ラスボス攻略法1
ほんとは前章で終わりにするつもりだったんですが、視点は難物ですので、オマケで補足しておくことにします。
とくに、みんなが苦労する視点の乱れについて。
多少、耳の痛い講座になるかも。
でも、上達するためには必要な通過儀礼なんですよ。
あるていど書きなれてくると、視点のなんたるかを頭では理解できています。一人称と三人称の違いも、よくわかっています。
文章を書きながら、今、自分が誰の視点で書いているかも、ちゃんと意識しているでしょう。
自分では、視点は完璧と思っているかたも少なくないはずです。
それなのに、僕がしつこく、視点は難しいよ、苦労するよと言うのはですね。自分では完璧に書いてるつもりなのに、じつは正しく書けていないかたが、意外と多いからです。
僕もその時期があったので、みなさんの気持ちがよくわかります。
中級から上級にかかるころ。
小説じたいは、べらべら書けるし、ストーリーの組みかたもこなれて、読者には「おもしろいよ、これ最高!」と言ってもらえる。
自信もあるし、プライドもあるし、自分の話が面白くないなんて絶対に言わせない、そう思うころです。
このくらい書けるようになって、うまくなっても、それでもまだ、視点の乱れはひそんでいます。
そして、視点の乱れって、自分では気づきにくいんですが、第三者が読むと、ひとめで、なんか変だなと違和感をおぼえるんですよね。
中級くらいになると読解力は養われているので、他の人の作品は冷静に、かつ公正に見られます。が、自分の作品は、必ずしも冷静には見られないものです。親の欲目ってやつですね。
何年かたってから読みなおしてみて、うわっ、なんじゃこりゃ、ヘタと思うことはあっても、書きあげてすぐには思い入れもあるし、そんなふうには見られません。
ここ、まちがってない? とか、ここをこうしたほうがいい気がしますなど、第三者に指摘されて腹が立つことがあるかも。
でも、ここで相手の意見を聞き、冷静に自分の作品を見ることができるかどうかで、その後の上達に差が出てくると思います。
もちろん、あきらかに難癖としか思えないような誹謗中傷を鵜呑みにする必要はありません。なかには、そんなかたもいますからね。
ただ、相手が作品をよくしたいという思いで正直に言ってくれた言葉には、聞き入れる耳を持つべきです。
相手も修業中の場合、どっちの意見が正しいのかよくわからないこともあるでしょうが、自分の作品について見直すきっかけになれば、それだけでも何か得るものがあるはずです。
そのときには答えが出なくても、小説を書き続けていれば、いつか、「ああ、あのとき言われたのは、こういうことだったのか」と、答えの見つかるときが来るでしょう。
——って、なんか、話が重くなってしまいましたがw
まあ、自信は必要だけど、過信はするなってことですね。
では、話を視点にもどして。
あるていど書きなれてくると、ほとんどのかたは三人称を書きだします。それも、主役にほぼ視点を固定した、三人称一視点ですね。無意識に三人称一視点自由間接話法を使っておられるかたが、けっこう多いです。
このときに、失敗しやすい乱れをいくつか、あげていきます。
たぶん、厳密に三人称の定義などを知った上で書いておられるかたは少ないので、一視点のはずなのに多視点になっている——これは、前章でも指摘した乱れです。
三人称一視点の場合、この乱れは、すごく目立ちます。
さっきまで主役の視点のはずだったのに、なぜか一瞬だけそれて、となりの人から見た主役の外見が描写されていたりするんですよね。
ふん、犯人はあせったんだなと、
こんな些細なミスを犯すなんて、あの用意周到な犯人らしくない。
そう思うと、八重咲は笑みがこぼれるのを抑えることができない。八重咲が急に笑いだしたので、
「龍郎さん。行きましょう」
「え? 行くって? どこへ?」
「それは、ついてくればわかります」
八重咲は、このとき、勝利を確信していた。
犯人が、まさか、あんな一手を用意していたなんて思いもしなかった……。
これなんかは短い場面だけなので、それほど乱れているように見えませんが、物語の最初から、主役の八重咲の視点に、ずっと固定していた場合を想像してください。これまで八重咲だったのに、200ページで急に、龍郎の視点がまぎれこんでくるんです。
え? なんで? と思いますよね。
こういう場合は、セオリーどおり、場面展開して、八重咲と龍郎の視点をわけましょう。
場面で視点を一人に固定するという基本を知らないと、この間違いをしやすいです。
ただし、こんなふうに、しょっちゅう主役級の数人で視点が動く書きかたを最初からしていれば、あまり違和感はありません。
その場合は、視点が切りかわかったことが読者にわかりやすいように、注意して書けば問題ありません。視点を変えるときは段落を変える、会話をあいだにはさむなど、工夫をしましょう。
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