ラスボスなみに手強いやつ3
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物語の最初から最後まで、一人の人物に視点を固定する三人称を、三人称一視点(三人称一元視点)と言います。
この書きかただと、主役が誰かわかりやすいので、一人称と同様に、読者に感情移入してもらいやすいです。
仮に、どうしても、このシーンだけは主役以外に視点を移したい、というとき、さきほどのベーシックな神視点を入れれば、違和感なく話をまとめられます。
また、神さまはウソをついちゃダメと言いましたが、主役に視点を固定した場合、主役の感覚として、真実ではないことを書いてもいいのです。ミスリードに使えるので、とても便利。
小説を書きなれたころに、オススメの書きかたです。
これをもっと複雑にすると、三人称多視点になります。さっき言った、場面ごと、段落ごとに視点人物を変えるような書きかたですね。
多視点はよほど書くことになれて、視点の切りかえを自在にあやつれるかたでないと、読者には、ただ視点が狂っているようにしか見えません。かなり難しいので、なれないうちは、やめたほうがいいでしょう。
視点が乱れると言われているかたの多くは、無意識に、この多視点を使ってしまっています。
さっきまで、咲子の視点だったのに、急に彼が、ヤダよぉと言いだし、そこへ徹が現れて、じつは獣はおれなんだよなと、ほくそえみだしたら、読者は何がなんだかわからなくなって、ついていけません。
咲子は、みるみる蒼白になっていく。
赤く光る目が、じっと咲子を見つめていた。
(ヤダ。何、あれ……?)
彼は思った。
(おどろいてやがるな。獣の正体が、おれだと知らず)
咲子は暗闇から現れた徹を見て、その場で失神した。
ほらね? わけわかんないですよね?
短いあいだに視点人物が変わりすぎてるからです。しかも、なんの説明もなく。
もちろん、これを視点の狂いなく書くこともできます。
咲子は、みるみる蒼白になっていく。
赤く光る目が、じっと咲子を見つめていた。
そのようすをながめていた咲子の彼は、思わず心のなかでつぶやいた。
(ヤダ。何……あれ?)
二人は硬直して動けない。
そのとき、誰が考えただろうか?
獣の正体が、徹だということを。
おびえあがる咲子と彼を見て、徹はほくそえんだ。
(おどろいてやがるな。獣の正体がおれだと知らず)
徹が暗闇からとびだすと、咲子は悲鳴をあげて失神した。
と、こうです。
前の例文で足りなかったのは描写ですね。誰が、何をしたか、考えたのは誰なのか。
今は、心情に立ち入らない神視点で書いたので、単に描写が足りないだけですが、とくに視点の狂いが起こりやすいのは、ここに心情をまぜて書かれているときです。
咲子は恐怖のあまり、血の気がひいた。
赤く光る目が、じっと咲子を見つめている。
ヤダ。何、あれ……?
咲子の彼は恐ろしいのを通りこして、ぼうぜんとした。
おどろいてやがるな。獣の正体がおれだと知らずにと、徹はほくそえんだ。
目の前にとびだしてきた徹を見て、咲子は意識が遠のくのを感じた。
カオスですね……。
こんなふうになるので、心情を書きこむ三人称は極力さけるほうがいいです。
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