ラスボスなみに手強いやつ4
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ここから、上級編。
ここまで来たときに、僕の話(とくに長編)をたくさん読んでくださったかたは、みなさん、きっと、首をかしげておられるでしょう。
あれ? 東堂さんの話って、一人称と三人称、両方まぜこぜで書いてなかったっけ?
あるいは——
うーん、東堂さんの三人称って、なんか、心情が地の文で長々、書いてあったような?
はい。そうです。両方やってますよw
それには、さらに説明が必要なんですけどね。
まず、一人称と三人称をまぜた文章について。
『アントリオンの定理』など、東堂兄弟シリーズ、そして、最近連載中の『ローズガーデン』が、これにあたります。短編では『海の月』なんかが、そう。
まぜてはいけないってことになってますが、近ごろは紙本のプロ作家さんも、この書きかたをされているかたがいます。
主役にあたる人物が視点のときには一人称を用い、それ以外の人物の場面を三人称で書く。そういう書きかたです。完全な三人称だけにするより、親しみやすく、主役がいない場面を書けないという一人称の弱点を補った手法になっています。
これのコツも、人称を変えるときは場面をわけるってことですね。
問題は、もう一つのほうです。
三人称なのに、心情にふみこんでいる書きかた。
こういう書きかたのことを、自由間接話法というんだそうです。
じつは、この言葉じたいは、僕もつい最近に知ったんですが、技法はずいぶん前から使ってました。僕は自分で勝手に“心情にふみこむ神視点”と言っていました。なにしろ、独学なもので。
咲子が意識をとりもどすと、彼が血みどろで倒れていた。彼の死体に馬乗りになって、肉をむさぼっているのは、人型の獣だ。
咲子は泣きじゃくった。
絶望で目の前が真っ暗になった。
これが、三人称一視点自由間接話法です。
心情もダイレクトに書けるし、最強の人称と言っていいでしょう。プロ作家さんは、ほとんど、この書きかただと思います。
これを多視点でやれば、登場人物全員の心理にふみこむ神視点になるわけです。
ところで、ジゴロ探偵シリーズなど、ワレスさんの話や、出門さま、タイプJなどを読んでくださったかたは、気づかれたんじゃないでしょうかね?
私が読んだワレスさんの話は、これとも少し違う書きかただったような……と。
そうなんです。僕がふだんしてる書きかたは、三人称一視点自由直接話法というやつなんです。とくに、ワレスさんの話では、それが顕著ですね。三人称の地の文に、一人称のようなセリフが、ちょくせつ入ってる書きかたです。
上の例文をこれで書くと、こうなります。
咲子が意識をとりもどすと、彼が血みどろで倒れていた。彼の死体に馬乗りになって、肉をむさぼっているのは、人型の獣だ。
なんなの? こいつ?
なんで、あたしと彼が、こんなめにあわなきゃいけないの?
咲子は泣きじゃくった。
絶望で目の前が真っ暗になった。
これですよね。いつもの僕の文章。
つまり、僕は自由間接話法と自由直接話法をまぜた書きかたをしてるようです。話によっては、さらに三人称多視点になるので、表現は幅広くなります。
ですが、最初から、これを書けるかたは、なかなかいないと思います。僕も完全にマスターするまでには、けっこうな年数がかかりました。
そうとうに書きなれてからチャレンジされるといいでしょう。
利点は、もちろんありますよ。
内面の描写が丁寧にできることですね。
一人称と同じほど心情を描けるので、読者に感情移入してもらえる。
ただ、視点を乱さずに書くのが難しいという以外にも、マイナス面がありまして。
人によっては、この文体を受けつけないかたがいます。
三人称に一人称の文章がまざってるのは、おかしいですと言われたこともありますし、僕の話はキャラが立ちすぎてると言われたこともあります。
自由直接話法はプロも使いますが、知らない人から見れば、人称が混在してるように見えるんでしょう。視点のマイノリティではあります。そもそも、日本に本来はない外国の文法ですし。
キャラが立ちすぎてるというのは、たぶん、この書きかただからですね。地の文に心理面がガンガン入ってくるわけですから、それはまあ、キャラの主張は強いです。キャラとの距離感が近すぎるんでしょう。
でも、多くのかたは、キャラクターが魅力的と言ってくださいます。好き嫌いがハッキリわかれる文体なんですね。
ここまで来ると、個性的な文体、表現法にかかわってくるので、もう趣味の問題としか言いようがないです。
みなさんも将来的には、自分の文体を見つけてみてください。
とくに初心者のかたは、後半、理解不能だったと思います。今は、視点のことは忘れてください。とりあえず書こう!
そして、一年後くらいにでも、力がついてきたと感じたとき、「そういえば、東堂さんが、なんか言ってたな」と、もう一度、この章を頭から読みなおしてみられればと思います。
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