書籍化って、ほんとはどうなの?



 読者選考の話をしたので、そのさきのことも書かないといけないですかねぇ?


 じつは、この話題、中高生の夢をくだいてしまうかなぁと思って、今までさけてきたんですよね。


 近況ノートを見ると、「将来の夢は小説家です」とか「いつかは書籍化したいです」と書いてる人は、ほんとに多い。


 たぶん、それらの人たちは、と確信して、と考えている……。


 つまり、「夢は美容師になることです」「看護師になって人の役に立ちたいです」と同義で作家になりたい、書籍化したいと言っているのでは?


 もしそうなら、それは幻想ですよ、と。


 僕もわりと最近まで、小説家になりたい、そのために書籍化されたいと思ってました。人のこと言えません。

 今? 今はあんまり。


 というのは、調べてしまったからですね。

 なんのきっかけだったかな? 作品の資料として必要だったのかもしれない。

 今、ネットって、ほんとになんでも調べられるので、『ラノベ 書籍化 印税』で検索してしまったんですね……。


 多くの人はシリーズ書籍化と言えば、ガッポガッポと儲かって、もう一生、印税で暮らせる、少なくとも書き続けさえすれば多額の原稿料が入ってくる——と思ってませんか?


 その認識は誤りです。

 前述の検索の結果、単著出版経験のある人などのアレコレがひっかかりました。あるいはそういうのをまとめた内容が。


 それによると、ラノベの場合、一作品で入ってくる印税はだいたい50〜70万ていどなんだそう。しかも、契約によっては10万とかもありうる。


 くわしく話すと、まず出版社と契約するときに、歩合制にするか、売り切りにするかで印税の入りかたが違ってくる。


 多くの人の念頭にあるのは歩合制だと思う。一冊売れれば価格の5〜15%ていどが著者のふところに入ってくる。これだと、たくさん売れれば売れるほど、著者は潤う。第一刷がすべて売れて、得られる金額が上記の50〜70万ってところらしい。その後、重版を重ねれば重ねるだけ著者はウハウハになる。

 だけど、その一方で、一冊も売れなければ当然、一銭も入ってこない。


 こういう事態をさけるために、売り切り制もある。第一刷が売れようが売れまいが、一定の金額を前もって受けとると契約しておくやりかた。

 つまり、「じゃあ、本が一冊も売れなくても、30万はお支払いします。そのかわり重版が出ても、最初の30万以上はお支払いしません」という約束を出版社とかわす。


 これ、一見すると作者に不利だと思いますよね?


 ところが、じっさいにはそうでもないらしいです。書籍化されたからと言って、みんながみんな、一刷を売り切るほどには売れないから……。

 名もなき新人の本なんて、見向きもされず、出版社は在庫をかかえて大赤字、なんてこともザラなんだそう。


 その場合、作者に前もって払う30万は、出版社側から言えば、温情ですよね。

 作者的には、売れる自信のない作品なら、最初にあるていど、まとまった額をもらえるほうが得策になる。


 どっちの契約にするか、選べる場合もあれば、選べないこともあるらしい。もう最初から出版社側に「この契約でお願いします!」と言われて、まったく譲歩の余地がない場合。ネットデビューの新人作家など、ほとんどんだと思いますね。歩合制も5〜8%ていどが一般的。


 ちなみに僕も短編アンソロジーにすぎませんが、何冊かエブリ関連で出させてもらってますので、そのときの経験だと、売り切りでしたね。エブリは短編アンソロジーには売り切り、単著には歩合って感じのようです。


 単著出してもらってないのに、なぜわかるかって?

 だって、編集さんが間違えて、「すいません。契約内容が別の人に送るはずの内容でした」って言われたときのメールが歩合制だったから。


 あっ、正確に言えば、一回だけ、原稿依頼で出版したことあるんですよ。そのときの最初に来た依頼内容が、短編アンソロジーにしては、えらく条件がよすぎるなと思ってたら、案の定でしたね。じっさいには売り切りでした。


 ちなみに売り切りの場合、著作権料と原稿料の両方をもらいます。著作権を売るわけですから、そのあといっさいお金は入ってきません。


 まあ、とにかく。新人の場合、立場が弱いですから、出版社側から「この契約で」と言われたら、「はいはい。お願いします」と言うほかはないんですね。


 重版がものすごく重なれば、あるいは途中から歩合制に契約変更できるかもと、ネットで調べたとき、書かれてた気もするけど、よく覚えてない。興味がある人は調べてください。


