一人称って難しいの?
さて、先日、一日のうちに三人の人が一人称について近況ノート書かれてました。なんか、たまに流行りの話題ってありますよね。
そのなかの一人が、一人称は三人称より難しいって主旨のことを書かれてたんですよね。
え? そうかな? 三人称のほうが難しいけど。一人称で視点狂うことないし……と思ったんですが、よく読むと、どうやら、視点の乱れのことじゃなく、人称での文体のことらしい。
つまり、一人称なのに、『僕はまがりかどを折れて路地に入った。塀の上から猫が見てる。僕はじつは猫が苦手なんだ。だって、僕は猫アレルギーだから……』のように、行動などを説明する文章が入るのはおかしい。みんな、自分がふだん行動するとき、いちいち、そんなふうに頭のなかで考えてないよね? って話のようです。
まあ、いちいちは考えませんよね。その人的に言えば、さっきの例文は、こんなふうに書くのが正しいってことになるのかな?
ああ、帰りにコンビニ弁当買ってくんだった。コンビニ。コンビニ。近道。近道……。
あっ、やば。猫。
どうしよう。こっち見てる。
来るな。来るなよ?
僕、猫アレルギーなんだよな。
こんな感じ?
つまり、一人称のとき、視点人物の思考だけで表現するって意味のようだ。視点人物なのに、その人物が目で見た情報は思考とは別物だから書かないほうが自然という主張。
これ、じつは以前にも誰かがまったく同じことを近況ノートに書かれてたんですよね。同じ人だったのか、別の人かまでは覚えてないんですが。
これねぇ。たしかにその人が主張されるまんまで10万字書こうと思ったら、至難の業でしょうね。何しろ、行動や視覚的な情報がいっさいないから、何がどうしてどうなってるのかを、まったく伝えることができないからです。
上の例文だって、最初に路地裏の塀の上に猫がいるって書いてるから想像つくけど、いきなり下の文だけでは、猫がいるってこと以外わからない。猫は塀の上かもしれないし、道路をよこぎったのかもしれないし、もしかしたら車の下に隠れてるのかも。
まあ、そこは大事な情報でなければ、別に伝わる必要ないんで、猫が近くにいるってことだけ読者にわかればいい。ただ、重要なことを伝えたいとき、この書きかただと、ものすごく困ることになる。
とは言え、重要なことの場合、本人も思い悩むことが多いだろうから、そこは長考させればいいのかな。
「はい。かーくん。アイス買ってきたよ。いっしょに食べよ。ハーゲンダッツだよ」
「うわぁ、遊佐先輩。ありがとうございます!」
あっ……マカダミアとストロベリーチーズケーキか。両方好物。どうしよう。どっちにしようかな。うーん。迷う!
ほんのり甘酸っぱいストロベリーチーズケーキもすてがたいし、マカダミアは僕のなかでハーゲンダッツの王様だし……ま、迷うぅー。
あっ、でも、待てよ。ストロベリーチーズケーキは期間限定だ。今しか食べられない! よし。決めた。ストロベリーチーズケーキだああああああーッ!
「じゃ、これ、ください」
「はい。マカダミアね」
「えっ?」
「えっ?」
「あっ、いや、はい。マカダミアです。ナッツはキングです……」
「よかったぁ。ストロベリーチーズケーキが一個しか残ってなくて」
まあ、こんな感じですよね。どこも重要じゃなさそうな内容でしたが、たとえば、このアイスの片方にだけ毒が混入していて、迷ったせいで助かった、となれば重要ですからね。
とは言え、この調子で最初から最後までは、やっぱりムリがある。複雑な人間関係とか、なんならヒロインの容姿だって、見たまんま頭のなかでは考えないって言いだしたら、書けないし。
ああ、遊佐先輩。
色白ほっそり、小顔でやや栗色がかったゆるふわ巻きのロングヘア。パッチリ大きな目元と愛嬌あるアヒル口だ。全体的に一般の女性にしては、かなり整ってるほうだと思う。ひじょうに可愛い。黙っていれば。そう。黙っていれば、だ。
とか頭のなかで考えだしたら、ちょっと、こいつ、ヤバイと思いますよね?
じゃあ、じっさいにこんなふうに思考しながら周囲のものを観察しないかと言えば、そうでもないはず。日常生活のなかでも、注意をはらって行動してるときは、けっこう言葉にして考えてませんか?
たとえば、初めて行く場所で迷わないようにしっかり道や風景を見てるときとか。
えーと。ローソンがある交差点を右にまがって、五十メートル歩いたさきに郵便ポストが立ってて、そこのビルの六階……あれ? ローソンだっけ? セブンだっけ?
とかね。
好きな人の着てる服とかは、細かいところまで見てしまうだろうし。
人間って何も考えずに、ぼうっとしてることもあるけど、考えてるか考えてないかの比率で言えば、意外と考えてる時間のほうが多いはず。
なので、そこそこ視覚的描写をまぜこみながら、説明くさくないていどに情報を盛りこむことはできる。
でも、そこは一人称。三人称と同ていどの情報量を語れるかと言えば、やっぱりそうじゃない。
じゃあ、どうすればいいのか?
解決策としては、語らせる、または綴らせる、なんじゃないですかね?
どういうことかと言うと、主役が自分の経験を誰かに語っているてい、または主役が手紙や日記などで体験談を書いてるていにする。
自分ではわかってることでも、誰かに説明するためには、順序立てて話そうとするじゃないですか。自分は知ってて当然のことでも、相手が知らないと思えば、丁寧に説明する。
あのさ。遊佐先輩って知ってる? めっちゃ可愛いよね。メガネがオタクっぽいんだけどさぁ。メガネ外したら美少女系だよね。色白、茶髪ゆるふわ巻きで、目元パッチリで……。
と、やりだしても、ぜんぜん不自然じゃない。
友達でも誰でもいいんです。最初の設定として、誰かに語ってるということにしてしまう。理由はまあ、なんでもいいんですよ。語らせるためだけの理由なので。
手紙や日記なら、さらに詳細な描写を入れてもかまいませんよね。ふつうに『僕はまがりかどを折れて路地に……』ってやってもいいんです。文章に書き記すていなんだから。
そういえば、ぐうぜんなんですが、僕の書いた一人称の話って、ほとんど主役が小説を書いてる設定なんですよね。
今、連載中の『ガラスの人魚姫』も、ユーベルの手記、タクミの手記、エピローグに該当する手記、という形式になってます。
『東堂兄弟の冒険録』なんかは、まんま小説を書いてるという設定。
とくに狙ってたわけじゃないんですが、勘ですかね。
語らせるか、綴らせる。
そうじゃなければ、不自然じゃないていどに、うまくごまかして説明する、しかないんじゃないですかねぇ?
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