書かれているが主役の年齢のわりに文体が大人びている、と。


 うん。これは僕もふだん気をつけてることですね。


 以前、エブリのころに知りあいさんの一人称の作品を読んだとき、すごく気になったことがあります。

 冒頭、主役は幼児でした。四、五歳くらい? それから数ページのあいだに、八歳、十歳、十二歳……と成長し、現在は高校生。そんな出だし。


 なんだけど……いっしょなんですよね( ̄▽ ̄)


 冒頭から高校生になるまで、文体も口調も漢字比率も言いまわしも、全部いっしょ!

 四、五歳の幼児と高校生がずっと一貫した口調でしゃべり、思考法まで同じなんですよ。


 現実で考えてください。五歳のころの物の考えかたと高校一年生が同じなんてことありますか?

 五歳の幼児が「俺は生まれたときから不幸だった。こんなに不幸なら死んだほうがマシだとずっと考え続けてきた。そう。アイツに出会うまでは……」とか言いますか?


 ありえない。

 もちろん、上記のセリフは例文であって、こんな感じだったなぁと、僕が考えて書いただけです。原文はもっと漢字が多かった。


 この冒頭を見ただけで、僕は正直、読む気なくなりました。知りあいの人の話だったから、義理で高校生になるまでは読んだけど、知らない人なら最初の数行でブラバしてました。


 何がダメって、だって、リアリティないじゃないですか。幼児は幼児らしく。高校生は高校生らしく。

 そもそも幼児の思考法は大人とは違う。たとえ大人になったときに、すごい偉人に成長するとしても、幼児のときからその人の成人したときの思考法をしてたわけじゃない。


 僕は子どもとか、ティーンエイジャーを書くときは、少なくとも当時の自分の感覚を思いおこして、それっぽく書く努力はしています。記憶力がいいので、そこらへんは役に立つ。


 ちなみに、幼児らしく見える文体。例文は『東堂兄弟の探偵録第五話〜オバケ屋敷のメソッド〜』の冒頭です。



 ぼくのなまえは、とうどうかおるです。まだ、かんじでは、かけません。


 ぼくは小学一年です。

 にいちゃんは、たける。小学四年です。


 このまえ、お父さんと、お母さんが、じこで死にました。

 それで、ぼくと、にいちゃんは、きょうとのじいちゃんちに引きとられました。がっこうも、てんこうしました。

 あたらしいがっこうには、ともだちがいません。てんこうして三日しかたってないからです。


 ええと、でも、今日になって、おはなしできた子がいます。

 同じクラスの、ないとうおさむくんです。おさめるゆめってかいて、おさむだそうです。よくわかりません。



 そこそこ長い例文でした。文字数稼ぎてはないですw

 同じ人物が成長すると、こうなる。こっちの例文は『アントリオン』です。



 兄の話をしよう。

 僕の兄は、とても、かわいそうな人だ。


 どのへんが哀れかというと、犬猫が大好きなのに、言語を絶する静電気体質のせいで、動物全般に毛嫌いされちゃうとか。

 あるいは、弟の僕の目から見ても、あっとおどろく美青年なのに、最後は必ず、女の人に、ふられちゃうとか……。


 そういうことが言いたいわけではない。

 いや、それだって、けっきょくは兄の持って生まれた宿命ってやつのせいだから、全部ひっくるめて、不幸ってことか。

 兄は、ある悲しい運命を背負っている。


 兄の名は、東堂猛。僕は薫。

 僕らが生まれた東堂家には、なんとなく不幸な天命みたいなものがある。



 この違い。歴然ですよね?

 ベースとなるパーソナリティは同じでも、小一のときの例文は見るからに子どもっぽい。


 要するに、文体的なコツなら、とりあえず、ひらがな多めで幼児言葉なんかも使えば、もう子どもらしい。あとは考えかたも大人ほど理路整然としてないふうに書けば、一般的な幼児はできあがる。


 幼児のテンプレですね。

 男のテンプレ。女のテンプレ。少女のテンプレ。少年のテンプレ。中学生のテンプレ。高校生のテンプレ。会社員のテンプレ……。


 つまり、ここで言うテンプレとはキャラクターの属性ですね。ストーリーのなかで果たすべき役割に基づいて構成される、最低限の人格。


 ここまでは、できて当然。できなければならない書き手としての基礎力です。


 はい。冒頭の問題にかえってきました。

 じゃあ、テンプレでない人物を一人称で描くには、どうしたらいいのか?


 次回に続きます。

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