しつこく、まだ書く視点!2



 三人称一視点で、視点人物以外のキャラの内面を描くコツ。


 これは視点のコツであると同時にキャラの立てかたのコツでもあります。


 けっきょく、なんで主役以外の人物の心情や見たものを書かないといけなくなるかと言えば、その人物の魅力を高めたいからです。


 主役が好きな女の子、つまりヒロインがどんなふうに可愛いのか、美人なのか、キュート系なのか、背は高いのか低いのか、大人っぽいのかロリなのか。黒髪? 茶髪? 金髪なのかピンク髪なのか。目の色は青なのか赤なのか、シンプルに黒なのか。

 などなど、外から見える特徴は主役の視点で書けます。

 立ち居振る舞いや癖、話しかた、声のトーン、服のセンス。好みの食べ物、好きな音楽、ずっと続けている習慣、家族構成、得意な教科、苦手な教科。将来の夢。

 そういうものも主役を通して知ることができます。


 でも、主役の耳目を通しただけでは、どうしても語れないものがありますよね。それが、ヒロインの本心。心のなかで思ってる思考。


 マンガはページ数が短いので、そのなかにおさめるために、視点をひんぱんに切りかえてモノローグを多用するなどして、そのへんを補っています。

 が、それを小説でやろうとするから視点がグチャグチャに……。


 じゃあ、どうやって主役固定の三人称一視点の小説で、ヒロインの言葉には出さない心の声を表現したらいいのか?


 具体的なコツはあとで書くんですが、そもそも、なぜ、ヒロインの本心を書きたいのか?

 それは、ヒロインが表で見せている顔と、心で思っていることが違うからですよね?


 そう。ギャップですね。

 主役を嫌いと口では言ってるけど、ほんとは好き、気になってる、とか。あるいは、人に嫌われるようなことばっかりしてる変な子と思われてるけど、ほんとはその行動には、こんな理由があった——というような。

 そこを描ききれれば、ヒロインが格段に魅力的になる。だから、みんな書きたいわけです。

 そう。心の声は、外面と異なれば異なるほど、読者に強い印象をあたえる。


 逆に言えば、たいして心に残らないようなことは、逐一、ヒロインの内面まで描かなくてもいいんです。ヒロインの心情を主役と同じほど丁寧に描きたいのなら……まあ、書きなれてきたならヒーローとヒロインのダブルキャストで、交互にそれぞれの視点にすればいいんですが、今は初心者のかたのケースですので、ヒーローかヒロインか、どっちを主役にしたいか、よくよく考えることですね。最初は欲張ってはいけません。どっちかを選んで、片方は切りすてましょう。


 さて、じゃあ、いよいよコツ。


 ヒロインのちょっとした言葉くらいなら、ちょくせつヒロインに言わせなくても、伝聞形で充分、ドキッとさせられます。

 たとえば、ヒロインがその友人と話しているところに、ぐうぜん通りかかって、会話の内容が聞こえてしまった。

 これはヒロインが友人になら話せるていどの内面までですね。

「あのね。わたしね。じつは最近、ちょっと困ってることが……うーん、やっぱりなんでもない。ごめんね」とか、意味深に終わらせて何かあると匂わせたり。


 もう少し深刻な内容で、友人にも話せないことなら、捨て猫や捨て犬、ペットなど、動物やぬいぐるみなどに、ヒロインがこっそり秘密を明かしているところを、ぐうぜん聞きます。あくまで、ぐうぜんです。不自然にならないように気をつけて。


 ヒロインが友達に送るつもりで、間違ったラインやメールを送ってきた。噂で聞いた。ヒロインの落としたものを拾った。などなど、シチュは考えられます。


 とは言え、そんなにぐうぜんばっかり起こらない。そのときには、ヒロインの親友に代弁してもらうとか。

「なに言ってんの? 萌香(ヒロイン)がなんのために、あんなことしてるか、あんた、知らないの? だから、あんた、嫌いなんだよ。あんたが好きな人に『好き』って言われたら、カエルになっちゃう呪いにかかってるからじゃない!」とかね。


 就寝中、高熱で意識がない、などのヒロインが本心をポロリってのも、よくある手ですが効果的。


 あとはファンタジーなどの場合、都合よく魔法ってものがある!

 ほんとは言いたくない秘密や本心をベラベラしゃべってしまう魔法にかかってしまうとか。こういうとき、泣きながら秘密を暴露してしまうと、ヒロイン、可愛いですよね。泣いたり、自分の口を抑えようとしたり、とりみだしたり、真っ赤に赤面したり、ほんとは言いたくないのに言ってしまう感を出すわけです。ギャップです。ギャップ。ギャップは萌えです。


 けっきょく、演出法なわけです。

 いかに効果的に、ヒロインの本心や秘密を読者に対して暴露するか。

 ちょっとずつ匂わせて、最後にドカンと明かしましょう。


 匂わせるときは、仕草で充分。

 主役と話しながら笑ってるのに、別れぎわにちょっと目を伏せた……とかね。


 あとで秘密が明るみになったとき、読者が「ああ、そのせいだったのか。あのときも、このときも、みんな、それであんな行動してたんだ」と納得できれば、それでいいんです。

 作品が進行しているリアルタイムで、その都度、ヒロインの心情を入れる必要はまったくないんですね。


 演出法さえ考えれば、10万字読み切りていどなら、主役視点のみで行けます。


 ただこの方法では、主役がいない場所でのヒロインの経験を描けませんよね? それはヒロインの内面的なことじゃないけど、どうしても主役がいない場面が書きたい……。

 ヒロインがさらわれる場面とかね。事件的なやつ。


 そんなときは、いよいよ、三人称多視点にならざるを得ません。

 多視点のコツは、以前から言っているように、場面ごとに視点人物を切りかえる。

 カクヨムで言うなら、視点人物が変わるところでエピソードを切って、別の場面として書くといいです。


 そのときのコツ。

 視点が変わると、読者は一瞬、誰の視点なのかわかりません。わからないまま読み進むと混乱します。

 ずっと主役のつもりで読んでたら、「あっ! ヒロインのほうだった!」とかになって、そのエピソードの頭から読みなおさないといけなくなったり。


 コツは、視点人物を変えたら、変わったんだということが一刻も早く読者に伝わるようにすることです。

 舞台が変わったなら、現在地、今の時間などをすぐに説明し、視点人物の名前をなるべく文章の冒頭に入れる。


 たとえば、

 放課後になって、萌香は一人で土手沿いの道を歩いていた。曇天の空は今にも泣きそうな萌香の心を表しているかのようだ。

 とエピソードの頭に書けば、誰がどこで何をしているかが、最初の数行を読んだだけでわかる。


 場面転換して視点人物が変わったときは、頭の二、三行までに“誰がどこで何を”がわかるように書けば、読者にわかりやすいです。

 ただし、クライマックスに主役と魔王が一騎打ちして、共倒れになったあとの場面転換。生き残ったのがどっちなのかわかりにくくして、読者をハラハラさせたい、などの特別な場合は例外です。


 視点のコツは以上ですかねぇ。

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