 ただですね、書籍化イベントで賞をとって、出版にいたっても、そこで安穏とはしてられない。ラノベには打ち切りの恐怖がつねにつきまとってくる。


 カクヨムでも近況ノートに、「今日は売り上げの結果が出る日だからドキドキ」など書かれてる人がいます。

 同じ日に複数人が「売り上げ達成してた! おかげさまで三巻も発売決定しました!」とか「残念ながら売り上げ目標に達しませんでした。ここで打ち切りになります」とか書いてるの、目にしたことがあります。


 そう。書籍化したからって、シリーズ完結まで出してくれるとはかぎらないんですよ。出版日から一ヶ月間の売り上げによって、その後、継続するかどうかが決まってしまう。業績がふるわなければ、あっさり打ち切り。


 ちまたではネットデビューはデビューではないとすら言われてるようです。


 打ち切りどころか、大賞をとって書籍化が決まったのに、話がこじれて流れ、それっきり担当と連絡がとれなくなった、メールをしても電話かけてもスルーされる——ということもあったそうです。それはカクヨムではないですが。その人は書籍化されるので執筆に専念しようと仕事も辞めたあとだったとか……。


 仕事に関しては、「書籍化されるからって仕事は辞めるな」と、赤川次郎さんも言ってたはず。たしか、赤川さん自身、最初に出版されてから数年はサラリーマンを続けられてたんじゃなかったかな。あれほどの人でも、デビューの段階で売れる見通しはつかないんですよ。


 ラノベに戻って、一作品50〜70万。それなら、おれの月給より安いよって人もいるのでは?

 いや、そこまでは稼げないけどって人でも、じゃあ、一冊出版が決まったからって、50万のために仕事辞めて、どっぷり執筆にとびこめるかと言われれば、「それはムリ」と思いませんか?

 やっぱり赤川さんのように、数年はようす見のほうが利口かなと、たいていの人は考えるはず。だって、その一冊のあと、続いて出版してもらえるかどうかすら保証がないのに。


 なので、書籍化、書籍化と必死になってる人を見ると、「そこがゴールじゃないんだよ」と思う。書籍化にいたることもハードル高いですが、そこからさきはもっと苦難の道なんですね。


 僕は小説家を生涯安定の職業として見るのは危険だと思う。もし、そうなりたいなら、一般公募の大きな賞をねらったほうがいいのかなと。賞金が1000万とかのやつ。ただし、一般公募はさらに敷居が高くなりますよ。応募総数2000のなかから大賞一作だけ、とかの世界ですから。宝くじみたいなもん。落ちたら選評も何もないし。あっ、ラノベは出版社によって選評シートくばられることもあるみたいですね。


 イベントの結果に本気で一喜一憂してる人たちは、書籍化が天国への道だと信じてるからだろうなと。


 僕の今のスタンスは、現状の仕事も嫌いじゃないんで、定年までそこで働きながら、運がよければ記念に一冊くらい単著が出せたらなぁって感じ。人生のボーナスかなって。


 まあ、みなさんも過度な期待はせずに、運がよければ書籍化されて、さらに運がよければ、すごいヒットとばすかも、という心持ちでがんばってください。


 そのためにも、ほんとに面白い話を書こう!

 お金払って読んでもらえるのは、やっぱり面白い作品ですよ。


 ちょっと前、近況に「みんな面白い話を全力で書いてタダで読ませるなんてしてるから、いざ書籍化したとき、誰も買わないんだよ。タダで読めるもんに金払う? 書籍化されるまでは、わざと力落として、さほど面白くないもの載せとけばいいんだよ」と書かれてる人がいましたが、論点がズレてるなぁ。


 そもそも、でしょ?

 読者だって集まらない。読まれてない作品を本にしたいと誰が思う?

 書籍化されたさきのことなんて、今から心配しててどうするよ?

 全力で行こう。全力で。じゃないと、作者のは読者に伝わらないよ。



 では、今回の更新は、ここまで。

 また気がむいたら何か書くかもしれません。

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