三人称例文集 BLでごめんね



 今からここに載せる例文は、以前、エブリスタでサポーター特典として載せていた視点について書いた例文です。本文じたいはここまでに書いたことのくりかえしになるので割愛しますが、例文がおもしろかったので、持ってきました。



 *


『例文1』三人称一視点自由間接話法



 ワレスは思った。

 ハシェドの寝顔は子どもみたいだな。キスしてやろうかと考えたが、あまりにも無防備で哀れになった。


(おやすみ。ハシェド)


 ハシェドの髪をくしゃくしゃになでる。

 ハシェドがムニャムニャ言ったので、ワレスは笑った。



 この例文は、ワレスさんに固定の視点です。

 ワレスさんが見て、聞いて、感じたことが書かれています。


 ハシェドの寝顔は子どもみたいと思ったのも、ワレスさん。地の文のなかで、“哀れになった”のも、ワレスさん。


 自由間接話法なので、思ったり感じたことが、地の文に盛りこまれてます。三人称だけど、一人称に近い視点と言えます。ただし、モノローグはカッコのなか。

 三人称一視点のなかで、もっとも多くの書き手に使われる書きかたかな。


 これが三人称一視点自由直接話法になると、以下のとおり。短文なのであんまり違わないけど。



 あまりにも無防備で哀れになった。


 おやすみ。ハシェド。


 ハシェドの髪をくしゃくしゃになでる。



 という書きかたですね。

 一件、一人称がまざりこんでるように見えますが、これは単に、前後のカッコを外してるだけです。

 視点が固定なので許される書きかたですね。


 地の文に書かれることによって、心の距離が近く感じられませんか?



 *


『例文2』三人称一視点



 窓辺のイスにすわり、ワレスは室内をながめている。

 視線のさきには、ハシェドの寝顔がある。

 今夜は疲れて、さきに眠ってしまったのだ。まるで、子どもみたいな寝顔だ。


 キスしてやろうか——と、ワレスは考える。

 ワレスの悪癖だ。

 こんなときしか、彼は好きな相手にふれられない。


 だが、しばらくして、ワレスは吐息をついた。

 あまりにも無防備すぎる相手に対して、ちゅうちょしたようだ。


(おやすみ。ハシェド)



 ——と、こんなぐあい。

 あんまり、感情が伝わってきません。自由間接話法を使わず、完全に外から見た視点でのみ書いてるからですね。



 *


『例文3』三人称多視点自由直接話法



 ワレスはハシェドの寝顔をながめている。


 おいおい、こいつ、子どもみたいだな。今なら、何してもわからないだろ?

 キスしてやろうか……。


 見つめるうちに気が変わった。


 ちょっと、ムリだ。

 無防備すぎる。


 何も知らずに寝てるハシェドが、哀れになったのだ。


 おやすみ。ハシェド。


 ハシェドの髪をくしゃくしゃになでる。

 ハシェドがムニャムニャ言ったので、ワレスは笑った。


 すると、ハシェドが起きだしてきた。


「わっ! 隊長? なにしてるんですか?」

「何って? 何も」

「ほんとに?」


 怪しい——と、ハシェドは思う。

 ワレスのことだから、何かイタズラでも仕掛けようとしたのか? それとも、まさか、もっと別の……?


 隊長はなぁ。いつも、まぎらわしいんだよな。

 期待するじゃないか。

 それで、あとでガッカリする。


 見つめていると、ワレスは逃げるように、自分のベッドにもぐりこんだ。


「隊長」

「ああ?」

「——おやすみなさい」

「ああ……おやすみ」


 ベッドのなかからワレスは、ハシェドをのぞきみる。


 怪しまれただろうか?

 気づかれてはいけないのに。

 この想いは隠しとおさなければ……。



 これは三人称多視点です。一場面のなかで、ワレスさん、ハシェド、両方の視点を描いてます。

 まず、ワレスさんから始まり、目がさめたとこでハシェドに。そのあと、またワレスさんになってます。

 心情にも両者、入りこんでる。


 読んでて、混乱しましたか?

 ワレスさんのつもりで読んでたら、ハシェドになってたぁー!とか思いましたか?


 たぶん、上記の書きかたなら大丈夫だろうと思います。

 混乱しにくい細工してますんで。


 ん? どんな細工かって?

 んんー、それは次回に続きます。説明のほうが長いんで、いったんエピソードわけないと4000字超えてしまう……。


 よくこのエッセイのなかで、多視点での視点人物の切りかえは場面ごとがいいですよと言ってるんですが、この例文では、あえて短いスパンで変えたときのコツを書いてます。


 ちなみにストーリーはわかんなくていいですよw

 これ、『墜落のシリウス』シリーズのサポ特だったので、基本的にシリウス本文を読んだ人しか読まないことを前提にした例文なので。

 まあ、読者サービスで書いたオマケの文章ですよね。


 では、引き続き説明へ、どうぞ——

    


    


    


    

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